第14話 打ち合わせ

 三回目の配信から二日目が経過した土曜日、私は鞄を肩から提げながら私服姿で巨大なビルの前に立っていた。ビルの前にはデカデカと『シャーロック』と書かれている。


 そう、今日私はAZUSAを交えて芸能事務所シャーロックの本社で打合せをすることが決まっていたのである。昨日、メールで返信があり、交通費は出すから本社に来てくれと言われ現在に至る。


 時計は現在11時50分。打ち合わせは12時から始まるためもうそろそろ入っておいた方が良いか。でも初めて芸能事務所に入るから少し緊張する。もしかしたら他に有名人とかも来てるんじゃないかな、なんてね。


 自動ドアを抜けるとお洒落で大きなエントランスが出迎えてくれる。大手の芸能事務所だからかなり儲かってるんだろうな。


「あっ、もしかしてマナさん?」


 そんな下世話なことを考えていると、横の方から声が掛けられる。スラッとした長身の綺麗な女性。この人がもしかして白石さんなのだろうか?


「あっ、はい。そうです」


「わざわざ来ていただいてありがとうございます。私がAZUSAのマネージャーを担当しています白石瑠璃です。よろしくお願いします」


 そう言って一枚の名刺を渡される。そこには確かにメールでやり取りをしたあの白石さんの名前が記載されていた。


「AZUSAは四階の会議室ですでに待っております。ご案内しますので付いて来てください」


「はい」


 私が素顔を晒さずに配信をしているから降りて待っていてくれたんだろうか? 他の人に話しかけたらああ、こいつがマナなんだなってなるし。


 そこら辺の気遣いも出来るなんて流石は大手芸能人のマネージャーだなと思いながら後をついていく。それから会議室の扉を三回ノックすると扉を開け中へと入っていく。


 部屋の中は扉とは反対側に窓が付いており、清潔感が漂っている。そしてその真ん中には机が置いてあり、そこに服装は違うもののライブで見たときまんまのAZUSAの姿があった。


 うわ~、AZUSAだ~。やっぱ近くで見るとカッコいい~。てか改めて推しを目の前にして緊張してきたかも。今日の打ち合わせ大丈夫かな?


「初めましてマナさん。AZUSAと申します」


「マナです。よろしくお願いします」


 立ち上がって近くまで来て自己紹介をしてくれる。そんなの要らないくらい知ってるんですけどね。


「ではマナさんそちらのお席に座ってもらえますか」


「はい」


 私は大きな机の扉側の席へと座り、白石さんとAZUSAは窓側の席に座る。


「改めてわざわざ打ち合わせに来ていただきありがとうございます。早速楽曲提供についての話に移るのですが、基本的には配信の中から僕がマナさんに合いそうだと思う曲を作りますのでそちらを提供させていただければなと思います」


「ありがたいです」


「そう言って頂けると何よりです。それと楽曲は今から作成していきますのでレコーディングはまた後日という事になります。レコーディング場所は基本的にシャーロック本社になります。レコーディングの部屋は後でご案内しますね」


「分かりました」


 それからAZUSAからの色々な質問やどういう曲にするつもりだという話を聞かされる。マネージャーさんからは資料を渡され、契約内容などはまた後日保護者同伴で話すこととなった。


「本日はかなり有意義な時間が過ごせました。ありがとうございます」


「こちらこそありがとうございます! 未経験の事ばかりで楽しかったです」


 何よりもAZUSAとこうして話せたことが何よりも嬉しかった。いつも観客席から眺めている憧れの存在が目の前に居るって想像しただけでも幸せな気持ちになれる。


「あとはレコーディング部屋だけ案内しますね」


「はい! お願いします!」


 打ち合わせが終わり、レコーディング部屋へと向かう。レコーディング部屋にはテレビで見たことのあるような器具が置いてあり、それを見れただけでも少し興奮する。これからここで私も歌うんだと思うと楽しみだ。


 そうしてレコーディング部屋の説明を一通りされた後、私はシャーロックを後にするのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る