第48話 太陽と豆柴。膨れる前の胸の匂い。

「いましたよ!」

「おお!」


 俺の対戦相手探しという旅は、レアなポケモンを探すよりも難航していた。

 出発してから丸三日なんの手がかりもなく、ただのつるやちゃんとのキャンプデートが続いていた。正直、なんの不満もなかった。

 しかしながら、見つかったのはイイことだ。

 この世界、高い木とかないから遠くを見るの難しいのよ。

 つるやは、なんか魔法で遠くを見てます。詳しくは知りません。


「どう?」

「一人です」

「人数はどうでもいいよ」

「えっと、歩いてます」

「何してるかもどうでもいい」

「ええっとー、小さいです」

「まあ、大きさも別にどうでもいい」

「ええ~っと~、可愛いっぽいです」

「おお! つまり?」

「つまり……つまり?」

「男か、女かですよ! 決まってるでしょー、もー」


 何を言ってるんだよ。

 この世で一番大事なことは、性別!


「ああ、そうでした。オスガキを探してるんでした」

「……」


 んー。まあ、そうだが……。

 そうだが、さっき「可愛いっぽい」って言ってるわけだし。


「メスガキがいいよー!」


 思わず叫ぶ俺。「そうなりますか」と 呆れながら笑う、つるや。

 オスガキなんて会いたくもないよー!

 しょうがないから闘ってるだけだよー!


「で、どっちなの?」

「そうですねー……わからないです」

「ええ!?」


 可愛いっぽいことはわかるが、オスメスの区別はつかんとな?

 また、ふんにゃみたいなボーイッシュ系なんですかね……。


「ま、会いに行くか」

「そうですね」


 5分ほど、歩くと。


「おっ、肉眼で確認」


 基本見渡す限り草むらなんで、発見はしやすい。ジャングルだったら大変でしたよ。

 確かに見えたけど、確かに男女不明。小さいってことしかわからん。ゆきうより小さいじゃないか。


「おーい」


 つるやが、遠くから声を掛けるが。


「ぽーぽぽぽー♪ ぽぽぽぽぽー♪」


 気づかずに、呼び込みくんみたいな歌を歌っていた。ドンキのお菓子売り場みたいに。なんかアホっぽいな。

 めっちゃ近づいても、まったく気づかない様子。

 しかし小さいな。


「おーい!」

「うわあ!」


 改めて声をかけたら、びっくりしています。こいつ弱そうだな。


「え? うわっ、でけー!」

「お前はちっちぇーな」


 振り返ってようやく顔が見れたが、なるほど。これはわからないね……。

 ボーイッシュというより、単に子どもすぎて。

 いままでメスガキ……いやオスガキも含めた悪魔ってやつらは、12~14歳くらいなんですよ。中学生かな~、小学生かもしれないな、くらいなんですよ。

 こいつはね、明らかに小学生。しかも高学年に見えない。小学校3年生か4年生くらいなんですよ。メスガキというか、ガキ。

 髪もそんな長くないし。マジでオスなのか、メスなのか。

 おっぱいは全然ない。ないが、この感じなら女子でも胸はないだろう。よって性別は不明!


「メスですか?」


 わからないときゃ、直接質問!


「はあ? だれ?」


 ガキは質問に答えない!

 まあ、いきなりこんな質問に答えるやついないか。俺も「お前って男?」って言われたら「はい男です」って答えるもんな。俺って素直なやつすぎない?

 素直な俺は、自分がだれか答えます。


「俺は勇者の渡良瀬勇だ。プロレスラーを探しに来た」

「……わかんない。全然なに言ってるかわかんない」


 まあ……そうかもな……。

 俺も自分が何者で何をやっているのかと思うよ。俺っていったい……。


「わたしは、つるやです」


 つるやちゃんが自己紹介で場を和ませてくれた。悪魔同士はあまり知り合いではないことが多い。


「ぼく、わかるてぃ」


 一人称は、ぼく。男か……?

 でも、笑うと結構可愛いぞ。

 いや、でも可愛い男子の可能性も捨てきれない。

 しかし……

 もういい、俺は俺の方法で確かめる!


「メスガキの匂いがぷんぷんするゼェ~!」

「ぎゃああ!」


 くんかくんかくんかくんか!

 見た目でわからなければ、匂いを嗅げばいいんだよ!

 髪の毛、うなじ、ワキ、おしり、おなか。

 匂いを嗅ぐ、嗅ぐ!

 くんかくんかくんかくんか!


「なんだこいつ、やめろ!」


 抵抗など無駄なんですよ。

 こんな小さな子どもは、俺に腕力でどうこうしようなどと。無力、無力ゥ!

 ふーむ、この胸元のふんわりとした香り……ミルクのような、子犬のような、おひさまを浴びた布団のような……この子どもならではの匂い……そこに混じっているメスの匂い!


「お前、女の子だなーっ!」

「いいからやめろーっ!」


 念の為、お股も触っておきました。なかったです。間違いなく女子!


「あの、わたしは女の子だってわかってましたけど」

「そうなの!?」

「声で」

「あ、声でね!?」


 確かに、声は男子の声ではないな。

 なるほどねー、声ねー。


「うう……」


 いいようにされた、わかるてぃは恨みがましくこちらを見ている。


「よしよし」

「やめろっ」


 頭を撫でてやったが、振り払われた。いままでのメスガキはみんな頭を撫でられるの好きなんだがなあ。

 まさか嫌われたのかしら。思い当たる節がないなあ。

 しっかし、こいつはチビっ子すぎて俺とプロレスをするなんて無理じゃん。あと……エロいことも無理じゃん。


「じゃーな」

「ちょっと!?」


 先を急ごうとしたら止められた。

 いや、だって、なあ?

 目的はえっちな女の子を探……違った、俺のプロレス相手探しですからねえ?

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