第7話 二回目の配信

 学校終わり、昨日のように学校から帰るとすぐに着替えてダンジョンへと向かう。鞄にはちゃんとドローン型のカメラと配信用の仮面を入れている。もう周囲にはバレていそうだけど念のためね。


 今日はダンジョン10階層以上を目指そうと思ってる。基本的にダンジョンは50階層までの事が多いからどうせなら本気で踏破を目指してみようかな。せっかく配信を始めたんだし。


 17時から配信を始める呟きをしてるし、機材も大丈夫。あとは配信ボタンを押すだけだ。二回目でもこのボタンを押すのって結構勇気要るんだね。時間はまだ16時半だし少しダンジョンを進めてから始めようかな。


 そうして私は30分の間、ダンジョン攻略を続ける。そうしてちょうど17時になった時に鞄から取り出した仮面を装着し、ポチッと配信開始ボタンを押す。


「皆様、お待たせいたしました。マナです」


『こん~』

『こん』

『配信できてえらい』

『こんにちは~』

『おは~』

『こんにちは~、楽しみにしてたよ~』

 

 みんなのコメントが次から次へと流れゆく。一人だけ今起きた人がいるのが気になるけど。


 視聴者数は配信開始した瞬間から増えていき、5000人までいく。やっぱり初配信よりは少し人が減るのかも。と思っていたらどんどんと伸びていき、いつの間にか1万人へと到達する。事前に呟いていたおかげかな?


「今日もダンジョン攻略をしておきます。目標は20階層です」


『20階層!?』

『10階層から魔物めちゃくちゃ強くなるけど大丈夫!?』

『でもマナちゃんならいけそうな気がしてきた』

『まあ歌姫だしなぁ。どうせいけるんだろ』


「そうですね、たぶん大丈夫だと思います」


 一応、一人でそのくらいまでは行ったことがあるし。その時感じたのはちょっと強くなったかなくらいの認識だったからまだいけると思うんだよね。流石に30階層以降は初めてだから分からないけど。


『そう言えばAZUSAに触れられてたねー、おめでとー』

『本人に触れられてたとかマジ? どこで?』

『配信とかじゃないけど呟いてたよー』

 

「あっ、そうそう! その話もしたかったんですよ! AZUSAさんに触れられちゃいまして。もうホントに大ファンだったんで滅茶苦茶嬉しかったんですよねー。最近あったライブも見に行きましたし」


 コメントでそのことに触れられてすっかり嬉しくなった私はそれから十分程AZUSAについて話し込む。コメント欄の人達の中にもAZUSAのファンがいるらしく、思ったよりも会話が弾んでしまう。


 そんな折、コメント欄にひときわ目立つ公式マークが付いたコメントが流れる。公式マークというのはダンジョン配信者になれば貰える名前の横に付くマークの事なんだけど、そんなことがどうでも良くなるくらい現れた人物に驚く。


『AZUSAです。配信で話していただいてありがとうございます』

『え、本物?』

『マーク付いてるしガチじゃね?』

『飛んでみたら本人だったww』

『本物来てて草』

『AZUSAも見てる、と』


コメント欄に現れたのはなんとAZUSA本人だったのだ。何度も見たアイコンのイラスト。飛んでみるとやはり本人であった。


「嘘!? AZUSAさん!? え、ホントに!?」


『よかったじゃんマナ』

『本人に聞かれてて草』

『思ったよりガチファンだったもんなー』


 あまりの事実に配信どころじゃない。ホントにAZUSA本人なんだけど! えっ!? ちょっとどうしよう! てか勝手に配信で歌っちゃってるから謝らないと!


「申し訳ありませんAZUSAさん。勝手にAZUSAさんの歌を歌っちゃって」


『いいですよ。というか寧ろ嬉しいです。これから歌姫の歌が聞けるなんて』

『まさかの本人に披露ですかww』

『公認ww』

『でも歌姫の歌声マジで良いからAZUSAも嫉妬しちゃうかもww』


「やっばい、緊張してきた~」


 配信を始めた時とはまた違う緊張感が私を襲う。いつも通り歌えるかな? ていうか今の私って変じゃない? 髪の毛のセットとか。こんなことならもうちょっとオシャレしてくるんだった。服ももうちょっと……いや服は汚れちゃいやだからこれで良いか。


「それではダンジョン攻略やっていきますね」


 そこでようやく私はコメント欄との会話をやめて歩きはじめるのであった。



 ♢



「……正直舐めていたな」


 目の前のモニターに映し出されるマナの配信を見て神木梓が呟く。最初は興味本位で見てみようと思った梓であったが魔物を倒し始めた彼女の歌を聞いて鳥肌が立つほどに感動したのだ。


 ダンジョンの中からの、しかもちゃんとしたマイクが無い状態でこの完成度の高さはトップ配信者でもあり若手のトップアーティストでもある梓ですら出せない程であった。


 だからこその舐めていたという言葉だ。せいぜい自分よりは流石にといった慢心が梓にはほんの少しだけあったのだ。


 そして何を思ったか配信を見ながら梓は自身のマネージャーにメッセージを送っていた。話がある、と。


「これはまた創作意欲がそそられるな」


 そうして梓は引き続きモニターに映し出されたマナの姿に釘付けとなるのであった。

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