第8話 ボス部屋

「次でようやく第10階層、前回の配信と同じ場所ですねー」


 コメントもたまに返しながらだが淡々と攻略してきたため前回よりも早くに10階層へと到着できた。後は20階層まで行くだけだ。


『ダンジョンっていちいち一階層から潜りなおさないといけないの面倒じゃない?』

『確かダンジョン内でショートカットできるアイテムがドロップするはずだけど』

『でも10階層までそんなの一度も見たことなかったじゃん』

『確かAZUSAの配信で別のダンジョンだけど一回出てた気がする』

『そうですね。一度、僕の配信で出ましたね』

 

「へえ、そんな便利なアイテムあるんですね~」


 20階層くらいまでは潜ったことあるけどそんなアイテムがドロップしたところは見たことがない。AZUSAってダンジョン配信者の腕前も星持ちで超一流だからもっと深くまで潜ったんだろうな。


「それじゃあ今日はそのショートカットアイテムを見つけるまで配信を続けましょうかね。せっかくですし」


『うおおお! キター!』

『さっすがマナ! 分かってるぅ~』

『でも流石に未成年の女の子が夜遅くまでダンジョンに居るのは危なくね?』


「大丈夫です。ここからはテンポよく攻略していきますので」


 歌がダンジョン内に響き渡る。ここからは探索者たちの数も限られるため、人目を気にせず攻略していける。

 魔物を倒しながら10階層からは念入りに探索していく。今回は前みたいなレベル6の金獅子のような魔物は現れないみたいで例によって取れ高が心配になってくる。


 視聴者数は上下するが最低でも3万人は見てくれている。時折、感謝を述べながら探索を続けていく。


『あぁ、この生歌が無料で聞けるとかなんて幸せもんなんや』

『ていうかマナちゃん、収益化しないの? 投げ銭できないんだけど』


 投げ銭というのはこの配信サイトにあるシステムで配信者にお金を投げるコメントが出来るものだ。

 しかしこれに関しては収益化していないと配信者側で設定することができない。


「申し訳ないです。収益化はまだ親と話していないので出来てません」


『もったいねー』

『まあ仕方ないよね。申請とかいろいろと面倒そうだもん』

『収益化したら教えてー。ちゃんと投げ銭したいからさ』


「皆さん、ホントにありがとうございます。優しい方ばかりで嬉しいです」


 収益化、今夜お母さんとお父さんと話し合わないとなー。管理はお母さんかお父さんにやってもらう事になるだろうし。


 お金が無くてもこの状況だけで私としては楽しいし嬉しいんだけどやっぱり配信を盛り上げるためにはお金が必要になるからね。主にカメラとかマイクとかを導入したり、歌ってみたとか出してみたいし。


 そんなことを考えながらどんどんダンジョンの階層を攻略していく。

 しかしいつまで経ってもショートカットなるアイテムがドロップしないままとうとう20階層へと到達することとなる。


「まだショートカットのアイテムは出ないみたいですね」


『おかしいですね。僕の配信では15階層程で出たのですが』

『でも結構隅々まで探索したし無かったよね?』

『もしかしてデマ?』

『いやでも実際にAZUSAが出してるんだし少なくともデマではない』

『まあダンジョンによって違うんじゃね?』

『出るアイテムの話?』

『それもあるけど出るとすれば階層が』


「流石にここまで深いなら出てほしいですけどね。取り敢えず30階層までは潜ってみますか。せっかくここまで来たわけですし。それまでの間にショートカットのアイテムが出ればそこで終わりますけど」


『いいね歌姫!』

『頑張れー』

『社畜ワイ、今帰還』

『マナちゃんファイト!』

『30階層か。いけるな』

『いや30階層ww』

『マナちゃん見すぎて感覚バグってるけど、実際20階層とか上級探索者でもキツいんだよな』

『さっきから出てくる魔物とかもレベル5の奴多いもんな。マナちゃんが軽々ぶっ倒してるから弱く見えるけどww』


 当初の予定とは大幅に変更ってことになっちゃうけど、意外と早めに20階層までこれたしね。30階層くらいまでは行けそうな気がする。それ以上は流石に怒られちゃうだろうし行かないけど。


 そうして21階層へと続く階段を探す。しかし、いくら探せどいつものように階段が見当たらない。そう思っているとふと奥の方に大きな扉のような物が見えてくる。


「あれ何でしょう?」


『あれってもしかして』

『ボス部屋じゃね?』

『ボス部屋ですね』

『ボス部屋来たww』


「へえ、あれがボス部屋なんですね」


 ボス部屋というのは普通の魔物よりも強いボスモンスターが出現するエリアだ。ダンジョン内に稀にあるらしく、そこをクリアしなければ次の階層へ行くことが出来ないのだ。


『ボスは流石にやべーよ』

『ボスか……最低でもレベル6は行くって聞くよね』

『まあでも一回レベル8倒してるし?』

『うん、普通に大丈夫そうだよね』


 なんだかあんまり心配されなくなってきちゃってる。でも金獅子より弱いレベル6なら実際そんなに強そうな気はしないし。


「よし、行ってみますか」


 そうして私は迷うことなくボス部屋の扉を開くのであった。

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