第32話 女の子に好かれてイヤなことって、あるんだな。
「な、なんだなんだ!?」
「で、でかすぎる!?」
まあそうなる。
俺はこの世界ではゴジラとかウルトラマンのようなもんですからね。
女児が遊ぶ人形のような人々が、俺を見上げて驚愕する、久々の光景だ。
「勇者でーす! アカネ王女に召喚された勇者でーす!」
どうも、自己紹介しなきゃいけない勇者です。
「勇者に負けた悪魔だぞー! 強いぞー!」
自分が負けたことをアピールする悪魔、あいらんです。
「シンシャ姫とみんなを救いに来たぞー!」
勇者みたいなことをいう悪魔、しまんです。
「邪魔したらころすぞ―!」
悪魔みたいなことをいう悪魔、ゆきうです。
「あのー、シンシャ姫どこにいますー?」
道案内を頼む俺。それっぽいお城とか無いんだよね。
「あっちだよ」
「おー。かわいいお嬢ちゃん、ありがとうねー!」
手を振る俺。人間のこどもはかわいい。シルバニアファミリーみたいですよ。
町並みはおおよそアカネ王女の町と変わりはない。
シンシャがいるらしい家は……ちょっと入れませんね。この町には大きな建物がなさそうだ。アカネ王女の町の方が豊かだったのかもしれない。
真ん中の道以外は、狭すぎて歩くことはできない。どうしたもんか。
「シンシャっち~! でておいで~!」
あいらんは、子どもが友達の家に遊びに来たみたいに声をかけた。おいおい、お姫様だぞ? 野球やろうぜ磯野~じゃないんだよ。
「はいはい、は~い」
出てきたよ。
アカネ王女と違ってお高く止まってないのかな。
「あら~。大きなお方」
シンシャらしき女性は、アカネと同様に深い緑のロングヘア。肌の色や目の色なども似てはいたが、雰囲気がまるで違う。
優しそうで、おおらかそうで、ぽわぽわした雰囲気だ。好感度高いぜ!
「どうも、勇者です」
「これはこれは勇者様。ようこそおいでくださいました、シンシャと申します」
両手を合わせて、神に祈るかのように俺を敬う。
なんていい人なんだ! どっかの誰かは爪の垢を煎じて飲め。
「勇者様のお名前は?」
俺の名前を知ろうとしてくれているだと……。当たり前のような気がするが、軽く感動しているよ。
「渡良瀬優と申します、シンシャ様」
「シンシャとお呼びください、勇者の渡良瀬様」
なんとよくできた人なんだ……。
こちらの態度も変わっちゃうよ。
「ここに来る途中、男の悪魔がいたのでボッコボコにしておきましたよ、シンシャ」
「まあ! 渡良瀬様は強いのですね」
「いや、俺が出るまでもなくこの三人が倒してくれたよ」
俺は、あいらん、しまん、ゆきうの肩を抱いて紹介する。
「まあ……許されざる悪魔ども……」
あらっ。すごく怖い顔。
しかしまあ、しょうがない。これは説明不足でしたね。
「確かに、悪魔だけど。今やすっかり俺の仲間なんだよ」
みんな笑顔で、シンシャに向き合う。
「悪魔を従える渡良瀬様はご立派ですが……首輪などをつけてはいかがでしょうか」
……え?
「いや、ペットじゃないんですけど……」
「奴隷ですよね? まあ二足歩行もどうかと思いますが」
「奴隷でも歩く権利くらいあると思うんですが」
「悪魔など、家畜扱いでも贅沢です」
「あ~」
俺への好感度は高いけど悪魔へのヘイトがエグい感じ人でした~。
「ねえ、おにーさん、こいつの足折っていい?」
「ゆきう、気持ちはわかるがやめてくれ」
「かわいい人間だねー。標本にしたいねー」
「しまん。やめて。すげー怖いから」
「まー。人間なんてこんなもんだよ」
「あいらん。それはそれでどうかと思うぞ、きっとなんか個人的な恨みがあんだよ」
そうだよ。
この人はどう見てもいい人。
姫として、この国を襲う悪魔を許せないんですよ。
それに考えてみれば、納得できることもある。
「ここに来る途中にいた、あのクソガキ悪魔。あんなのが出没してたら悪魔を大嫌いになるのはしょうがないって」
そう。そうなんですよ。
人間にもいろいろいるように、悪魔も一緒です。
あいらんとかしまんのようなね、カワイイ女の子だけじゃないんですよ。やな悪魔ばかりに出会ってきたんでしょう。
「ね、そういうことでしょ?」
「いえ、男性の悪魔はカッコいいからいいですが……女性の悪魔なんて許せません」
「なにぃーッ!?」
「大きな男は素敵ですが、大きな女はただの敵です」
ダメだー!
この女もダメだー!
なんならアカネ王女よりダメだー!
なんだよコイツー!
俺に優しいのもデカい男だからじゃねーか。
クソがよー。
「勇者様は……とてもかっこいいです」
ぽ……と恥じらうクソビッチ。
くっそ嬉しくねえ~。
性格よければいい、とはよく言ったもんです。見た目だけ良くてもダメなんですね~。
「まあいいや、なんにせよ悪魔は俺たちがなんとかするよ」
「ありがとうございます……憎むべき悪魔はいつも日が沈む方向からやってきます」
憎むべき悪魔……つまり、女の子の悪魔ってことか。これは良いニュースだ。
「じゃ、行こっか。女の子は俺がこらしめるから、みんなは見てるだけでいいぜ」
「頑張ってくださいませ、渡良瀬様……」
「あ、うん」
いや、うん……まあ、頑張るけどね。
もはや、まだ見ぬ悪魔の方が好きまであるよ。うん。
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