第33話 夕暮れに「いい子じゃないから帰らない」って言うやつだったな
俺たちは町から日が沈む方向の出口で待っていた。
原っぱに、ごろっと座ってお茶をしながら。ピクニック感覚だ。
やがて夕日をバックに、少女らしきものが近づいてくるのが見えた。
「おっ、来たんじゃないか?」
「あー。ありゃ、つるやだな」
「つるや?」
「あんま知らんけど」
あいらんがそう言うので、ふたりの顔を伺うが、しまんとゆきうは知らないようだ。
つるや、という女の子は、しまんと同じくらいか、ちょっと背が高めだ。
編み込みのある長い髪。紺色でつややかだ。ゆきうにちょっと似てるか?
ゆきうはお団子で黒髪、丸顔で妹系の印象だが……。対して彼女はやや面長でお姉さんっぽい印象を受ける。お嬢様系というか、気品を感じますね。お姉さんって感じ。
服装もワンピースですかね。白と青の。フローラみたいですよね。ビアンカみたいに小さい頃出会ってたら、こんな感じだったのかもしれませんね。
「……え? あいらん?」
「おー。ひさしぶり」
「なにこれ?」
俺に向けられる人差し指の先。いいですね、メスガキですね。
「わたらせゆ」
「わたらせゆ……」
訝しむように俺を睨む。
あまり見上げたことがないのだろう、首が痛そうです。
「わたらせゆって、なに?」
「俺の名前だ。渡良瀬勇と言います、はじめまして」
「えっ? はい、はじめまして」
ずーっと?の顔をしてますね。かわいいですね。
「この世界の人間に召喚された勇者です」
「あ、あ~。えっ? 敵?」
「そうなりますかね」
「敵にしては、礼儀正しい方ですね」
「そうだろそうだろ、わたらせゆは礼儀正しい」
あいらんはなぜか嬉しそうだ。
「この三人は? なんで一緒に?」
「俺がわからせて、今じゃ一緒に暮らしてる」
「はー。三人まとめてですか?」
「あっ、いや、それぞれだね」
「え? なんで協力して戦わないんですか?」
なるほどー。その発想はなかった。
俺と悪魔三人は、揃いも揃って同じ顔になった。
「え? 敵なんですよね? 悪魔の」
俺はみんなの顔を見るが、困った顔をしていた。まあ、もはや敵なんて思ってないからね。
「え? わたしが変な感じになってます?」
確かに正論なのは彼女の方なんだよな……。
どうしたもんかと思っていたら、しまんが一歩前に出た。スタイルの良さがわかる、ビシッとしたカッコいい立ち姿。
「もういいから、さっさと戦って負けよう」
「なんでですか!?」
腕組みして見守る俺とあいらん。ゆきうも頷いている。
そう、しまんと同じ意見なのだ。
あいらんが、ぽんと尻を叩いた。お前もなんか言えということだろう。
「正直、俺も早くキスしたいなーとしか思ってない」
「はあああ!?」
何この人、何を言ってるの?
という表情だが、あいらん達も「そうだろうな」という顔で見ている。だって、どうせ楽勝だし、他の三人とは違った可愛さがあるなーとしか思ってないし。
「なんでそうなるんですか」
「なんでって……カワイイから」
「そういうことではなく! え? カワイイ?」
「嬉しいだろ? わたらせゆは、結構言ってくれるぞ」
「そうなの!?」
嬉しそうじゃん。さっきまでと雰囲気変わったな。
「はっ……まさか、それで籠絡したってこと?」
と思ったら、一瞬でまた元に戻った。
あらためて俺を睨む、つるや。俺を結婚詐欺師みたいに思っているのか。
「いや、そういうことじゃないが」
あいらんが、手のひらをチョイチョイっとやって否定。
「そう。ユウは強いから」
「おにーさんはヤバイよ。強すぎだから」
しまんとゆきうは、やはり嬉しそうだった。
「四人で倒そうよ。悪魔の敵なんでしょ?」
正しすぎる意見を言う、つるや。一番、賢いのかもしれない。まあ、勉強できそうな感じもする。
「んー。どうする? そうしてもいいけど」
俺はそう提案してみるが……
「無理無理」
「ないない」
「もうわかってる」
三人はとんでもないとのことです。まあ、俺もいまさら痛いことなんてできないしな。たまには踏まれるのもいいかなと思っただけだ。
つるやちゃんは、俺を小首をかしげながら見上げる。大きな目を見開いて。やっぱカワイイぞ。
「そんなに強いんですか?」
「まー、負ける可能性はないと思うね」
「大した自信ですね」
と言われるが……どんだけ油断しても負けないと思います……。
「わたしは、そんなに弱くないですよ」
「お。そっか。何で攻撃するの?」
「言うわけないでしょう!?」
それもそうか。
俺は攻撃が当たりやすいように、しゃがんだりなんだりしようと思ったんだが、普通に倒そうとしてたら攻撃方法を教えるわけ無いね。
「ま、俺からは攻撃しないから。どうぞどうぞ」
「そうやって油断させる気ですね」
信じてくれねーな。
三人も苦笑いしている。
とりあえず膝立ちして待機。
「な……どういうつもりです」
「攻撃しやすいでしょ?」
「バカにして……!」
怒らせるつもりはなかったのだが。
まあ、ひょっとしたらこの三人よりも強いのかも。
「これでも、くらえっ」
なんと、いきなり顔面にキックだ!
さすがにコレは痛いのでは?
左下から、ハイキックだ。
「あー」
一番痛くなかった。
体重乗ってないし。腰が捻れてないし。
「もっとこう、助走つけてから蹴ってもいいよ?」
と俺が、言うと……
「「あっはっはっは」」
笑い転げる少女の三人。
「な、なによっ!」
顔を真っ赤にする、つるや。辱めるつもりはなかったんですが。
彼女を傷つけないように気を使ってることが、なおさら面白かったようだ。精神的にわからせるというのも、効果的かもしれないな。
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