第34話
翌日、家に帰り親に凛との同居を相談した所、あっさり許可が下りた。ここ1か月は確かに家出しているような状態だったけれど、突然そうなったんだから少しくらい心配してくれてもいいものを。幼少期から放任主義だったが、ここまでだとそれでいいのかと逆に心配になる。
「ねえ、その一緒に住む友達の写真はないの?」
夏服を段ボールに詰め込んでいると、母親が部屋に顔を出した。どうして作業中に言うのかと思いながら、去年凛と2人で撮った写真をスマホから探して見せる。
「えー、可愛い。いいなあ、ルームシェアとか楽しそう」
本当に興味本位だったのか、母は凛の写真を見ると満足げに部屋を出て行った。自由な母に呆れながら、服詰めを再開する。
ついでに必要なものも入れておこうと思ったのだが、生活するうえでいるものは大体すでに凛の家に持って行ってしまっていた。ずっと暮らしていたはずの部屋に、引っ越し先に持って行くべきものはあまりない。
もう使わないだろうけど、と思いながらタブレットも入れる。冬服はさすがにまとめるのが面倒なので、また必要になったら取りに来よう。
凛はあの物置部屋を片付けると言っていたけれど、結局主に片づけるのは私だった。私がぶつくさ言っていると、凛はだいやが使う部屋なんだからいいじゃんなんて平気で言ってのける。
なんのために買ったのかわからないインテリアやら、買ったまま開けられていない段ボールやらがそこら中に積まれている。私がせっせと片づけている途中で凛が顔を出しては、これは捨てないで!と口を出しに来る。
「じゃあ自分で片づけなよ」
「えー……」
「えー、じゃないの。自分の家でしょ!」
「これからはだいやと2人の家だもん」
そんなことを言いながら、今やっている製作の作業の息抜きもかねてか、凛もちまちまと片付けを手伝った。テープを1度も剝がされていない段ボールを開けては、こんなん買ってたなー、と遊んでいる。手伝っているのか邪魔しているのか、わからなかった。
「ほらもー、段ボールばらすとかして」
「ね、ね、だいやこれ見て」
横で段ボールを畳む私の横で、凛がおもちゃみたいなカメラを掲げている。ピンク色のそれは、一時SNSで流行っていたやつだ。
「チェキ撮れるやつ! 可愛いなって思って買ったの忘れてた」
そう言って凛は電池いれなきゃ、と部屋を出て行く。私は軽くため息をついて、凛が放ったらかした段ボールをたたんだ。
「だーいや」
黙々と片づけていると凛が戻ってきて、顔を上げるとシャッターを切る音がした。
「ちょっと、こんなとこ撮ってもおもしろくないでしょ」
「いいの。ね、一緒に撮ろ」
凛は出てきた写真を床に置いて、今度はレンズをこちらに向ける。
「こういうのって自撮りうまく撮れるの?」
「わかんなーい。うまくいくまで撮ればいいよ」
案の定最初の方はブレたり、どちらかが見切れたりして全然上手くいかない。あまりにも下手なものだから、写真を見ながら2人で笑い転げた。
ようやく撮れたブレてなくて2人とも映っている写真は、笑いすぎて顔がくしゃくしゃになっていた。ひどい顔、と笑いながら、こうやって笑い合えている今があることにホッとする。
「せっかくだからサイン描いてよ、チェキだし」
そう言って写真を差し出すと、凛は発掘した段ボールの中からポスカを持ってくる。好きな色選んでいいよ、と言われて、緑色を指さした。
「サイン描くの、初めて」
そう言って渡されたチェキには、だいやちゃんへという文字の隣によろけた筆記体で『Rin』と書かれていた。
「ReLiじゃないんだ」
私がそう言うと、凛は一瞬きょとんとする。
「そっか、そういえばReLiだった。もう1枚書こっか?」
「ううん、いいよ。これがいい」
きっと後にも先にも、『Rin』のサインをもらえるのは私だけだろう。そう思うと嬉しくなって、私の中でこの写真は宝物になった。
「だいやもサイン書いてよ」
「やだよ、私が書いてどうするの」
「いいでしょ! 私書いたし!」
そうやってふざけているうちに陽が沈む。結局今日も部屋は片付かなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます