第15話 告知
「これでようやく50階層ですね」
打ち合わせから三週間が経過してようやく配信内で50階層へと到達する。最初の20階層まではかなり簡単だったのに対して21階層からはモンスターもだんだん強くなっていってかなり苦労しただけあってまだボスは倒していないけど50階層に到達できたのは自分の中でかなり大きい出来事だった。
『うおおおお!!!!』
『マジ最強!』
『この調子で50階層のボスモンスターも倒しちゃえ!』
「皆さん、ありがとうございます。皆さんが居なかったらこんなところまで攻略しようなんて考えなかったと思います」
このダンジョンがどこまで続いているのかは分からない。けど一つの節目として50階層に到達できたのは嬉しかった。
「このボス戦が終わりましたら最後に告知がありますので良ければ最後まで見ていってください」
『分かったー!』
『告知楽しみ』
『告知ってなんだろ? 収益化とかかな?』
『てかボス戦勝つ前提で草』
『まあマナちゃんなら負けないだろ』
「あはは、それはまたあとで。あっ、それと今日、登録者、百万人突破しました! これも皆さんのお陰です! ありがとうございます!」
何の因果かは分からないけど、重大な告知が控えている今日、ちょうど百万人を突破することができたのだ。これのお祝いもおいおい考えていかないといけないな。
コメント欄には沢山のお祝いコメントが流れていく。配信を始めてまだ一か月。正直、自分でもこんなに早く突破できるとは思っていなかったため驚いている。
「それでは行ってまいります」
重厚な音を立てて開いていくボス部屋の扉。中には石でできた大きな玉座のような物があり、そこに一体の魔物が鎮座していた。
『何この魔物』
『見たことない』
『角が生えてるから鬼系だろうけど』
『新種じゃね?』
『え? マジ? 新種?』
「え、コメント欄の皆さんでも分からないんですか?」
だとしたら本当に新種なのかもしれない。いつもだったらレベルが分かるからそれに合わせた立ち回りが出来ていたんだけど今回は最初から気を引き締めて戦わないと。
「取り敢えず戦ってみますね」
最初に口ずさむのはAZUSAの「雷神」。荒々しく唸るメロディはダンジョン内の静かな雰囲気を一瞬にして消し飛ばす。
至る所から雷が降り注ぐ中で、目の前のボスはピクリとも動こうとせず未だに玉座に座っている。強者であることへの驕りなのか、その態度が逆に私を不安にさせる。
私が片手を上げれば一筋の雷が迸る。両手を上げれば二筋の雷が迸る。
しかしそれでも目の前の魔物は動こうとすらしない。まるでショーでも見ている観客のように殺気すら感じ取らせることなくその場に座して私が雷を操っているのを眺めている。
地面全体に雷が迸っていく。土台はできた。後は打ち込むだけ。
地面を蹴り、魔物の目前まで飛び上がる。そうして右腕に蓄えた雷と周囲に迸る雷の力をかき集めて放つ。
『おっ、さっそく歌姫のトールハンマーじゃん』
『これは勝負あったんじゃないか?』
『これで数々のレベル8を屠ってきたわけですからね』
『開幕からクライマックスなんですけどwwww』
放たれるは極大の一撃。何もかもを貫き焼き尽くすその一撃が完全に魔物を捉えたと思ったその瞬間、目の前から魔物の姿が消える。かと思えば凄まじい衝撃が下方から加えられる。
『歌姫ー!』
『マナちゃん大丈夫!?』
『おいおいやべーぞあれ。もろ入ってる』
『マナちゃん!』
コメント欄が私を心配する声で溢れかえる。しかし、心配はご無用。雷によって強化された体で何とか受け身をとってダメージを逃がしていた。
「ごめんなさい、少し見苦しいところを見せてしまいましたね。私は大丈夫です」
吹き飛ばされたまま空中で体を捻って回転するとそのまま足先から着地する。
『あ~、ヒヤヒヤした』
『あとちょっとで通報するところだったよ』
『てか通報したところでこんなところまで助けに来れる奴なんか要るのかよ』
『居るんじゃね? 星持ちとか』
「いや流石に油断しただけですので大丈夫です。次からが本番です」
歌う曲を雷神からとある曲へと変える。その瞬間、私の周囲を眩い程の光が覆っていく。
『何この曲聞いたことないんだけど』
『わかんね』
『私も分かんない』
『俺も』
それもそうだろう。この曲は今日が初出しの新曲だ。ちゃんと配信で歌っても良いとちゃんと許可を取ってある。
「それではお聞きください。作詞作曲:AZUSA、ボーカル:マナで『反逆の光』です」
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