第2話 なんかバズった
案の定、帰るのが遅くなったばっかりにお母さんからこっぴどく叱られ若干暗いテンションのまま迎えた次の日、学校に登校すると教室の中がやけに騒がしかった。
どうしたんだろう? 何か特大級のゴシップでも出されたんだろうか。
そう思いながら教室の扉を開くとクラスメートの視線が一瞬にして私へと集まる。
「へ?」
私が何かしたのかな? とはいえまったくもって身に覚えがない。
昨日はライブに行ってその後はただ普通にダンジョン攻略をしただけだし。
土曜日はずっと家に引きこもっていたから特に何の話題もない。
そして色恋話に関しても残念ながら私には一切と言っていい程無いのだ。だというのになんだこの状況は。
そう思っていると友達の美穂ちゃんがトコトコと私の前に来る。そして妙に顔をにやつかせながらこう言うのだ。
「おはよ、有名人さん」
「有名人さん?」
何言ってるんだろ? さっきも言った通り私は目立つような人間ではない。
どちらかと言えば他学年でも話題になるほど美人な美穂ちゃんの方が有名人という呼び名にふさわしいだろう。
「あれ知らないの? ほら、今この動画で茉奈がバズってるんだよ」
そう言って携帯で動画を見せられる。これってもしかして……。
「バラードを歌いながらダンジョンでモンスターをしばきまわってる茉奈の姿がとある配信者さんの配信に映ったみたいでね。それが切り抜かれていま茉奈の動画が世界中でバズってるんだよ」
「嘘……」
美穂ちゃんの言葉に恥ずかしさのあまり顔が真っ赤に染まっていくのが分かる。
さらに追い打ちをかけるようにして美穂ちゃんが配信サイトの動画を見せてくる。
「どの切り抜きも100万再生くらいはいってるんじゃないかな? 元の配信なんて滅茶苦茶いいね付いてたよ? 確か10万くらい」
「え、え?」
そう言われて自分の携帯で配信サイトから「ダンジョン 歌を歌う」で調べてみる。
すると検索で出てきたのはそのどれもが遠目ではあるものの確かに私の姿が映し出されており、その下にある再生回数は美穂ちゃんの言う通りどれも100万を超えている。
「え、どうしよう美穂ちゃん! 私退学になっちゃうかも!」
「それは大丈夫だと思うよ? だって別に悪いことをして炎上したわけじゃないんだし。ほら、コメント読んでみなよ」
そう言われて本配信のコメント欄を覗いてみる。
『おいおい、もうちょっと近くから撮れよ。肝心の顔が見えねえぞ』
『こんな綺麗な声なんだし絶対顔可愛いだろ』
『顔見たい!』
『お願い、配信してくれー』
歌声が綺麗、絶対可愛いと美穂ちゃんが言う通り概ね好印象であったことに驚いた。
ダンジョン内で歌いながら魔物をなぎ倒していく姿はどう考えても変人扱いしかされないと思っていたからである。
『歌うたいながら魔物しばくとか草』
『なんでこの人歌いながら魔物倒してんのww』
まあ一部でそんなコメントも見えるけどそれも不審者への恐怖というよりかは面白がってのコメントばかりであった。
「ね? 大丈夫だったでしょ?」
「う、うん」
顔が可愛いかどうかは置いておいて何よりも歌声を褒められるのが嬉しかった。
友達の間だけじゃなくてネットでも私の歌声は通用するんだと思えた瞬間だった。
嬉しいな。コメントを少しニヤニヤして見ながら自分の席へと向かう。
「茉奈、顔も可愛いんだし配信してみたら?」
「いや無理無理! 可愛くなんかないし!」
席にてカバンを下した時、美穂ちゃんからそう言われ反射的に否定してしまう。本当はしたいよ?
でもこんなに期待値があげられちゃってもしも配信したらがっかりする人が増えるのではないかという恐怖が生まれてくる。
でもここで始めなければ一生こんなに注目される機会もないだろうし後悔するだろうなとは思う。
昨日見た、ドームでのライブ。大勢の歓声を一身に浴びながらあのステージへ立つ憧れが私の背中を押してくる。
『この子配信したら絶対売れるでしょ。てか推すわ』
『俺も絶対推すぞ』
『こんなに生歌が上手い人、初めて見たかも』
『まさに歌姫って感じ?』
『てか皆歌の話ばっかりしてるけど普通に強くね? 俺この前、歌姫に簡単に屠られてる魔物に殺されかけたんだけどww』
『それ思った。滅茶苦茶つえーよな! 歌も上手くて強いとかどんだけww』
『いやそれはお前が弱いだけ』
配信に書き込まれているコメントを眺めてさらに背中を後押しされる。
「……いややっぱりアリかも」
「でしょ! 可愛いもん!」
「いや可愛くはないから!」
そうして私は帰ったら早速ダンジョン配信をしてみようと決めるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます