第28話 恐れてるって、かわいい?
「うわあ……」
今度は俺がドン引きした。
本当にぬいぐるみに見えるわけではないが、ミニサイズの熊をあいらんが捌いている。
「内臓は新鮮なうちに食べたいよね」
血まみれになるのを気にもせず、まー見事に解体していく。俺は魚は平気だが、哺乳類はちょっと無理だぞ。グロすぎる。
「レバーだよレバー。刺身でいく?」
目をらんらんとさせるあいらん。レバ刺しは興味あるが、血まみれすぎて怖いって。よく洗って、スライスして、ごま油と岩塩でまぶしたら食っちゃうとは思うけど。
「いや……菌が怖いから、表面は焼こうぜ」
ビビり倒す俺。
「ん? どうしたユウ」
「一撃で蹴り殺した人の態度じゃないよね」
どうやら熊の解体が怖いのは俺だけのようです。悪魔だもんな、こいつら。
「いいなー」
「おいしそう」
と思ったら、小さき人間たちの子どもたちも物欲しそうに見ていた。
俺たちが倒した熊を調理しはじめたところ、人間たち近づいてきたのだ。それでも大人たちはかなり遠巻きに見ているが、子どもは結構近くまで来ていた。
「うまそうか?」
しゃがんで、笑いかける俺。やさしいね。
「ひえーっ」
「こ、こわいよーっ」
なんでだよ。むちゃくちゃ怖がってるじゃん。
熊の内蔵より俺のほうが怖いのかよ。
熊だって、俺からすりゃあ小さなぬいぐるみサイズだが。この子どもからしたらデカいよ?
もし地球に巨人たちがあらわれて。象とかカバとか食おうとしてたら、近づくか?
「ほら、だから言ったのに」
「こっちにいらっしゃい」
お母さんたちだろう。子どもたちに戻ってくるように諭してる。まあ、悪魔一行だからね。
「なにか機嫌を損ねて蹴っ飛ばされたら大変よ」
「わたしたちなんて空まで行っちゃうわ」
俺だねえ。どうやら俺を恐れているねえ。
「あのなー。俺は勇者だぞー。人間の味方ですよー」
こんなアピールをしなきゃいけない勇者って一体……。
「こわいよう」
「うえーん」
なんでだよ。
なまはげか。俺は。
「ほら、お前ら。腹減ってんだろ。煮てやったから食え」
「ありがとう、悪魔のおねえちゃん!」
「わーい!」
あいらんが子どもに優しくしている……しかも人気があるだと……。
「どういうことなんだ、人間研究家のしまん」
プロに説明を求めることにするよ。しまんは、任せろとばかりにフフンと笑った。
「ここは田舎すぎてアタシたちを見たことがないんだ。それでもっと大きなユウを見てしまった。熊という恐ろしい存在を圧倒的なパワーで屠ったユウ。それは脅威としてしか思えないが、そこで人間と同じような反応をしたアタシたち。ユウに比べれば、アタシたちはちょっと大きな人間くらいに思えるのかもしれない。かわいい」
めちゃくちゃ饒舌なんですけど?
普段クールで、言葉数の少ないしまんだが、人間のこととなるとオタク特有の早口になります。
「あの」
「いいですか?」
お母さんたちもやってきた。
俺にじゃなくて、あいらんたちに言っている。いいけどね。
「怖いはずなのに、すごいねえ。ぐいぐいくるじゃん」
人間嫌いのゆきうが、珍しく人間を褒めている。いや、褒めてないのか?
「お腹が空いてるんだ」
人間観察を続けている、しまんのご意見。確かに人間たちはみな痩せている。そりゃ熊が出てたんだもんな。活動できないよな。
「はい、並んでね~」
「いっぱいあるから」
炊き出しがスタートしたぞ。
人間たちは行列をつくり、熊鍋をよそってもらっている。
俺達は別メニュー。レバーは表面をソテーして、レアステーキにしてもらった。
といっても一口分しかない。この世界では俺が肉をたっぷり食べることは不可能だ……。
「あ、うまい!」
久しぶりにホルモンなんて食べたからかも。うまいなあ。
「うわー」
「なんていう口の大きさ」
「僕たち食べられちゃう?」
「こわい」
俺が飯を食うだけで、怯える人間の子ども。
人間を食うわけないだろう……。
「人間は食べないよ~」
おや珍しい。
人間嫌いのゆきうが、子どもたちに優しく接している。
「ほんと?」
「ほんとだよ、だって」
そこで、微笑みをニタ~っと悪い顔に変え。
「人間は、まずいからねぇ~」
「「きゃあ~」」
なんてことすんだよ。可哀想に、ほうほうのていで逃げてったぞ。
人間大好きのしまんに怒られろ。
「怯える人間……かわいい……」
しまんは喜んでいた。マジで悪魔じゃん。
「こら、お前ら。余計なことすんな」
叱ったのはあいらんだった。炊き出ししてるんだから、邪魔をするなということだろうが。
唯一まともな対応をしているのが、一番人間をどうでもいいと思っているあいらんとは……。
「悪魔のおねえさん、美味しいよ」
「ありがとう、悪魔のおねえさん」
子どもたちが感謝を示していた。
めちゃくちゃ人間に慕われてるじゃん……。熊を捌いて、手が血でギットギトになってるのに。
ていうか、それが正しいと思うんだけど。
俺も同じように慕われるべきだと思うんですけど。熊から人間を助けたのは俺だぞ?
なんでいじめたり、いじめを見て笑っている二人よりも怖がられているのか……。
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