第46話 ごめんね、オーラが漏れちゃって。

「おおっ! いいケリ! いいね、もっと、もっとくれよ!」

「きもーっ!?」


 おいおい、なんて言われようだ。

 ボコボコにされてあげてるうえに、褒め称えてあげたんだぞ俺は。

 喜んでくれてもいいだろうに。


「ケリはいいんだよ。プロレス技として。音がでかい方がいい」

「知らないし……」


 ふんにゃはテンションが下がった。なんでだよ。


「ほら、エルボーとか、してきな」

「指図すんな!」

「指図じゃないよ~、トレーニングだよ」

「トレーニングもすんな!」


 わがままだな……メスガキらしいよ。

 しょうがね、もっとボコボコにやられるか。


「ほい、どうぞ」


 ごろんと寝っ転がった。

 無防備MAXです。


「ほら、好きに攻撃しなよ」

「じゃあ魔法で……」

「魔法は駄目でしょ」

「好きに攻撃しろって言ったじゃん!?」

「プロレスのルールの中でだよ!」

「知らないって言ってんだよ!」


 わかんないやつだな、もー。

 

「黙ってボッコボコにされる約束だったよね?」

「くっ……」

「黙ってろ~」

「そうそう、黙ってやられなよ」


 なんでゆきうもそっちの味方してんだよ。

 くそー。

 なんか魔法の準備を始めてる。好きにしてくれ。


「うおおおおお!」


 !?

 なんか体の周りにオーラみたいなやつが!?

 スーパーサイヤ人みたいでカッケー!?


「これでパワーやジャンプ力が増幅されるんだ」


 なんだよ、そういう魔法なら大歓迎なんですけど?

 ええ?

 プロレスラーにもってこいの魔法じゃん。

 オーラが見えるとか最高かよ。


「覚悟しなよ」

「おう!」


 むしろ楽しみなんですけど。

 

「おらあ!」

「おおう!」


 俺を持ち上げた!

 すごい!


「ぽいー」

「おお!」


 投げた!

 惜しい!

 単に投げるだけだと見栄えがしねえ!

 

「な、なに? 痛くないの?」

「ん? まあ、受け身取ってるからね」


 まったく痛くないってことはないが、所詮女児の身長で投げられただけのこと。

 ボディスラムのように叩きつけるなり、自分の体重も乗せて地面に叩きつけるパワースラムにすればダメージは数倍ですよ。


「う、うけみ? 魔法?」


 普通の柔道の受け身を魔法だと思う感じ、異世界転生ですねえ。


「ま、どうぞどうぞ。黙ってボッコボコにされますんで」

「生意気な」


 ゆきうは、にやにや見ている。一番生意気なのあいつだぞ。


「とうっ」

「おお!」


 すごい。仮面ライダーみたいにジャンプしてる。自分の身長より跳んでるよ。すごいね。


「とうっ」

「おふっ」


 そのままボディプレス。

 痛いっちゃ痛いよ。でも、これって寝てるところに妹かなんかが「おにいちゃーん、起きてー!」とか言いながら体当たりしてきただけです。

 全然嫌じゃないと言うか、まあ嬉しいですよね。ええ。

 こうやって体当たりされると、ボーイッシュだけどやっぱり女の子なんだなーと思いますしね。ええ。


「ちょっ、なんで抱きしめんの!?」

「黙っておきます」


 黙って抱きしめる。ええ。柔らかい。いい匂い。ええ。


「くっ。力つよっ」

「あら。自力では抜け出せないかな?」

「そんなことっ、ないしっ」


 くふふ。かわいらしいこと。

 ま、ここでだいしゅきほーるどしててもしょうがない。ちょっと力を抜いてあげましょう。


「ふうふう。伊達にデカくないね……」


 だいたいみんなこれ言うよ。でもデカさが強さなんだよね。

 さて、次の攻撃は?


「なんか、効いてる気がしない……」

「おいー。諦めるの早いって~」


 あなたには根性が足りないわ。

 もっと来いよ。


「ほら、ジャンピングエルボーにしたらさ、ただ降ってくるより痛いじゃない」

「なんで助言してんだか」


 助言しないとやんないからでしょー! もー! 明日からはちゃんと自分で起きなさいよー?

 ふんにゃは、少し助走をつけてジャンプ。

 肘から降ってきて、俺の胸に。


「ぐほおお!」


 痛いじゃない!

 ほらー、やっぱエルボードロップは効くのよ。


「効いたかな」

「効いた効いた。ニードロップは? ジャンピングニー」

「効いてないじゃん!?」

「いや、効いてますよ。効いたから次のアイデアがすぐに浮かんだんですよ」

「効いてたらセリフなんてまともに言えないの!」


 口の減らない……

 俺が声が出ないくらいダメージ受けるわけないだろ……。


「ま、でもやろうかな」

「おっ。いいよいいよ」


 またしても軽く助走して、たかーくジャンプ。

 両膝から俺の脚に! お腹でもよかったのにね!?


「うわー! うん、痛いね」

「絶対勝てないじゃん!? なんなの?」


 まあ、そうなるか。

 勝てるわけはないんですよ。俺に。


「まあ、気が済むまで殴りなさいよ」


 ストンピングをされるが、まあ別に。


「立って」

「はいはい」


 ローキック、腹へのパンチ、走ってきてからのエルボー。悪くないよ。


「アドバイス」

「えっ?」

「もっとダメージのある攻撃方法を教えなさい」

「おー。いいねー」

「なんで喜んでんの」


 そりゃ喜ぶよ。俺をもっと痛がらせてくれよ。


「まあ、俺を持ち上げられるわけでしょ。それならいろいろできるわけよ」


 腰を持ち上げてから、肩を叩きつけるパワーボム。

 高く持ち上げてから、一緒に後ろに倒れ込むブレーンバスター。

 後ろから腰を持って、後ろにぶん投げるという、投げっぱなしジャーマン。

 などなどプロレス技を伝授。

 投技ができるのはデカい。見栄えがします。


「痛ってえええええ! いいねー!」

「もうわかった。このまま強くしてもらって、絶対泣かせてやるから」

「いいぞ、その意気だ!」


 こうして新しい仲間ふんにゃをプロレスラーとして、お迎えすることになったのだった。

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