第47話 モチベ? うるせえ、いいからやれ。

 ふんにゃの魔法により、全レスラーが投げ技、飛び技が使用可能となった。ますますプロレスは盛り上がっております。

 本日の対戦カードは、ゆきうVSふんにゃ、しまんVSあいらん。

 俺が見てても、楽しく激しくかわいいプロレスだ。

 とはいえ、なぜか俺の人気は高く……


「勇者の相手はいないのかー」

「やっぱり勇者とオスガキが見たいわ」


 人気者はつらい。

 しかたがないので、またしてもオスガキを探す旅に。


「このまま二人でどっかいっちゃいます?」

「お前たちはみんな同じことを言うね」


 今回のパートナーはつるや。

 彼女はレスラーじゃなくて、物販とか裏方を担当しているから比較的手が空いている。他のメンバーは練習があるからね。

 つるやちゃんはメスガキの中では一番身長が高く、髪も長い。

 同じスレンダー系でも、しまんは不良っぽいというか、ヤンキー女子というか。

 つるやは清楚なお嬢様という印象の女の子。特に最近は俺に歯向かわなくなったので、淑女感が増している。


「人間たちにプロレスを見せてあげるって、意味がよくわからないですよ」


 つるやちゃんは、おしとやかに微笑みながら、二人でどっか行っちゃう理由を述べた。


「まあ、ほんとそうなんだよな」


 なんであいつらのために、そこまでせなあかんねん。

 人間たちのために召喚された勇者だからといって、俺がそのために努力する必要があるんでしょうか?

 マジでどっか行っちゃうか、と言おうとしたのだが。

 つるやは目の中に星が見えるような、キラキラした顔になって人間たちのフォローを始めた。


「ただ、物販やってると、みんなが本当にプロレスについて言葉を交わしてまして」


 ほ、ほう……?

 言われてみれば、物販での人間たちの様子は知らないな。


「あいらんのプロレスは本当に熱いとか」


 そうなんだよ。あいつ熱いんだよな。

 技入るときの「いくぞー!」とかで客沸かせるし、2カウントで返したときの顔とか思わず応援したくなるよな。


「しまんはクールに見えるけど闘志がすごいとか」


 わかるー! ってかわかってるー!

 そう、しまんはね、テクニックじゃなくて実は魂のレスラーなんですよ。だからシャイニングウィザードとか、ケンカキックみたいな技で盛り上がるのよ。


「ゆきうは可愛いのに、ダメージを受けてからのガッツがあるから応援したいとか」


 まじか!

 それわかってるの人間!?

 あの歯を食いしばって、ボストンクラブを食らってるときの顔。すごいよね。俺そのときのブロマイド買っちゃったよ。


「ふんにゃはボーイッシュなのに、華麗な技を使いこなしてカッコいいとか」


 そうなんですよ。

 一番女子プロレスラーっぽくて、華やかな試合をするんだよ。

 ノーザンライトスープレックスとかね。ドラゴンスクリューからのシューティングスタープレスね。見応えしかないからね。最高ですよ。


「ただ、なんといっても一番人気はユウですよ。もういろいろな意見が」

「あらそう?」


 一回しか闘ってないのに、一番人気なんだよなー。だから困ってるというね。いやー参ったねー。


「デカいやつが負けたところを見たいとか」


 あー、うん。まあ、わからんではない。

 判官贔屓ね。あるよ。ビッグバン・ベイダーがね、負けるところとかね。スコット・ノートンがね、投げられるとかね。いいよね。わかるよ。


「調子に乗ってるから、負けたときが楽しみとか」


 ああ、はい。

 ま、プロレスラーがビッグマウスなのはそれを狙ってるってのはありますよね。「秒殺だよ、秒殺」とか言ってからの60分フルタイムドローとかね。

 そういう悪役ヒールもね、俺は好きですよ。


「とにかく負けるのが楽しみとか」

「おい! どうなってんだよ! 全員負けて欲しいレスラーがいるかよ!」


 人気あると思ってたのに!

 そういう意味でだったのかよ!

 クソ人間どもめ!


「ふふふ。嘘ですよ、そういう意見もありますけど、ほとんどまた最高の試合が見たいとか、やっぱり一番すごいプロレスだって」

「あらそう」


 ごめんね人間。一部の意見を全人類の意見と思ってはいけない。


「わたしもそう思います。やっぱりパワーも迫力もすごいですし。なによりカッコいいですから」

「ほう。カッコいい?」

「普段からカッコいいですけど、プロレスしてるときが一番カッコいいです」


 そっかー。

 つるやちゃんがそう言うなら、まあしょうがねえ。やるしかねえべ。

 強くなり始めた朝日を浴びながら、草原を走る風に歯向かうように叫ぶ。


「クソガキー! でてこーい!」

「でてこーい!」


 叫ぶのはどうなんだと思うかもしれんが、これは効果があるのよ。

 悪魔は基本的に俺達を見てほっておかない。何調子に乗ってんだ、と絡んでくる存在だ。神室町で桐生ちゃんが走ってたらチンピラがほっておかないようにね。


「……いないね」

「そうですね」


 俺達はテントを張りながら、肩を落とした。

 日が沈む前に、キャンプの準備をしなければならない。

 忙し、忙し……


「ん~」


 唇を突き出すつるや。


「いや、あの、今は早く準備をね」

「ん~」


 おねだりをする、つるや。

 しょうがないにゃあ……


「ん……」


 軽くチュッとしたのだが……


「んん!?」


 舌を入れられ、ガッと体を寄せられ……

 そのまま、俺達は夜のプロレスをすることになったのだった……

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