第35話 モデル事務所の先輩
図書館に入って美穂ちゃんと二手に分かれて本を探す。私は魔物関連の本を探しにダンジョン探索のコーナーへと来ていた。
めぼしいのは二つくらいかな。魔物図鑑って奴と魔物大全って奴。この図書館には読むことのできるスペースが三か所しかない。取り敢えずこの二冊を抱えながらそのうちの一か所へと腰を下ろし、読み進めていく。
まずは魔物図鑑を開いてみる。中には昆虫図鑑とかみたいに魔物の写真が貼ってあり、これは何という魔物で云云かんぬんと説明が施されている感じだ。
魔物大全はその説明が省かれており、ただ名前が連ねてあるだけっぽい。魔物図鑑より収録されてる魔物の種類が多い分、あんまり詳しくは調べられない感じだ。
しばらくの間、二つの本を見比べたりしながら読み進めているとそこにちょうど文庫本を読み終わったのか手に持っている本を仕舞いに行こうとしている美穂ちゃんが様子を見に来る。
「どんなの選んだの……って魔物? もしかしてAZUSAの声を奪った魔物について調べてるの?」
「うん。そうなんだけど……どこにも書いてないかも」
やはり新種の魔物なのだろう。誰も知らないマイナーな魔物という訳ではなく本当に突然発生した新種の魔物。だとしたら図書館には手掛かりがあるはずがなかった。
「ごめんね美穂ちゃん。無駄足になっちゃったかも」
「良いよ良いよ。奢られてる身で文句はないわよ。てか私はあんまり無駄足じゃなかったし」
読みたい本がちょうどあったしね、と続けながら本を仕舞いに行く美穂ちゃん。その後ろ姿を見守りつつも私も仕舞いにいこうと席を立ちあがり、魔物図鑑と魔物大全を元の場所へと戻しに行く。
そうして再度、美穂ちゃんが居る場所へと戻ると、そこに美穂ちゃんともう一人知らない男性が一緒に居るのが見えた。
「美穂ちゃん、その人は?」
「私が所属してるモデル事務所の先輩。何か偶然通りがかったんだって」
「どうも初めまして。
「初めまして姫野茉奈です」
眩しい笑みをこちらへと見せつけてくる。モデルというだけあって、芸能人負けしないほど整った顔にスタイルも良い。人気があるんだろうなぁとぼんやりと思いながら私も挨拶を返す。
「竜也さんに茉奈が探してる本をちらっと話したら良いところ連れて行ってくれるんだって」
「え、ホント?」
「うん。まあ取り敢えずここで立ち話するのは迷惑かかるし、外に出て話そうか」
竜也さんにそう言われて私達は図書館を出る。
「それで良いところってどこの事ですか?」
図書館を出て少し歩いた後、私は竜也さんにそう尋ねる。
「実は僕、ダンジョン協会の人間でね。協会内の資料室に自由に出入りすることが出来るんだ。さっき話した時、茉奈ちゃんが魔物について調べてるって聞いたからね。魔物関連はそこが一番強いと思うよ」
「それって私達も入れるんですか?」
「僕が居れば入れるさ。そこは安心してくれ」
「あ、ありがとうございます!」
まさかの収穫である。偶然通りがかった美穂ちゃんの知り合いが偶然私の探している情報に一番詳しそうなダンジョン協会の人間だなんてどんな確率しているんだろ。
「ていうか思ったんだけど茉奈ちゃん可愛くない?」
「へ?」
「これでモデルとかやってないんでしょ? 勿体ないよ」
「やっぱり竜也さんもそう思いますよね!」
魔物の事を調べられるとウキウキしていたらいつの間にか私の容姿についての話になっている。何だこれ。どういう反応すればいいんだ。
「可愛くなんてないですよ」
別に容姿は悪いとは思わないけど良いとも思わない私は完璧にお世辞であろうと思い、やんなりと否定する。実際に男子から恋慕の思いを寄せられた記憶もないし。
「いやいやそれで可愛くないなんて言ったら大部分の人間が嫉妬で怒り狂うよ」
「茉奈。あんたもうちょっと自信を持ちなさい。絶対可愛いんだから」
二人からそう言われて恥ずかしくなった私はそんなことないです、と言って視線を逸らす。何でいきなりこんな話になってるの。自分よりも圧倒的に容姿が良い二人からそう言われて悪い気はしないけどあんまり言われ慣れてないから恥ずかしくて美穂ちゃんみたいにうまく受け流すことが出来ない。
「これ以上言ってあんまり困らせちゃうのもあれだしこの辺にしておくか。せっかくだからウチの事務所の社長に推薦しとこうかと思ったけど」
「あっ、竜也さん。それは無理かも。茉奈、めちゃくちゃ忙しいから」
私の代わりにモデル事務所への入所をスッと断ってくれる美穂ちゃん。
「なんだそれは残念だ……っと言ってる間に着いたよ」
そう言って竜也さんが大きな門扉の前で立ち止まる。思えば表彰式の時に一度だけ来たけど、あの時はほとんど休憩室に居たから中なんてあんまり見てなかったし実質初めてって言ってもいいかも。
「ここがダンジョン協会さ」
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