第6話

翌日の土曜日。

昨日、かなり長い時間雨に打たれ漫画やラノベなら熱を出し寝込むところだ。

しかし残念ながら俺の身体はそんなにやわではない。一晩中雨に打たれたとしても熱を出すことなどないだろう。

もっと過酷な自然のなかで何日もすごしたこともある。

目が覚めてしばらく横になったままスマホで時間を潰していたが昼前になったのでそろそろ鈴音の家に向かう準備を始める。

鈴音の家に行くのに気を使う必要もないので大学に行くときと変わらないラフな格好だ。

ゆっくり歩いて向かうがほどなく鈴音の住むマンションに到着した。

1LDKのマンションだが女子大生をターゲットにしているらしく部屋は割とコンパクトでそれほど家賃は高くないらしい。

四階にある鈴音の部屋の前でインターホンを鳴らす。


『はーい。どちらさま?』


「俺だよ。開けてくれ。」


『俺なんて知り合いいないわよ。』


「このやり取りいらないだろ。」


『…そうね。ちょっと待ってて。』


「リョーカイ。」


鍵が空いて鈴音が顔を出してきた。

よく見る部屋着なのだがやっぱり着る人が美人だからかお洒落な服のように見える。


「おっす。」


「いらっしゃい。相変わらずな格好ね。外に出るときぐらいもうちょっと服に気を使わないとモテないわよ。」


「わかってんだろ。俺はモテたいと思ってねえよ。それにここに来るときはこれで十分だろ。」


「わかってるけど親友である優也が大学であんまりいい印象持たれてないのがなんか嫌なのよ。まぁいいわ。ホットサンド作るんだけど具はなにがいい?」


「ハムチーズとベーコンエッグかな。なければなんでもいいぞ。」


「予想通りの中身だから大丈夫ね。今から焼くからソファにでも座って寛いでて。」


「へーい。」


俺は勝手知ったる感じでソファに座りテレビをつける。適当にザッピングして見るのがなければスマホ弄りに変えるつもりだ。ちなみにこの家のWi-Fiはスマホに接続済みなのでギガを気にする必要もない。

再放送のバラエティーを見ていたら鈴音から声が掛かる。


「できたわよ。」


俺はホットサンドの乗ったテーブルの席に着く。

鈴音はテーブルにホットサンドを置き、飲み物を準備する。

俺の好みも覚えているので聞くことなく砂糖とミルクを入れる。


「どうぞ。」


「サンキュ。いただきます。」


コーヒーを俺の前に置き俺の向かいに鈴音が座るのを見ながら俺は食べ始める。

俺の好きな味を把握している鈴音のホットサンドは普通にうまい。


「やっぱうまいな。」


「そ。ありがと。」


速攻で完食した俺はコーヒーも飲み干す。


「ごちそうさま。」


「お粗末さまでした。リビングにいていいわよ。軽く片付けたらすぐ行くわ。」


俺はリビングのソファに座ってゆっくりしているとほどなく鈴音がやってきた。

鈴音はソファのクッションを手に取りリビングのローテーブルの側に置くとそこに座る。

こんなときに鈴音は今みたいに下に座るときもあれば一緒にソファに座ることもある。

今日は前者のようだ。


「あんた、彼女と別れてどれぐらいだっけ?」


「春に別れたから半年ぐらいだな。」


「けっこう経つわね。そろそろ新しい彼女でも探したら。別に前の彼女のこと引きずってるわけじゃないんでしょ?」


「そんなんじゃないけど出会いもないからなぁ。」


「だから私主催の合コンに参加しなさいよ。出会いもあるし私と付き合ってるんじゃないかっ噂はなくなるわよ。まぁ私に付きまとう隠キャってほうはそのままだけど。」


「そうだな。次あったら呼んでくれ。付きまとう隠キャってのは合ってるしどうでもいいな。」


「相変わらずねぇ。」


話ながら鈴音は俺の眼鏡を外して前髪を持ち上げる。


「あんたホントはびっくりするぐらいのイケメンよね。高校のときよりレベルが上がっててはっきり言って芸能人でもあんたレベルはなかなかいないと思うわよ。」


「そうか?この程度どこにでもいるだろ?」


「そう思うなら顔隠すの止めなさいよ。ホントは私の親友はこんなにイケメンなんだって自慢したいのよ。」


「絶対止めろ。俺は隠キャとしてこのまま地味な大学生活を送るって決めてんだよ。」


俺は鈴音の手を払い眼鏡をかけ直す。

鈴音はため息をつき「ま、いいわ」とこの話を切り上げた。


「ところで夜は何食べたい?まだ決めてないからリクエストに答えるわよ。」


「マジ?じゃあ唐揚げ食いてえ。」


「あんた揚げ物とは好きよね。」


「子供のころにほとんど食えなかったからその反動かもな。」


「……そっか。鶏肉切らしてたと思うからちょっと買い物行ってくるわ。一緒に来る?……って一緒にスーパーなんて行ってたら勘違いされそうだし来るわけないわよね。行ってくるからゆっくりしてて。」


「ああ。」


そのまま俺を残して出ていく。

あいつには危機感が足りない気がする。

いくら気心の知れた親友とはいえ異性の俺を部屋に残して出ていく鈴音がちょっと心配になる。


しばらくスマホを弄っていたが話し相手もいなくなった俺はソファで横になりうとうとし始めていた。

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