第28話
ReLiの曲は好評だった。SNSではトレンドに入っていたし、翌日の夜にテレビ局の公式アカウントで上げられたMVはあっという間に100万再生を超えた。この調子なら、次の放送日までに300万回くらいは再生されるだろうか。
主役の2人が有名だったのもあるかもしれない。ドラマの視聴率は良かったみたいだし、ドラマと主題歌のタイトルはずっとトレンドにあった。
MVは、正直見るのが怖かった。けれどサムネイルを見る感じ実写の映像だし、普段私たちが作っているものとは違う。えいや、と再生ボタンをタップする。昨日の夜、凛に聞かせてもらった曲が流れ出す。
いくら実写といえどやっぱりちゃんとした所が作った映像は違った。ReLiの曲を聴きたいのに、映像の方にばかり目がいって、段々と気分が落ち込む。こんなものを、私たちは作れない。
凛は私たちとオリジナル曲作りを再開したけれど、正直重荷だった。ドラマの影響でアカウントの登録者は増え、再生数も伸びた。それを喜ばしく思う一方で、私が彼女の曲のイラストなんて描いていいのか、という考えが止まない。ずっと前から思っていたことだけれど、彼女が世の中に見つけられてからは、余計に。
ネット記事や音楽雑誌の取材やらで忙しいらしく、前みたいなスピードで曲が上がってこないのだけが救いだった。イラストに時間をかけられる。けれど、時間をかければかけるほど価値のない絵になっている気がして、消してしまう。
前みたいに描けなくなることはない。けれど、いつまでたってもイラストが完成しなかった。
高橋くんと笠井さんも悩んでいる。忙しい凛抜きで打ち合わせをしたときは、高橋くんが困った顔をしながら、
「どうやって動画を作っていいかわからない」
と言っていた。彼がそんなことを言うのは初めてだった。
ReLiの曲は、変わらずに好きだ。けれど、彼女の人気についていける気がしなくて、ただのファンに戻りたくなってしまっている。贅沢な悩みだ。
私たちが頭を抱えているのとは反対に、凛は毎日いきいきとしている。忙しい、と愚痴をこぼしながらも、その目はきらきらと輝いていて、充実しているのが伝わった。
ドラマが放送されるたびにチャンネルの登録者が増える。放送前は60万人だったのが、いつの間にか100万人を超えそうになっていた。
ドラマは毎週見ている。毎回絶妙なタイミングで入るエンディングに、泣くシーンでもないのに涙していた。正直ストーリーはどうでもよかったけれど、きちんと内容に合ったReLiの曲で泣いてしまうのだ。
ドラマのタグにはReLiの曲の感想も毎週投稿されている。2年前の私だったら、同じようにファンとして投稿していただろう。ドラマのファンアートすら描いていたかもしれない。
ファンとして嬉しくなると同時に、ReLiが、凛が、遠い存在に思えてくる。元々、近くにいてくれていたのが奇跡だったのだ。ここまでの数年が夢のようなものだったと、そう思いたい。
けれど大学では凛がにこやかに話しかけてくるから、私はファンにも戻れず、チームとして力を尽くすこともできず、どちらかを捨てられずに、毎日増えていく数字に怯えている。何もしていない私のフォロワーでさえ増えた。私には、役不足な数字だ。
自分に自信があれば、そんな風に悩むこともなかったのだろう。しかしそう思っているのは、高橋くんと笠井さんも同じようだった。
ReLiの曲の制作は変わらず続いている。けれど、凛だけが、4人の中で浮いていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます