第31話 AZUMANA

 AZUSAとマナ改めMANAのユニット『AZUMANA』を結成することが事務所シャーロックから発表された日、全国がその話題で持ちきりとなった。


 AZUSAと言えば最近テレビの生放送での事故により声を失ってしまったアーティストとして話題になったばかりである。まだ若く芸能界のトップに上り詰めるほどに才能があったというのに悲劇に見舞われた事で世間では同情の声が寄せられていた。


 一方でマナと言えば歌姫という枕詞がすぐに思いつくほどに新進気鋭のアーティストである。それこそ新世代の中では最も勢いのあるシャーロック自慢のアーティストである。


 その二人がユニットを組むというのは当然多くの人の間で話題となり、その日のSNSでは早々にトレンド入りをするほどであった。


『AZUSAと歌姫マナがユニット組むってマジ?』


『状況的にAZUSAが曲を作ってマナが歌うって感じなのかな?』


『推し同士がユニットを組むなんて私得すぎ!』


『AZUSAの今後が心配だったからマナちゃんと組んで一安心だね』


 コメントの多くはAZUMANAの結成に肯定的な意見ばかりであった。しかし、一部ではそれをあまりよく思わない者もいる。


『マナは一人だったから特別感があったんだよなー。AZUSAと組ませるなんてマナにメリットなさすぎる』


『以前からマナってAZUSAの話ばっかりしてたんだよね。あんまり私のAZUSAに近づかないでほしいと思ってたらこれだよ』 


『絶対事務所が押し付けたでしょ。AZUSAの仕事がなくなるからって』


『マナの魅力は色んな作曲者さんの曲を表現できるところにあったんだよね。作曲者がAZUSA一人になったらそのよさ消えちゃうけど大丈夫?』


 AZUSAに対する意見とマナに対する意見の両方が見受けられる。それはある種、仕方のないことであった。新しいことを始めれば最初は批判という物が付きまとうものだ。


 そこから始まる物語を誰も、それこそ本人たちですらまだ知らない。



 ♢



「……という事で発表にあった通りですけどAZUSAさんとユニットを組むことになりまして。AZUMANAとして曲を投稿する際にはこの『マナ』のアカウントとは別に新しく作った『AZUMANA』のアカウントを使う事になると思います」


 シャーロックからAZUMANAの結成が発表された翌日、私は事務所シャーロックの配信スペースにてAZUMANAの結成についての詳細を伝えるべく配信をしていた。

 鈴木さんに確認してもらった原稿を読み終えると何か質問があるかとコメントに問いかける。


『配信はこのアカウントでするんですか?』


「配信は変わらずここでします。ミュージックビデオなりAZUMANAとしての告知なりは向こうのアカウントでしますのでどちらのアカウントもフォローしていただけるとありがたいです」


『こっちのアカウントでAZUSAが出演することはあるの?』


「それはAZUSAさんの都合もありますので何とも言えないですが、私的にはぜひ出演していただきたいですね」


 事務所シャーロックの配信スペース。つい最近、新設されたらしいけど滅茶苦茶便利だ。まず配信をするための設備が全部揃ってる。カメラも私が持っているドローンカメラよりも高性能だし、マイクはもちろんのことパソコンの機能も多分最上級だ。

 それに何より個室なのが良い。防音もばっちりで音漏れとかを気にすることないためここでご報告配信も出来る。

 まあ別に顔出しをする必要がなければ家でのんびり携帯で配信すれば良いんだけど、歌配信とか家では出来ないような配信も出来ちゃうのが嬉しい。


『ダンジョン配信はAZUMANAになってもまだするの?』


「ダンジョン配信はやりたいと思ってます。やっぱり私が有名になれたのはダンジョン配信からですし。それに楽しいですからね」


 ダンジョン探索はどうせしたいと思ってるからね。あの魔物を探し出してAZUSAさんの声を取り戻したいって思ってるし。


 それにせっかくダンジョン探索をするなら配信もしたい。一人でダンジョン探索をするより楽しいから。


『ユニットの話はどちらから持ち掛けたんですか?』


「う~ん、どっちからって訳でもないような……事務所の人が提案してくださってそれを良いですねって言った感じですかね。ごめんなさい、あまりうまく言えなくて」


 それから私とコメント欄とでのやり取りが続いていく。多くはユニットに関する質問に答えるという方式でたまに雑談を交えながらその日は配信を終えるのであった。

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