第5話 レベル8

 私の前に現れた金色の鬣に琥珀色の双眸を持った獅子がカメラに映った瞬間、これまで以上にコメント欄が流れていく。


『ヤバくね? あの魔物』

『どっかで見たことあるような』

『逃げて歌姫ー!』


 ここに来てようやくの取れ高の予感。初配信であっただけにここでこの子が出てきてくれたのはありがたかった。選曲はもちろんAZUSAの「雷神」。


『まさか戦う気か歌姫』

『あいつはヤバいよ、歌姫!』

『レベル8認定されてる金獅子じゃねえか』

『レベル8!? そんなの10階層で出てくんのかよ』

『いや多分イレギュラーだな』


 魔物の強さにはレベルという概念が設けられている。スライムとかはレベル1、ゴブリンなんかもレベル1だった気がする。レベル5までが上級者向け、そしてレベル6からが超上級者向けだと聞いたことがある。


「そんなに強いんですか? このライオン」

 

『強いよ』

『滅茶苦茶強いぞ』 

『確かこの前星持ちの探索者が金獅子にやられたって話だぜ。まあ星一つだったけど』

『星持ちがやられんのかよ! マジやべー』


 ダンジョンを踏破すれば星型のバッジがもらえる。星持ちというのはそのバッジを持っている人の事を言う。


そんなコメント欄の言葉を目にしてちょっと焦る。


 どうしよう。私で勝てるのかな? まあ今からじゃどうせ逃げられないし戦うしかないんだけど。


「取り敢えず戦ってみますね」


 そう言ってAZUSAの「雷神」を歌い始める。それと同時に全身に雷が迸っていく。この曲は数あるAZUSAの曲の中でも特にお気に入りの曲の一つだ。戦闘中、一番ノリに乗れるから。


 振りかざされた金獅子の前腕を雷の力による加速で避ける。そして上空へと飛び上がり、雷を纏った拳を金獅子の頭の上から放つ。


 金獅子の頭はその衝撃で地面へと激突し、凄まじい衝撃音と共に倒れ伏す。


『相変わらずつえー』

『レベル8相手でもこれなのかよ』

『こんな強い子が今まで埋もれてたなんて信じられない』

『強すぎww』


 コメント欄が加速していく。それと同時に視聴者数もどんどんと伸びていく。まさか終わろうとしてたタイミングでこんな大イベントが起きるなんて思いもしなかったよ。


 私の意識がより一層歌と戦いに集中していく。最早、周りのことなど気にならない。カメラにだけは当たらないように気を付けながら次々と雷を生み出していく。


 放たれた雷の槍は金獅子の体を焦がし、目を眩ませる。


そしてサビに差し掛かったところで最高潮に乗った私は今までで一番大きな雷を金獅子へと放ち、終わりを告げる。


「倒せたかな?」


 全身が焦げまみれで最初にあった神々しさの欠片も残っていない金獅子を見る。体がピクリとも動かないところを見るにどうやら勝ったようだ。


『すげええええ!!!!』

『星持ちでも倒せなかったのに』

『いやこれに勝つとかえぐすぎ』

『これ歌姫ダンジョン踏破できるでしょ』


 私の勝ちを祝ってくれるコメントであふれかえる。視聴者数は今まででダントツに多い10万人。よかったやっと見せ場が作れたよ。


「キリが良いのでこれにて今日の配信は終わりたいと思います! 皆さま見ていただきありがとうございました!」


『お疲れー』

『お疲れー』 

『おつー』

『次も楽しみにしてる』

『またねー』


 そんなコメントを見て名残惜しいけれど配信停止のボタンをポチっと押す。よかった。配信する前は怖かったけどいざやってみるとただただ楽しい時間だったな。皆も優しかったし。


「いけない。もうこんな時間!」


 気が付けばかなりの時間、配信していたようだ。すでに時計は20時を示しており、すっかり晩御飯の時間が過ぎていた頃であった。身に着けていた仮面を外し、私はそのままダンジョンを後にするのであった。





 茉奈が初めての配信をした次の日、謎の歌姫マナの話題が若者の間で話題になっていた。そしてその情報はとある人物の耳にまで届くことになる。

 

「AZUSA、この子知ってる?」


 そう言って女性がAZUSAへと一枚の画像を見せる。その画像は最近話題になっている歌姫、マナを写した画像であった。


「聞いたことはあるよ。最近バズってた子でしょ?」


「そうそう。それでどうやらこの子AZUSAのファンらしくて配信でもたくさんAZUSAの曲を歌ってくれているみたいよ」


「へえそれは嬉しいな。後で配信見てみるよ」


「あら珍しいわね。AZUSAが他の配信者の配信を見るの」


「そうかな」


 そうしてAZUSAもとい神木梓かみきあずさの耳にも彼のマネージャーのお陰で超新星、歌姫マナの話が届くのであった。

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