第26話

 それからしばらくはオリジナル曲の制作が続いて、春休みに入る直前で区切りがついた。動画を上げる頃には凛はもうタイアップ曲の制作に入り、夜中に突然次の曲の音源が送られてくることもなくなった。


 せめて授業があればよかったのだけれど、春休みに入ってしまったから授業も課題もない。今の間に少しでも絵の勉強をしようとタブレットを立ち上げるけれど、描くものと締め切りがないと、なんだか張り合いがなかった。


 彼女の動画を手伝う前、私は何をして過ごしていたのだろう。暇なときもそれなりにやることがあったはずなのに、今では何もしたいことが思いつかない。


 ReLiの動画を作っていたときは頻繁に通知がきていたスマホはめっきり静かになった。凛に何かメッセージを送りたかったけれど、邪魔になってしまいそうで結局何も送れない。


 ベッドに寝転がってぼんやりとSNSを眺めていたけれど、退屈になってスマホを枕元に置く。ちょっと寝ようかな、と目を閉じたとき、通知音が鳴って私はさっき置いたばかりのスマホを手に取った。


 SNSの通知だった。凛から何かメッセージが来たことを期待していた私は、少しだけ落胆する。けれどその通知は、ReLiが投稿したことを教えてくれるものだった。



『ドラマ「愛の花が咲く」に曲を提供させていただきました。4月から放送開始です。よろしくお願いします』



 ReLiらしい、淡々とした文章が並んでいる。そういえば、私は彼女がどんなドラマの曲を書くのかすら知らなかった。どうやら恋愛ドラマらしい。普段ドラマなんて見ないけれど、これは見ようかな。そう思っていたら、彼女のSNSの返信欄に同じようなことがコメントされていて笑ってしまった。


 ReLiの投稿を拡散して、何か一言つぶやこうかなと思った時に、メッセージの通知が連続で届く。いつものグループチャットだ。



『ドラマのタイアップ曲やるんですか!!!???』



『なんで教えてくれないんですか!!!!びっくりしたんですけど!!!!』



『言い忘れてた、おめでとうございます!!!!』



 ぴこんぴこんといくつもくるメッセージは笠井さんのものだ。私に話したときに他の人にも言ったのかと思っていたけれど、どうやらそうじゃないらしい。そういえば、グループ内でこの話題が出たことはなかった。



『おめでとー』



『その反応、高橋先輩知ってましたね!?』



『いや、知らなかった。ビビった』



『嘘だー!!!!』



 声の聞こえてきそうなやり取りに、思わず顔がほころぶ。この雰囲気は久しぶりだ。



『言うの忘れててごめんね。ちゃんとしなきゃって必死でみんなに報告するの忘れてた』



 少し遅れて凛からのメッセージも届く。みんな、ということは、私にも言っていないことになっているのだろう。彼女はこの件を誰にも相談する気はなかったのかもしれない。



『全然大丈夫です! むしろ責めるみたいになっちゃってごめんなさい!! ドラマ毎回見ます!!』



『私も見る、おめでとう凛』



 3人のやり取りを見ているだけでメッセージを送るのを忘れていた。そう送信すると、凛からは『ありがとう』と返ってくる。


 メッセージだけとはいえ、久しぶりの人とのやり取りが楽しかった。何より、凛と会話しているのが。


 SNSで報告したくらいだから、作曲の方は落ち着いたのだろうか。また以前みたいに不健康な生活に戻っていやしないだろうか。彼女の抱えていた不安は、消えただろうか。


 聞きたいことはたくさんあったけれど、どれもこれも聞けなかった。そういうことを聞かれるのが負担になったらどうしよう、と思うと何も送れない。


 流れていく会話を眺める。3人が今まで通りのやり取りをしているだけで、嬉しかった。

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