第14話

 新曲は好評だった。今までのReLiの曲の中で1番に伸びた。その勢いが冷めやらぬうちに、凛は次の曲を完成させた。イラストも頼まれた。やっぱり描かなくていいと言われるのでは、と思っていた私はほっとした。相変わらず緊張はするけれど、大好きな彼女の曲のイラストを描く権利を、もう他の人に渡したくない。


 そんな風に勢いに飲まれたまま、彼女の動画のイラストを担当し続けて1年が過ぎた。イラストはありがたいことに好評だったし、『この人の絵が1番ReLiの曲の雰囲気に合う』なんてコメントも増えて、正直私は舞い上がっていた。


 再生数は伸び続けるばかりだ。もちろんReLiの実力だろうが、私のイラストがその後押しになっているのでは、なんて自意識過剰な考え方すら持っている。けれど、私のSNSのフォロワーは、彼女の曲のイラストを描くようになってから1桁増えたのだ。調子に乗りたくもなる。


 高橋くんとも相談して、より動画映えをするイラストを描けるように勉強し始めたし、何枚か差分を描いて動きをつけるようにもした。そうやってイラストを描いているうちに、飛ぶように日々が過ぎて行った。


 動画が投稿されたら、まず1番にコメントを見る。ベッドに寝転び、曲の感想を読み飛ばしながら、イラストについて触れられているコメントにいいねをつけた。



『今回もイラスト良い』『ルピナスさんのイラスト、本当にReLiの曲に合う』『やっぱReLiの曲はルピナスさんの絵じゃないとね』



 そんなコメントににまにましながら、スクロールを続ける。バーが随分下に下りたところで、ふと私の指が止まった。



『毎回イラストこの人なの、ちょっと飽きてきた』



 心の中に重い石を投げ入れられたようだった。ずん、と体が重くなり、ベッドに沈み込んでいくような感覚を覚える。


 こんなコメント、今までもたくさんあった。担当してから2曲目ですでに、『イラストまたこの人?』というコメントがあったぐらいなのだ。下手くそという言葉をぶつけられたこともあるし、これくらい気にしなくていい。


 でも、1度沈んだ気持ちは簡単に軽くならない。動画は毎回一緒でも何も言われないのに、どうしてイラストは言われないといけないのだろう。私が1番、ReLiの曲をわかっているのに。


 そう思ってから、いけない、と首を振った。さすがに考え方が傲慢すぎる。再生数が右肩上がりなのは、ReLi自身の実力だ。私はただ、そのお手伝いをさせてもらっているだけ。高橋くんなんて高校生の頃から彼女を支えて、動画編集を勉強し続けているのだ。私がこの程度のコメントで、心が折れるなんて情けない。


 気分転換に今回の曲のファンアートを描こう。動画が上がった後にファンアートを描くのはもはや恒例になっていた。自分に、あくまで私は彼女のファンだと言い聞かせるためのものでもある。


 タブレットを起動させて、少し前から使い始めたアプリを開く。機能や素材が多く使いこなすのは難しいけれど、プロはこれを使っている人が多いと高橋くんから聞いたのがきっかけだ。まだ慣れないけれど、そのうち上手く使えるようになるだろう。


 白紙の画面を呼び出して、付属のタッチペンを手に取る。どんな構図にしようかなと、指先でペンをくるりと回す。


 けれど、いくら考えても頭の中に絵は浮かんでこず、ペンは少しも動かせず、白紙の画面は真っ白のままだった。

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