第27話

 ひと月が経って、ドラマの放映日になった。朝からそわそわしていると、凛からメッセージが届く。ドラマを一緒に見ないかとのことだった。もちろん、と返して部屋着を脱ぎ捨てる。ReLiの曲を彼女と一緒に聞けるのも嬉しいけれど、凛と久しぶりに会えるのも嬉しかった。


 ドラマは夜からだったけれど、お互いに落ち着かなくて昼から彼女の家に行くことになった。お昼ご飯と夜ご飯を買うがてら、駅で待ち合わせをする。2か月ぶりに会う凛は、少し瘦せたように見えた。


 コンビニでお酒やら適当な冷凍食品を買って、凛の家の近くにあるピザ屋でお昼ご飯を買い、久しぶりに彼女の家に上がる。何もなかったリビングの壁際に、大型のテレビが設置されていた。



「ドラマのタイアップやるのにさ、テレビがないってことに気付いて。テレビとか最近もう見ないんだよね」



 お昼の情報番組を流しながら、凛はピザを頬張る。その言葉に私も頷いた。小学生のときはアニメやらドラマを楽しみにしていた気がするけれど、いつの間にか見なくなっていた。


 夜までだらだらと過ごしてから、ようやくドラマの放送時間になった。テーブルにお酒とお菓子を並べて、ソファに腰かける。凛はソファの上に三角座りをして、落ち着きなく体を揺らしていた。私もそわそわして、特別飲みたいわけでもないのにやたらとチューハイの缶に口をつけたりした。


 画面右上のデジタル時計が9時を差し、ドラマが始まる。滅多にテレビを見ない私でもわかる俳優と女優が画面に映って、OPに切り替わった。


 一瞬あれ、と首をかしげる。流れてきたのはReLiの曲ではない。



「私の担当、EDなの。だからドラマ見終わるまでお預け」



 凛にそう言われ、緊張していた体が一瞬ゆるむ。けれど、ドラマを見終わるまでそわそわしていないといけないのか。そう思うと、ドラマの内容がまともに入ってこなかった。


 けれど、大して内容というものもなかった。かつて幼なじみだった2人が大人になって再開して、どこかで付き合ってなんやかんやあって結婚するんだろうな、というようなストーリー。


 幼なじみ、という部分に凛と高橋くんのことを思い出して彼女の方を見たけれど、凛は少しも気にしていない様子だった。ソファの上で自分の膝を抱きしめ丸くなっている。


 けれど私はどうしても気になって、CMに入ったタイミングで口を開いた。



「あのさ、凛と高橋くんは、付き合ってるとか、ないの?」



 凛は顔を上げ、少しだけ悲しそうな顔をした。その表情の意味が、私にはわからない。



「ないよ、あり得ない。なんで蒼介と付き合わなきゃいけないの」



 そこまで言われるような人ではないだろうに、凛の吐き捨てるような言葉になんだか申し訳なくなった。彼女は話は終わりと言わんばかりにビールを呷り、私の方へぐっと体重を寄せる。


 怒っているのか、それとも何か考えているのか、彼女の唇が何か言いたげに動いたが、CMが終わってしまって2人とも黙り込んだ。凛は口を尖らせながら、私にくっついている。どうすればいいかわからずに、されるがままになっていた。


 初回スペシャルとやらで15分長いドラマをあくびを噛み殺しながら見終え、主人公2人のやり取りの後ろでEDが流れ出す。途端に意識が覚醒して、主役の声なんかもう耳に入らない。


 ストレートなラブソングだった。1曲すべて流れないのがもったいないくらいのいい曲だ。もう1度聞きたいのに、録画をしていないから今は聞けない。凛に頼めばフルを聞かせてもらえるだろうか、と彼女の方に顔を向けると、凛は満足げな表情を浮かべて私を見ていた。どうせまた、私の反応を見て楽しんでいたのだろう。



「ね、この曲、だいやのこと考えながら書いたんだよ」



 その言葉に、変な冗談と笑いたかったのに、凛の目が真剣だから何も言えなかった。テレビからは、次に始まったバラエティ番組が流れている。静かな凛の部屋に似合わない笑い声が響いた。



「凛、酔ってる?」



「……そうかも」



 凛は突然私に抱き着いて、首元に顔をうずめる。



「テレビで自分の曲を流してもらえて、テンション上がっちゃってるのかも」



 首筋にかかる凛の息が熱いのは、酔っているせいだろうか。彼女がその体勢のまま動かないから私も動けなくて、興味もないバラエティ番組に視線を向ける。けれど、その内容なんて少しも見てはいなかった。



「ね、曲の感想聞かせて。そうだ、フル聞かせてあげようか」



 突然顔を上げてそう言う凛にうまく返事ができなくて、うん、と言う声が裏返った。

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