第29話 人助けは、疲れる。

 シンシャのいる町に向かう道中。

 小さき人間がいるのを見つけた。


「こんにちわー」

「あ、あ~! 悪魔だ~! なんまんだぶなんまんだぶ」


 俺達は人間に話しかけるとまあこうなる。

 なお、この怯えている人間は別に高齢者ではない。なんまんだぶと言ってるからってシニアだと決めつけていませんか? 知らず知らずの偏見に気づくところから始めませんか?

 相手は青年である。


「怖くないですよー。まいねーむいず、ユウ。あいむ、ユウシャ」


 俺はしゃがんで背を小さくさせ、手を広げて敵意のないことをアピールする。


「ユウ、かわいい……」


 しまんが、こらえきれずに顔をにまにまさせているが無視する。


「そうだぞー。怖くないぞー。その気になればすぐに殺せるだけだぞー」

「ひいーっ」

「おい、あいらん。やめろ」

「んひひ」


 あいらんが人間をビビらせたが、このやりとりを見てすこし空気は和らいだ。


「あ、悪魔じゃないんですか?」

「俺は勇者なんだけど。知らない? アカネ王女に召喚されたんだけど」

「あ、あかね王女?」

「王女の名前も知らないの~? 人間ってほんとバカ。滅びたほうがいいよ」

「ゆきう。無駄にディスらなくていいから。ま、そんだけ遠くまで来たってことだろ」


 俺たちの足で五日ほど歩いてきた。

 小さき人間たちではとても徒歩では無理だろう。町と町の間を行き来する人は限られている。

 新聞や雑誌のようなメディアもなく、電話のような連絡手段もない。寿命も短いしな。

 気軽に移動をする悪魔たちのほうが、人間のことを知っているのかもしれない。


「シンシャは知ってる?」

「も、もちろん。シンシャ様の町に住んでますので」

「おお!」


 ついにシンシャの町の住人に出会ったかー。

 まだ町は見えないが、人間の足でこれる範囲ってこと。それほど遠くはないだろう。


「で? 君はなんでこんなところに?」


 この世界はモンスターが出るような危険なところではない。しかし町の外に出る人間はあまりいない。なぜなら人間は非常に弱い存在だから。

 町での脅威は悪魔くらいだが、町の外は危ない。ちょっとした穴に落ちたら死ぬし、ちょっとした水たまりでも溺死。一人で町の外に出るのは非常識なのだ。


「畑にトードが大量発生してしまって……危険なのです」

「トード?」

「あー。あいつらか」

「知っているのか、あいらん」

 

 あいらんは結構ものしりだからな。どういう生き物か教えてもらおう。


「スパイスを効かせて焼くと美味しい」

「食材としてじゃなくて。生物として教えて?」


 食えるという時点で、少し安心はしますけども。あいらんが倒せる相手なんだね。


「まあ、プニョプニョしてて。固くはないね。包丁はさくっと入る」

「まー。うん」


 まだ食材の扱いだが。情報は手に入るね。


「舌が出る。虫を食べる」

「ほう」

「人間は食べない」

「ふむ」

「ジャンプする。あれがやっかい。自分の身長の何倍も飛ぶんだよ。あたったら人間は無事じゃすまないね」

「ほう。で?」

「んとー。緑色」

「んああああああい! 色とかどうでもいいんじゃい! 大きさ! 大きさだろ!」


 重要なのは大きさなんだよ!

 でけえのか、ちいせえのか。それが全てなんですよ!


「おっきーよ」

「でかいのかよ~」


 いや、うっすらアレかも? と思ってたのよ。

 ジャイアントトードってやつ。

 口の中に放り込まれて、ベットベトになるやつだろー。でかいやつには勝てないよ、結局。


「一人じゃ食べ切れないくらい、大きいね」

「でかくねえじゃねえか!」


 あいらんが食いきれない程度ってことは、俺にとっては小さいだろうよ。

 小学生の女の子が捌いて食おうってレベルだろ。鶏よりも小さいね。ウサギよりも小さいでしょうね。つまり……普通に蛙ですね。


「よしよし、余裕だろ。あいらんたちの魔法でかるーくやっつけちゃいましょう」

「ほ、ほんとですか!?」

「畑に案内しちゃってよ。ちょちょいのちょいだから」


 小さな人間を手に乗せ、案内された方へ走る。

 数分も走ったら、畑に到着した。


「って、めちゃくちゃいんじゃねーか!」


 大きさは普通の、俺達が想像する蛙だった。田んぼにいるやつだな。手のひらに乗るサイズというか。この世界の人間よりは大きい。

 この世界の人間から見た蛙を俺たちの世界で例えると……豚とかイノシシに該当するだろう。銃がなきゃ勝てんな。この世界の人間には手に負えまい。


「どう? ゆきう。ドラゴン呼べる?」


 ゆきうはドラゴンを召喚することができる。

 召喚魔法で蛙を一掃できないか?


「怖くて逃げると思う」

「おい~」


 ドラゴンが蛙ごときにビビって逃げるなよ~。情けない。まさに蛙化現象ですよ。


「そりゃ一対一なら勝てるよ? こんなの無理だって」

「そっか……」


 どんだけいるのかわからんが、とにかくうるせー。田舎の田んぼか。


「えー? どうするー?」


 俺はあいらんと、しまんの顔を見る。


「「無理」」


 即答。

 なんだよー!?


「いやー。ここはわたらせゆのキックしかないよー」

「そう。ユウキックしかない」


 キーパーがサッカーボールを蹴るみたいに、熊を蹴っ飛ばすキックのことである。


「疲れるだろ……」

「ユウならできる」

「そうそう」


 こいつら……俺をなんだと思ってるんだ。単にでかいだけの人間だぞ。

 そもそも蹴り飛ばしたとて、ジャンプが得意なんだろ? 着地が成功したら致命傷にならんし。

 蛙を倒す方法ねえ……


「まー。しょうがない。やりたくないが……やるか」

「お?」

「どうすんだ?」


 俺はダッシュで蛙に近づき――


「おりゃああい」


 踏んづけた。

 ちょっとキモいが、俺が踏んだら死んだ。そりゃそうよ。自分よりデカい足に踏まれりゃ死にます。


「うわー」

「怖すぎる」

「ひえっ」


 恐怖する人間たち。


「おおー!」

「さすがー!」

「必殺ユウスタンピング」


 称賛する悪魔たち。


「うおりゃあああああい」


 燃えよドラゴンみたいに悲哀の顔で蛙を踏み続ける俺。

 一時間もしないうちに、蛙は全部踏み殺した。

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