第7話

「伊庭は私の親友よ。これからなにがあっても絶対伊庭を……優也を裏切らないわ。」


「ああ。俺も中里の…いや、鈴音の味方だ。なにがあろうと鈴音を守る。」


「ありがと。大人になってもずっと親友だからね。年取って疎遠になるなんて嫌だからね。」


「もちろんだ。誰になんと言われようと俺たちの関係は変わらない。約束だ。」


「約束ね。」





俺は揚げ物のジュワジュワという音と唐揚げのうまそうな匂いで目を覚ました。

久しぶりに高校のころの夢を見ていたようだ。

最後は俺たちが仲のいい友達から親友に変わり名前呼びになった場面だった。

それから俺たちはずっと親友で今では二人で居るときはお前、あんたと呼びあっている。

余りの親しさに色々勘違いされそうだから回りに人が居るときは名前呼びだが。

横になったときにクッションに顔を埋めていたらしく自然に鈴音の匂いを感じたせいで昔の夢を見たんだろう。


「よく寝てたわね。そっちで食べるから出来てる物を運んでちょうだい。」


「わかった。」


俺はサラダや取り皿などを運びちょうど揚げ終わった唐揚げを最後に運ぶ。

鈴音はご飯をよそってビールと一緒に持ってくる。


「じゃ、食べましょ。」


「いただきます。」


俺はまず唐揚げを食べる。

俺は料理が出来ないのでどんな隠し味を使っているのかわからないが市販の惣菜やレストランのとは全く違う味で滅茶苦茶うまい。


「やっぱうまいな。お前の唐揚げは。」


「ありがと。唐揚げぐらい料理が出来れば誰でも作れるけどね。」


「いやいや。なんか隠し味あるだろ。そこらの唐揚げよりマジでうまいぞ。」


「煽ててもなんにもでないわよ。それよりあんたなんで彼女と別れたのよ?」


鈴音は誉められて照れたのか昼にも話題に出た元カノの話を始めた。


「好きだったんでしょ?」


「まぁな。好きと言えば好きだったけどやっぱまだダメだった。」


「そう。あんたには過去のことを乗り越えてほしいのよ。そのためなら私はなんだってするわ。」


「お前には感謝してるよ。今の俺があるのはお前のお陰だ。お前が居なければあの頃に俺は壊れてた。」


「お互い様よ。だからこそ私たちは親友以上って言える関係になったんだもの。これからもずっとね。」


「だな。ところでお前は彼氏作らないのか?大学では交遊関係広いし女神って言われてるぐらいだからモテるんだろ?」


「私のどこが女神がわからないけどけっこう告白はされるわね。もちろん全部断ってるけどね。そもそもよく知りもしないのに告白してOKされると思ってる男ってなんなのかしらね。」


「とりあえず付き合ってみるのもアリだろ。後から好きになることだってあるだろうし。」


「私はそういうの嫌なのよ。あんたより優先したくなるような男じゃないとね。あんたは告られたらとりあえず付き合ったりしてるでしょ?最近は大学とかバイト先とかにいい子はいないの?」


「いないな。最近、高校生で一人たまに話すようになった子がいるけどバイト以外で会うこともないしな。そういえば昨日のバイト帰りに男に絡まれてた子を助けたぞ。」


鈴音は興味深そうに身を乗り出して「その話詳しく。」と催促してくる。


「店の近くの公園で雨の中ブランコに座ってる女の子がいて男が二人でナンパしてんだけどな。最初はスルーするつもりだったんだが明らかに女の子は嫌がってて涙目だったのに無理やり連れて行こうといたから思わず間に入ったんだよ。」


「あんたまさか殴ったりしてないわよね?」


「ちょっと威嚇したら逃げたから手は出してないよ。」


「ならよかったわ。それで?」


「そいつらがまだ近くに居たら面倒だから家の近くまで送るっつって✕✕駅まで送っただけだ。」


「ふーん。でも珍しいわね。あんたがそういうのに関わるのは。その子がタイプだったとか?」


「違うけど滅茶苦茶可愛い子だったぞ。まぁまだ中学か高校生ぐらいだったけど銀髪碧眼の子で成長したらお前といい勝負が出来るぐらいになるだろうな。」


「えっ?その子ってもしかして……ってまさかね。そんなこと………」


なぜか鈴音は混乱しているのかぶつぶつと小声でなにか言っているがどうしたんだろう。


「どうかしたのか?」


「その子って✕✕駅まで送ったのよね。じゃあやっぱり違うか。」


「いや。たぶんだけどその子の家は途中にあったぞ。俺のアパートに行く路地の近くでその子の目線と表情が変わったからな。急に意識が前から後ろになって俺に申し訳なさそうな顔になってたからな。うちの近くのオートロックの高級マンションあるだろ。あそこは1LDKだから高校生の子供がいる家族が住むには狭いとは思うけどな。」


「やっぱり間違いなさそうね。………あんたのその観察眼というか洞察力ってやっぱり異常よね。はっきり言ってちょっと怖いわよ。私以外には今みたいなの気付いても言わない方がいいわよ。」


「言わねえよ。言ったらストーカー扱いされそうだろ。」


「ええ。ビールもう一本飲むでしょ?」


「ああ。」


鈴音は立ち上がって冷蔵庫に向かう。

そのとき小声で「助けたのが誰かは言わない方が面白そうね。大学で見かけたときのリアクションに期待しよ。」と言う鈴音の呟きは俺には聞こえていなかった。



それからしばらくビールを飲みながら雑談していたが夜遅くなってきたので俺は帰ることにした。


「そろそろ帰るわ。ごちそうさま。いつもありがとな。」


「いいわよ。来週も来なさいよ。あんたとの週一回のこういう時間は嫌いじゃないから。」


「ん。じゃあな。」


俺はヒラヒラと手を降り帰路に着く。

鈴音との今の距離感は心地よくて気に入っている。

端から見たら親友ではすまないかもしれないが俺たち二人の感覚では今の状態が理想的な関係だった。

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