第30話 突然の呼び出し

「マナ、大変じゃん! AZUSAの声が出なくなったって!」


 久しぶりに学校へ登校した私の下に美穂ちゃんが凄い勢いで飛び込んでくる。そうか、私はもう事務所の人から聞いてたけど世間的には今日発表だったっけ。


「うん、そうなんだよ」


「あれ? 反応薄いな~」


「私が知ってからは時間が経ってるって言うのもあるけどやっぱりショック過ぎてね」


 AZUSAさんの声を取り戻したいと思うけど、その魔物が居るであろう摩天は現状、立ち入り禁止区域になっていて私ではどうすることも出来ないのだ。


「そうか。茉奈はその現場に居たんだもんね」


 前代未聞の放送事故。あの事件があってからというもの連日テレビ局に非難の電話が殺到しているらしい。曰く、安全管理が徹底されていない、過激な映像を生放送で流したため気分が悪いなどその種類は様々である。


 そしてその非難は私の配信にまで及んでいた。


 私がAZUSAさんを助け出すところを配信していたのを視聴者稼ぎだとして叩かれたのだ。実際にそれによって同接人数が配信サイト内で歴代一位を記録していたから視聴者稼ぎと言われても仕方ない。

 でもあの配信が無かったらAZUSAさんを助け出すことはできなかったから私には悔いはない。


「あんたも大変だね。厄介な連中に絡まれて」


「仕方ないことだと思うよ。あんまり事情を知らない人からすれば不謹慎なところを配信してる奴にしか見えないんだし」

 

 かといって別に全部の意見を受け入れるわけじゃないけど。あのときに関しては私からすれば確実に必要だったわけだし。


「AZUSA、この後どうするんだろうね。声が出せないとライブも出来ないわけだし~」


「心配だね」


 勝手にAZUSAさんの声が治るという事はないのだろう。医者が見ても喉に何の異常も見つかっていないからこそ治しようがないって言われてるらしいし。

 あの魔物をもう一度探し出して倒すしか方法がないのだとしたら……。


 そんな時、私の携帯から着信音が鳴る。画面を見ると、私のマネージャーである鈴木さんからのメールが一通届いていた。


『お世話になっております。鈴木です。マナさんにご相談したいことがあります。本日中に事務所に来て貰えますでしょうか?』


 今日中に? 結構急だな。思い当たる節としてはAZUSAさんの件についてか摩天のダンジョン暴走の件についてだけど。


「事務所から?」


「うん。何か相談したいことがあるんだってさ」


 美穂ちゃんにそう返事をしながら私は携帯に文字を打ち込む。返答はもちろん、了解を示す内容を送った。



 ♢



 大都会のど真ん中に聳え立つ大きなビル。私は今、芸能事務所『シャーロック』の事務所の前に立っていた。学校が終わって家に帰って着替えた後にすぐに来た。

 中に入り、鈴木さんが待っているであろう会議室へと向かう。


「お疲れ様です」


 会議室の扉を開けるとそこで待っていたのは鈴木さんの他に梓さんと梓さんのマネージャーである白石さんの姿があった。

 梓さん、退院してたんだ。それは良かったけど、どうしてこのメンバーが集められたんだろ?


「お疲れ様です、茉奈さん。突然すみません」


「いえいえ大丈夫です。それでどうして梓さんがここにいらっしゃるのですか?」


 私は席につくと真っ先に気になったことを尋ねる。


「それについては私の方から説明させていただきます。実はAZUSAについてご相談したいことがございまして。AZUSAの声が出ないことは知っていますよね?」


「はい」


 白石さんの言葉に私は頷く。横にはどういう訳かすまなそうな顔をした梓さんの姿がある。


「しかし、声は出なくともAZUSAには作曲の才能が有ります。そこでマナさんとAZUSAでユニットを組ませて頂かないかと思いまして」


「ユニット!? 私とAZUSAさんがですか!?」


 思ってもいなかった発言で私は驚きのあまり大きな声が出る。


「はい。AZUSAの声が出ない間、AZUSAが作った楽曲をマナさんに歌っていただきたいのです。マナさんにはデメリットの無い話だと思います。いかがですか?」


 憧れの存在であったAZUSAとユニットを組む。作曲が出来ない私からすれば泣いて喜ぶべきことだ。ただ、それをAZUSAが良しとしているのか。それが気になった。


「梓さんはそのお話に同意なさっているのですか?」


「マナさんが良ければ是非にと、そう伺っております」


「なら私の答えは一つです。AZUSAさんとのユニットの件、引き受けさせていただきます」

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