第3話 配信開始
「よし、準備オッケーだね」
今まで集めてきたお小遣いの全てをはたいて買ったビデオカメラ。ダンジョン配信者の間で特に人気な自動追尾型のドローンカメラ。安い奴でも10万したんだけど高すぎないですかこれ?
一応、このダンジョン配信を始める前に新しくSNSのアカウントを作って呟いておいたんだけど、来てくれるかな? 不安だな。
ダンジョン配信を始めるにあたって身バレ防止のためにネットで見つけた目の周囲だけを隠す青い仮面を着けてはいるけどそれでも顔の大半は晒すわけだから少し緊張する。
「……よし! 配信開始っと」
ポチッとボタンを押すとともにカメラが宙へと舞い上がって私の体を映し出す。
『歌姫の初配信キタキタキター!』
『待ってたよ~、歌姫!』
『てか仮面着けてて草』
『仮面越しからでも分かる美少女感……こりゃ大物になる気が』
ギャー! コメントが滅茶苦茶流れてくるよー! 配信画面の下の方に表示されている視聴者数が100、200、300とどんどん数が増えていく。てか私の呼び名、いつの間にか歌姫で定着してるんだね。
「あ、あの初めましとぅえ。マナって言います」
ちょっと待って噛んだんだけど最悪!
『緊張しないで~』
『頑張って~』
『思いっきり噛んでて草』
『いやそれが良いんだよ』
『てか初配信で1万人見てるとかヤバくね? 10万人フォロワーいる配信者でもそんなに行かねえぞ?』
コメント欄で言われて気が付く。視聴者数1万人!?
「え? 視聴者数1万人もいるんですか!? え、え、どうしよう!」
気が付けば配信サイトのフォロワー数もいつの間にか5万人を突破している。どうして? まだ私何もしてないのに。
「と、取り敢えず今からダンジョン攻略していきたいと思います」
そうして私はカメラがあることを意識しながらダンジョンの中を進んでいく。出来るだけ人がいないところを探しながら。普段からコソコソとダンジョン攻略をしている私にとってそんな場所を探すのは簡単なことだった。
「あっ、出ました。スライムです」
スライムはダンジョンの中でも最弱のモンスターだ。初心者講習でも出てくる魔物で基本的に火に弱い。
「あっ、そうだ。著作権的に配信上で歌を歌うのって不味い?」
私の戦闘スタイル上、歌えなければただの女子高生になっちゃうんだけど。
『まあ口ずさむくらいなら良いんじゃね?』
『怖いんだった民謡とか歌ったら?』
『そんな気にする必要ないと思うけど』
『配信サイトでそもそも許可は取ってるし、自分の演奏と歌だけなら個別に許可は取らなくてもオッケーって聞いたことあるよ』
なるほど。確かに利用規約にそんなことが書かれていた気がする。なら大丈夫か。
「ありがとうございます。演奏はできませんので歌だけになって申し訳ありませんが」
私の選曲はAZUSAの『燃え盛る常夏』だ。この歌を歌えば炎を操れるようになるということは経験的に知っていた。
ダンジョン内に私の歌声が響き渡る。歌いながら炎を生み出していく。何気にカメラの前で歌うのは初めてだから緊張するな。
『うわ、やっぱ遠目から撮ってただけの動画とはちげえな、おい』
『滅茶苦茶、綺麗な歌声』
『ああ、浄化されていく……』
良かった。歌声は取り敢えず高評価のようでうれしくなる。嬉しくなるがあまりに作り出す炎が少し大きくなるが、気にせずスライムへとぶち込んでいく。
『スライム相手に容赦なさすぎワロタ』
『スライムさーーーん!』
『てか歌姫って氷系の職業じゃなかったの? 炎も使えるの?』
スライムを倒したことでコメント欄が一気に加速する。そういえば私の能力についてまだ話していなかったな。
「あっ、私の職業は『ソングバトラー』って言って歌によって能力が変わるんです。例えば今みたいに火のイメージがある歌は火の能力が使えて、前の『雪恋』だと氷の力が使えるようになるんです」
まあ、たまに予想に反した能力が出ることもあるんだけど、基本的にはどの属性が出るか知っている歌しか歌わないしダンジョンで失敗することはない。
『何その職業、聞いたことないんですけどww』
『歌姫が世界初なんじゃね?』
『うわ、マジかよ。まさかのアンノウンですかww』
『歌上手くて最強でアンノウンとか最高過ぎない?』
アンノウン。聞いたことはある。この世界にたまに発生するまだ見ぬ未知の職業、主にこの世の全ての職業が記録されているという『プロフェッション』とかいう記録媒体に載っていない職業の事を言うらしい。
「確かに周りで私の能力は見たことありませんね。少し珍しいのかもしれません」
『少しじゃなくて大分珍しいんよ』
『何万人に一人だっけ?』
『確か100万人に一人とかじゃなかった?』
「100万人に一人!?」
あまりの衝撃につい大声が出てしまう。まさかそんなに低い確率だったなんて。この能力ってそんなに凄かったんだ。
「と、取り敢えず二階層を目指しますね」
大声を出してしまったのが何だか恥ずかしくなってしまい私は誤魔化すようにそう言ってダンジョン攻略の続きを進めるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます