第36話 資料室
竜也さんに案内されてダンジョン協会の中へと足を踏み入れる。中に入ると、いつぞやに見た光景が広がってくる。広さは先程居た図書館と同じくらいだ。
向こうは質素な見た目であったのに対してこちらはかなり派手で、壁にかかっている絵と言い赤いじゅうたんが敷いてある廊下と言い、どこか洋風な宮殿の内装を想起させる。
「ダンジョン協会には関係者もしくは招待された人しか入れないんだ。だからここに来ると有名人と会うことが多くてね。っと、噂をすれば何とやらだね。ほら、あの人見えるかい? 吉野風雅さんだよ」
竜也さんに説明を受けながら歩いていると、ちょうど廊下の先の方で茶髪の男性が扉の中へと入っていくのが見える。あの人が吉野さんと言う人らしい。そう言えばテレビで見たような。
「最近話題になった大規模ダンジョン『摩天』で功績を立てた協会所属の探索者の一人さ。かの有名な如月劉全の相棒としても知られる超実力派だよ」
「へえ~、あのキャプテンの相棒なんですね」
美穂ちゃんがそうやって相槌を打つ。美穂ちゃんは基本的に探索者についての知識は疎い。ただ、そんな美穂ちゃんでも流石に国内最強の探索者の名前は知っているらしい。
「そうなんだ。もしかしたらキャプテンの姿も拝めるかもしれないね」
そう言うと目をキラキラと輝かせる竜也さん。正直、あまり興味のない私は必死で笑顔を作って聞いている感じを醸し出していると横から美穂ちゃんがスッと耳元へと口を近づけてくる。
「竜也さんね。実は大の探索者ファンなのよ。だから多分、これ以降ずっとこんな感じだと思う」
「へ、へえ。何だか意外だね」
コソコソと私達が話している間にも竜也さんがすれ違う探索者さんの説明を次から次へと話している。よっぽど探索者の事が好きらしい。
「いや~、今日は運が良いね。まさか炎帝にも無双剣にも会えるなんて」
恍惚とした表情を浮かべながら竜也さんがそう話すのを愛想笑いで流す。確かに凄いんだろうけどあまり分からない私達からすればそこまでの熱に浸ることが出来ない。
ていうかこの人、ここに来た目的忘れてないよね?
「さてと、一人で盛り上がっちゃってごめんね、美穂ちゃんに茉奈ちゃん。着いたよ、ここが僕が話してた資料室さ」
そう言って竜也さんが一つの部屋に立ち止まり、扉を開ける。扉の中には夥しい程の資料が棚の中に収納されていた。
「うげ、今からこの量を調べるの?」
「いやいや、流石にそれは無理さ。知りたいのは魔物についてなんだろう? 魔物についてまとめられてるのはあっちの端っこの列から二列だけさ」
二列だけとは言うものの一つの棚にこれでもかというほどの資料が詰め込まれている。それも大きさで言えば縦三メートル、幅十メートルくらいある棚が一列に二つあるのだ。
調べる棚の数は合計で四つ。そこから魔物について探すのがどれほど困難な事か、想像に難くないだろう。
「取り敢えず手当たり次第に探してみますね」
「私も手伝うかー。今日一日、茉奈には世話になったからねー」
「美穂ちゃん……ありがとう」
私は何て良い友人を持ったのだ。こんなに大変な作業を興味もないだろうに手伝ってくれるという美穂ちゃんにひとりでに感動する。これはまたどこかでお礼しなくちゃいけないな。
「じゃあ僕も一緒に探そうかな」
「え、竜也さんも良いんですか?」
「うん。だって僕が居ないと見つかったら君達追い出されちゃうからね」
「そんな……ありがとうございます」
今日会ったばかりだというのにダンジョン協会に案内してくれた上に一緒に探してくれるという竜也さんにも感謝を告げる。やっぱり良い人の周りには良い人が集まってくるもんなんだな、と美穂ちゃんの方を見ながら思う。
「じゃあ取り掛かる前にどんな魔物を探してるのか教えてくれる?」
「実は……」
「AZUSAとキャプテンの声を奪った謎の魔物か。確かテレビでもちらっと映ったよね。ホントにちらっとだけだけど」
「やっぱりねぇ」
二人に探している魔物が大規模ダンジョン『摩天』で遭遇したあの謎の魔物であることを告げる。美穂ちゃんは私の探し物が何なのか分かっていたようであった。
「でも新種の魔物って言う話じゃなかったの?」
「そうだけど……手がかりが無さ過ぎるからまずは本当に新種なのかどうかってところから探そうと思って」
もしも新種じゃなければ情報を手にすることが出来る。配信でかなりの視聴者さんが見ていたけど誰一人として分からなかったから新種の可能性は高いけど、それでも摩天から居なくなっている現状はこうして先人の知識から探し出すしかないのだ。
「まあそうだねぇ。探す範囲を人型の魔物に絞るとしたら……」
そう言いながら竜也さんが資料室の中を歩いていく。
「この棚全部だね」
そうして竜也さんが示したのは魔物について書かれている棚の四つ目の棚を指さしてそう言う。かなり絞られはしたもののここからしらみ潰しに探すのにはかなりの時間がかかる。
「日が暮れる前に帰りたいし早速手分けして始めようか」
そうして私達は頭が痛くなるほど大量の資料を紐解いていくのであった。
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