第4話 大型新人
二階層に着くも一階層とは何も変わらない洞窟が続く。しかし、難易度は全然違ったものとなる。一階層が初心者向けの魔物ばかりでるのに対して二階層ではちゃんと中級者向けの魔物も出てくるため一気に難易度が上がるのだ。
ダンジョン探索者界隈では二階層を攻略出来てようやく一人前と言われると聞いたことがある。
「えー二階層に到着しました」
『そんな軽装で大丈夫なの?』
『流石にポーションくらいは持ってるよね?』
ポーションというのはダンジョン探索者のために作られた回復用のアイテムの事だ。回復能力が使えない人でも使えるとして探索者の間では必需品として携帯している人が多い。
ただ私は持っていなかった。なぜなら歌で回復できるから。
「私は歌で回復できるからポーションは持ってないですよ」
『歌で回復できるマジ?』
『ソングバトラー、汎用性高すぎww』
確かに私もそれは思う。ポーションを持たなくて良いから手ぶらでダンジョン攻略に来れるんだし。
『そういえば歌姫は袋か何か持ってきてないの?』
「袋?」
『そういえば魔物の素材袋とか持ってないな』
『もしかして剥き出しで持って帰るとか?』
あー、なるほど。魔物の素材ね。
「私は魔物の素材持って帰らないから要らないんです」
売るにしても保護者が同伴でないと売れないため、持って帰るのが面倒なのだ。そう思って私が言うと、コメントの流れるスピードがものすごく速くなる。
『え、素材持って帰らないの?』
『なんで持って帰らないの?』
『滅茶苦茶高く売れるやつとかもあるのに?』
『レア素材ドロップしたらどうするのさ』
「う~ん、私が素材を売りに行くとすると未成年ですのでお母さんかお父さんについて来てもらわないといけないですし」
そこまで言って気が付く。やばい、私未成年って言っちゃった。
『え、未成年なの?』
『そう言われれば確かに子供っぽいような……』
『仮面で顔が隠れてるからわかんなかったよ』
ここまで素性を完全に隠しきれていたと思えば、つい口を滑らせてしまった。未成年ってだけならまだ身バレの心配はないからまだ大丈夫。うん、大丈夫だよきっと。
ちらりと視聴者数の方を見る。五万人。さっき見たときよりも増えてる。うわー、これでうっかり本名とか言っちゃったらヤバいなー。
あらためてダンジョン配信の難しさを実感する。
「そうなんです。私、未成年なので」
『なら仕方ないか』
『え? でも勿体なくね?』
『まあ本人が良いって言うんだったら』
コメントの流れがまた落ち着いてくる。よかった、思ったよりも気にする人いなかったみたい。
それからダンジョンの二階層の魔物を次々と狩っていき、攻略を進めていく。
全然取れ高ないなー。皆、楽しんでくれてるかな?
『歌姫強すぎじゃね? 俺が苦戦してたオーク一発なんだけど』
『それはお前が弱すぎるだけww』
『いやオーク倒せんのはそれこそ中級者ぐらいの実力はある。決して弱くはないぞ』
なんか思ってたより楽しんでくれているみたい。
「今日は10階層くらいまでは行こうと思いますのでお付き合いしていただけるとありがたいです」
『10階層!?』
『初配信で10階層まで行くとか強者過ぎww』
『ホントに大丈夫? 歌姫』
『10階層って言えば上級者でも苦戦するって聞くよ? 大丈夫なの?』
私が思ってた反応とは違い、心配するコメントばかりが流れてくる。皆さん、どれだけ優しいのよ。
「大丈夫ですよ。10階層は今まで何回も潜ったことがありますので慣れています。安心してください」
『なんだ、10階層に何回も潜ってるのか~。そりゃ安心だ』
『いや普通じゃねえよ。なんで10階層に何回も行ってんだよ!』
『私よりも若いのに断然私より強いんだけど』
『歌も上手くて可愛くて更に上級者レベルの実力を持ってて職業もアンノウン? スペック高すぎワロタ』
嬉しいな~。私の一言一言にコメントの皆が反応して前向きなコメントを送ってくれる。ダンジョン配信者が増えるわけだ。配信する側になって初めてその楽しさが分かってきたのかも。
そんなこんなで何とか10階層に到達する。結局、最後まであんまり取れ高なかったな~。
「すみません、たくさん見てくださっているのにあまり取れ高が無くて」
『いやいや滅茶苦茶あったよ?』
『心配しないで。楽しかったよー』
『てか初配信で常に5万人見てるとかどう考えてもおかしいよな? 事務所に所属してるならまだしも』
『登録者数ももう20万人超えたぞ。こりゃ大型新人だな』
「えっ! 20万人も登録していただいたんですか!? ありがとうございます! これからもよろしくお願いします!」
コメント欄に言われて気付いた私は即座に感謝を告げる。たった一回の配信でここまで伸びるなんて思わなかったから、驚きを通り越してなんかもう最高!
「それでは今日の配信はここまでにします。皆さん、お付き合いいただきありがと……」
私が締めくくりの言葉を告げている途中、背後で何かが爆ぜる音が聞こえる。何だろう? そう思って振り返るとそこにはギョロっとした目をした巨大な獅子がそこに居た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます