第30話 あ~あ。怒らせちったな?

「ありがとう~!」

「勇者さま~!」


 村人たちの感謝の言葉を背に、また旅路へと戻る。

 俺たちは水戸黄門か?

 俺が踏み潰した蛙をあいらんが燻製や干物にしまくって、人間たちに与えたことで俺達は称賛された。

 脅威の対象を食料に変えた、救世主の御一行というわけだ。

 トードのスパイス焼きは美味かった。名古屋の手羽先みたいな感じ。それはよかったが……。


「なんだかなあ……」


 俺はなにか違うなあという気持ちなのだが……。あの、勇者って害虫駆除事業者じゃねーだろっていう。

 倒したのが子供をさらってる山賊とか、封印されてたドラゴンとかならそうは思わんけどさ。

 蹴り飛ばすか、踏み潰すという攻撃手段じゃなあ……。

 魔法とか、必殺技とか使わないとさ……いや、俺の必殺技ってお尻ペンペンだけどさ……。


「さすがユウ。強すぎる」


 クールなしまんが、目を♡にして俺を見ている。

 確かに俺は強すぎたよ。ちょっと足が痛いだけ。

 まあ、やぶさかではないね。


「トードを踏み潰すときの、あのなんとも言えない表情……カッコよかったー!」


 目の中を♢でいっぱいにしているのが、ゆきう。

 ドラゴンは倒さなかったが、俺は燃えよドラゴンだったからな。

 まあ、気分は悪くないね。


「んふふー。いや、ほんとチョチョイのちょいだったね!」


 俺の手柄を自分の手柄のように喜んでいるのが、あいらん。

 調子に乗った顔が、らしいね。でも俺よりあんだけの蛙を調理したあいらんの方がよっぽど大変だからな。

 まあ、俺の方こそ褒めたいね。


「お? んふー」


 俺があいらんの頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。


「……」


 無言でしまんが近寄ってきた。

 空いている左手で、頭を撫でる。

 ♡だった目が、♡♡♡になった。


「とー」


 さみしくなったのか、前から抱きついてくるゆきう。

 頭を撫でていた手をどけて、膝を曲げ、ハグ仕返してやる。


「ちょっと」

「ずるいよ」


 ヤキモチを焼くふたり。

 ふー。

 なかなか目的地につかない原因がこれだ。

 悪魔たちは、スキンシップをしたことがない。俺のような自分よりも大きい存在も知らなかった。

 だからか、みんなやたら甘えん坊なんだよな……。

 ま、キスをすればしばらく黙っててくれるけど……。


「3人でこれじゃ、4人目が仲間になったら大変だなあ」


 俺がボヤくと、3人が次々にツッコんだ。


「嬉しいだけだろ」

「ニヤけてるよ」

「こりゃ欲しがってるな~」


 そ、そーかな?

 3人いれば十分というか、すでにハーレムすぎて困ってるんだけどなあ……。


「おっ、見えてきたぞ町が」


 遠くに町が見える。

 ゴルフ場のティーグラウンドから見えるグリーンみたいな感じ。400メートルくらい先ってところか。

 大きめの城がないので、アカネ王女のいた町よりも小さく見える。俺たちの感覚では幼稚園とか保育園くらいの規模だろうか。犬小屋のような建物がたくさん見える。


「見えるのか~?」


 身長が低いのでみんなにはまだ見えないか。


「ほら」


 俺はあいらんを肩車する。


「うわー! すっげー! 高いぞー! 見えるー!」


 俺は娘がいる父親の気持ちがわかった。


「ちょ、ずるい」

「交代」


 俺は3人の娘がいる父親の気持ちがわかった。


「もうすぐ町だな」


 見えてしまえば近く感じるもの。

 害虫駆除はもうしなくていいと願いたいね。


「いたぞ、悪魔だ!」

「おっ」


 いたか……悪魔が!

 確かに町の手前にそれっぽいのがいた。寝ているのか、芝の上にごろんと寝そべっていた。

 背格好はしまんと同じくらい。青い羽織のようなものを着ていることはわかる。

 どんなメスガキだろうか……今までになかったのだとお嬢様系とか……ギャルとか……メガネもいいな。

 

「どんな娘だろうなあ」

「ま、誰でもわたらせゆの敵じゃないけどな」


 強さは気にしてないけどな。

 気になるのは顔とか、胸の大きさとか、そういうことだけどな。

 別に、新しい悪魔っ子が楽しみとかじゃないですけどもね。3人いる時点で結構たいへんというかね。

 ある程度近づくと顔がわかった。

 んー?

 まあ、可愛いといえば可愛いが、しまんよりも断然ボーイッシュだな。


「お、おお!? で、でかい!」


 相変わらずの反応。

 相変わらずのセリフ。

 しかし、違うことがあった。


「え……? なんか声が違くない?」

「ん? ああ。あれだよな、しまん」

「ん。この悪魔は……人間で言う、男だね」

「な、なんだとおおおおおお!?」


 お、お、おとこ?

 男の悪魔? なにそれ?


「男だと?」

「ま、そうだね」

「悪魔同士だとあんまり気にしてないけどなー。たまにいるかな」


 アカネ王女が悪魔はメスガキだって言ってたろうが……。

 悪魔は! メスガキだって! 言ってただろうがよおおおお!


「ふざけんな……」

「えっ?」

「どうしたんだ?」

「ふざけんなって言ってんだよ!!!」

「ひえっ」


 俺はブチギレた。

 許せねえ……絶対に許せねえぞ。

 クソがっ……クソがよおっ!


「す、すごいぞ」

「やば」

「こ、怖すぎる! これがおにーさんの本気!?」


 3人には、超サイヤ人にでも見えてるのかもしれないな。

 自分でも、これが怒髪天を衝くという感情なのかと。


「ど、どどど、どうなっちゃうの? こんなおにーさんの攻撃って……」


 ゆきうが内股になって、目を><こんなふうにして立ち尽くす。あいらんとしまうも、どうなるものかと注視しているようだ。



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