第32話 国で最強の探索者
大規模ダンジョン『摩天』での生放送が終わってから一週間が経過した。摩天では相変わらず魔物がダンジョン内から出てきて外の世界で跋扈していた。
摩天が孤島であるがゆえに未だ魔物による被害が起こっていないのだろう。しかし、この状況が続けばいずれ海を渡ることのできる魔物が都市へと繰り出し、人的被害が出てくることであろう。
それを未然に防ぐために星持ちの探索者を含むベテラン探索者たちで構成された探索者パーティがダンジョン協会から派遣されることが決まり、現在、その探索者パーティが摩天へとヘリコプターにて乗り込んだのである。
「キャプテン、俺達はどっちへ行けば良い?」
「お前達は外側の魔物を倒してくれ。俺達は中の魔物を討伐してくる」
「了解」
キャプテンと呼ばれた黒髪長髪の男がそう指示を出す。この探索者パーティにて唯一の星持ちの探索者である
星持ちの中でもかなりベテランの冒険者であり、ダンジョン協会にて役職を与えられるほどにダンジョン探索において功績を挙げている探索者の一人である。
この国で最強の探索者であると認識されておりマスコミや記者などから取材が殺到するほどに有名人である。それこそダンジョン配信を始めれば200万人は確実だろうと言われるほどに。
傷の入っている左目を黒い眼帯で隠しており、風貌が昔の海賊に似ていることから周りからは『キャプテン』という愛称で呼ばれていた。
能力は『模倣』。世界中の職業が掲載されている『プロフェッション』に掲載されていない、茉奈と同じく『アンノウン』の職業の持ち主である。
その力は強力で、敵の力をすべてコピーできる能力だ。これまでに幾度もの戦場に繰り出した如月は優に百を超えるほどの能力を使えるようになっていた。
数々の能力を使いこなす如月に対抗できる者はこの国には存在しない。故に最強。世界でも如月に匹敵するほどの実力者はそれほど居ない。
「如月だ。ダンジョン内へ突入する。援護を頼む」
『了解』
無線で自身の部隊へと呼びかける。星持ちの探索者が如月しかいない現状、最も危険であると目されるダンジョン内の調査は如月一人に一任されていた。
星持ちの探索者でもあるAZUSAが倒された謎の魔物もまだ摩天内に潜んでいる可能性を考えればそれが当然の処置なのであろう。
他に星持ちを集めればそれに越したことはないのだが、如月以外の星持ちの探索者は世界中で仕事をしているため忙しいことが多い。故にこうして緊急事態に乗り込むのは如月だけのことが多い。
「さて、久しぶりの大仕事だ」
目の前に跋扈するのは高レベルの魔物達。一体一体だけでも対処するのに困難な魔物たちを前にして如月はにやりと笑みを浮かべると、腰に差していた刀を二本取り出す。
如月は一流の職業を持ちながら刀捌きも一流であった。手にした二本の刀を振り回して魔物たちを切り裂いていく。
上級探索者でも倒すのが難しい敵でもいとも容易く切り刻んでいくその様はまさに最強という二文字を背負っている男の姿そのものであった。
今回の目標は二階層までの魔物の掃討。いくら最強と言えど流石に大規模ダンジョンの攻略までは出来ない。そのため、今回の目的はダンジョンが暴走した原因を解消するというよりかはあくまでダンジョン外への進出を無くしてある程度の被害には目を瞑るというものだ。
「一階層目は粗方片付け終わった。二階層目に移る」
如月がダンジョンへ入ってからしばらくして一階層目の魔物の掃討が終了する。
『流石キャプテン! やっる~』
「軽口を叩くな。仕事中だぞ」
『へいへい』
軽めの口調で応答する男は如月が長年バディを組んでいる
次期如月との呼び声も高い。
『二階層目には例の魔物が居る可能性がある。キャプテンでも気を付けろよ』
「分かっている」
無線を切ると如月は二階層目へと足を踏み入れる。二階層目も一階層目とはほとんど景色は変わらない。その代わり魔物のレベルがかなり上がっている。
「どれもレベル8以上はあるか? やはりこのダンジョンは何かがおかしい」
立ちはだかる難敵の数々を前にして如月は警戒心を高める。例の魔物が居なくとも油断すれば死ぬ可能性がある。
「サンダーバースト」
広範囲に渡って高電圧の雷が降り注ぎ、魔物の体を焼いていく。それでも死なない魔物たちの前に風の力を使って飛翔するとその上に巨大な岩の槍を作り出す。
「消えろ」
冷淡に放たれたその言葉と共に巨大な岩の槍が魔物たちに向けて振りかざされる。次の瞬間、轟くほどの衝撃音を出しながら魔物の体をダンジョンの床ごと破砕していく。
「これでやっと二体か。少し骨の折れる仕事だな」
刀についた血を水の能力を使って拭い去ると次の標的に狙いを定めるのであった。
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