第45話 高い志があるから、土下座ができるんだよ。

「おにーさん♡」

「な、なんだよ」

「このまま~。ふたりで~。どっかいっちゃう~?」

「お、お前な……」


 出たよ。ゆきうのスーパーメスガキモード。

 プロレスの対戦相手を探す旅(ナムコ三国志でいう情報集めですね。若い人わかんねえよ)に出た途端にコレですよ。

 俺たちはさ、小さな人間たちのためにも、オスのガキを見つけて……


「どっか行っちゃうか」

「ね~?」


 どう考えても、ゆきうと二人でイチャラブ生活をしたほうが幸せになれるね。

 なんで男のガキなんて探さなきゃいけねんだ。


「どっち行くかね」

「とりあえず川沿いにいこ」

「そーだな」


 飲み水に困らないし、体も洗えるし。なにより魚が手に入る。

 悪魔は魔法で水を生み出せるから、どこでも行けるんですけども。体のでかい俺が欲しがるほどの水となると難しい。溜める桶がないからね。

 とりあえず川に向かう俺たち。

 このシンシャの町に来てから、川まではちょいちょい行ったことがある。


「手握ろ」

「お、おう」


 なんだこいつ……二人きりになった途端、甘えやがって……


「かわいいいいいいいい!!!!!」

「でしょ~?」


 どうやら俺はチョロかった。

 マジでこのまま逃げようかな。


「あ、あれって……」

「うわっ見つけちゃったよ」


 野生の悪魔を発見。

 川にたどり着く前に。

 まあ……ラッキーなことなんだろうけども……。


「男子っぽいね」

「だなー」


 後ろ姿だが、黒髪の短髪だ。背もちょっと高い。

 草むらをゆっくり歩いてる。


「おい、そこの悪魔」

「ん?」


 振り返った悪魔は……


「やっぱり男子か」


 ゆきうはそう言ったが……


「ち、違うぞ。これはボーイッシュなだけだ。メスガキだっ!」


 男がこんなに可愛いわけがないっ!

 俺を騙そうったって無駄だぜ!


「なんだよ? って、で、でけえ! なんだお前!」


 ま、俺を見たらみんな同じリアクションだね。

 それはともかく。


「ほら、声が女の子だもん」


 ゆきうに話しかける俺。


「あー。そうだねー」

「な?」


 やっぱね。俺が見間違えるわけないんですよ。

 胸もほんの少しだけあります。この世界の悪魔、ほんの少しだけありがち。


「おい、無視すんな!」


 口調もボーイッシュな感じだな。威勢がいいね。

 服装も短パンみたいな丈の短いズボンと、ティーシャツみたいな服装だし。


「元気がいいね。お名前は?」

「お前が先に名乗れよ」

「これは失礼。渡良瀬勇と申します」

「ふん……変な名前」

「ああ、はい。それであなたは?」

「ふんにゃ」


 ふんにゃ!?

 ふんにゃに変な名前って言われてんの俺?

 いや、まあ俺のほうが特殊なのは間違いないか……んー。


「ゆきう、こいつ知ってる?」

「知らなーい」

「ふんにゃって名前は変じゃない?」

「変」


 変じゃねーか!

 なんだよ!

 まあそれはいいや。


「ふんにゃ」

「なんだよ。名前変じゃねーよ」


 気にしてるんかい。

 やっぱりメスガキ。可愛いもんだよな。

 本題に入りましょう。


「俺とプロレスをしてくれ」

「……何言ってんの?」

「気持ちはわかる。わかるが、俺とプロレスをしてくれ」

「いや、本当に何を言ってるのか意味がわからないんだけど」


 ……確かにな。

 プロレスって言葉が翻訳できないよな。


「小さな人間たちの退屈を紛らわせるために、俺とお前がリングの上で戦ってみんなを楽しませるんだ」

「……何言ってんの?」


 説明したところで理解は得られませんでした。


「ま、難しいよね~」


 ゆきうがしょうがないよ、みたいに言う。


「おにーさんには勝てないからね。負けるのが怖いんでしょ」


 そういうことではないと思いますが。

 なぜか腕を組んでうんうんとうなづくゆきう。何をわかったというのだろうか。


「は? どういうこと?」


 ほらー。ふんにゃが怒ってるじゃん。どしたん、ゆきう。


「なんもわかんないんだね。かわいそ」

「なにあんた。なんでそいつの味方してんの?」

「あなたもすぐにおにーさんの味方になるんだよ」

「なんないし」

「なるし。プロレスで完膚なきまでに負けてそうなるし」


 ははーん。

 なるほど。こうやって煽って、プロレス対決に持ち込む作戦か。

 やるじゃん、ゆきう!


「そんなこと言われてもやんないし」

「駄目だった」

「駄目だったんかーい!」


 ズコー。

 ペロッと舌を出したゆきう。んもー。


「やってくださいよ、プロレスー」

「やるわけないじゃん」


 言われてみれば、やるわけないんだよな。メリットがねえもん。


「なんでもするからさー」

「えっ、なんでもする?」

「ゆきうは黙ってて」


 もはや邪魔だった。


「いや、別に……」

「重いものを運んだりとかさ、ちょっと危ない作業とかさ」

「いらない」

「まあ、そう言わずに……開かないビンを開けるとか、高いところに仕舞っちゃった毛布を取るとかあるでしょ」

「ない」


 くっ……手強いな。

 男手が必要ないとは……。


「じゃあ土下座するしかないか」


 小さな人間たちのために土下座をしてもいいと思えるようになったとはなー。


「それもいらないし」


 くっ……確かに……土下座されても嬉しくないよな。


「じゃあどうすりゃいいんだよ!」

「おにーさん……」


 今は優しくしないでくれ、ゆきう。


「じゃあ、俺が今からお前を倒すから、負けたら言うことを聞く?」

「負けたらプロレスをするってこと? 勝敗をつけたのにまた戦うの? なにそれ」

「それ言っちゃう?」


 気づくなよ、そこに~。

 もう他に方法ないんですよ?


「黙ってボッコボコにされるっていうのは? それならいいけど」

「えっ、そんなことでいいの? 全然いいよ!」


 いじわるな顔で言ってるけど、こりゃ楽勝ですわ!

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