第27話 ある日、くまさんと出会った?

「おっ、人間じゃん」


 エール王国、アカネ王女の住まう町を出て三日。

 第一村人発見です。若い女の子かな。

 

「こんにちわー」

「う、うわー! 悪魔だー! しかも四体もいる! 終わった!」


 彼女は絶望して、へたり込んでしまった。

 あー。まあそうなるか。

 もともと、あいらん達は悪魔と呼ばれてるとおり、恐れられてるわけだ。

 まして普通は単独行動。三人も集まってるとか、悪夢みたいなもんなのだろう。

 この反応にむしろ俺は安心していた。やっぱり「イチャイチャしろー」とかやじを飛ばすあいつらの方がおかしいのだ。


「ふふふ、怯えてる……かわいい」


 可哀想な人間を見てかわいいと思う。まさに悪魔のしまん。表情は笑っていない。

 すらっとしたスタイルに似合うクールな立ち姿で、小さな人間を見下ろしていた。ほんと、人間のことを好きね。


「うわー。面白くない反応。殺しとく~?」


 可哀想な人間を見て殺そうと思う。まさに悪魔のゆきう。表情は笑っていない。

 長い黒髪に黒くて丸い大きな目。お人形さんのような顔なのに、小さな人間を見くだしていた。

 ほんと、人間のこと嫌いね。


「あはははは! うはははは! 泣いてる? 泣いてんの?」


 可哀想な人間を見て嘲り笑う。まさに悪魔のあいらん。表情は大笑い。

 金髪にぷにぷにのほっぺた。笑いすぎて目尻に涙が光るほど、笑い転げていた。

 ほんと、メスガキね。


「怯えさせてごめんねー。俺たちは人間に危害をくわえないよー」


 可哀想な人間に、しゃがんで優しい言葉をかける俺。まさに紳士。


「ぎゃあー! 怖ーい!」


 ただ怯えるだけの小さき人間。

 正直、放置して先を急いでもいいのだが。

 

「あのー、アカネの町で召喚された勇者の話聞いたことない?」

「あっ。え? 聞いたことあります」


 ふっ……やはりここまで届いていたか。俺の名声が。


「町の真ん中で、堂々と大衆に子作りを見せつけたヘンタイでか男ですよね?」


 悪名だったー。悪名が轟いていたー。


「知ってたか! なんと! 我々がその一行なのだ―!」


 ばーん! と背中にエフェクトを出しながら、腕組みをして勝利のポーズを取るあいらん。すごいね、俺はもう恥ずかしくて逃げ出したいんですけど?


「あっ、あー。あー、なるほどなるほど。あー」


 俺の顔を見て、うんうんと頷きながら納得していく様子がわかる。恥ずかしいよ俺は。

 ただ、恐怖心は薄らいでくれたようです。

 今後、自己紹介で勇者を名乗るたびにこうなると思うと、気が重い。


「見たい? 子作りしてるとこ。やろうか?」


 しまんさーん。なんてこと言うんだよー。なんで見せる必要があるんだよー。


「そのかわりさ、キミの子作りしてるとこも見せてよ」


 しまんさーん。なんてこと言うんだよー。えげつないくらいのセクハラだよー。


「あ、いえ、大丈夫です……」


 両手を横に振りながら、たじたじと二歩下がった。

 ごめんね、人間。うちの悪魔が。申し訳ないよ。


「そう、残念」


 しまんさーん。残念なのはあなただよー。今の流れで、なんでそんなクールに髪をなびかせることができるんだよー。


「でー? なんでアンタはここにいんのー? 村からちょっと離れてるよね」


 あいらんが、ゆびで頭を撫でながら言う。めちゃくちゃ笑っているが、それは強者が持つ笑顔だ。いじめっ子がいじめられっ子に向けるそれである。

 金髪ロングなこともあいまって、小学生ヤンキー女に見えてしまう。それでも俺からするとカワイイやり取りなんすけどね。悪気はないからさ。こう見えて心配してんのよ。

 少女はやや怯えながら、答えた。ごめんね。


「村に、く、熊が出たんです」


 熊ですか!?

 この世界に大きな生き物はいないはずでは?


「あっはっは! そりゃよかったな。このわたらせゆは超強いから。熊なんてよゆーだよ。ワンパン」


 ええ……熊に勝てるわけねえべ。


「えっ!? そうなんですか?」

「まーね! おにーさんは最強なんで」


 やめてくれよ、ゆきうー。自慢をするなよー。俺は女子小学生相手だから勝ててるだけだってー。


「ユウの強さを思い知るといい」


 ドヤ顔すごいじゃん、しまん。むしろ熊の強さを知らないのでは?

 正直、落とし穴とかでなんとかやっつけるとか、そういう方法しかないと思いますよ。


「ほれほれ、案内しろ。ワンパン、ワンパーン!」


 威勢のいい、あいらん。あなたたちの魔法で倒してもらってもいいのよ?


「あ、こっちです」


 歩き始める人間。遅い。急いでいるようだが、遅いのよ。小さいから。


「先行く?」

「言うなよ、あいらん」


 ゆっくりついて行こうぜ。


「それより作戦とかたてようぜ」

「なにそれ」

「そんなのいらないでしょ」

「ワンパンじゃん」


 おい、こいつらマジで言ってんじゃねーかよー。

 ワンパンなんて無理だって。熊だぞ。


「いました! あれです!」


 少女の小さな指の先に……村と……熊がいた。

 あー。なるほどなー。

 やっぱワンパンなんて無理よ。


「うおおおおおおお!」


 俺は、熊に向かってダッシュ!

 そしてー!


「おらあああああ!」


 サッカーボールのようにキック!

 ぬいぐるみのごとく、熊はふっとんでいった。

 この世界の人間が人形の大きさなので、熊はぬいぐるみのサイズだった。

 あいらんやしまんは、蹴っ飛ばすなんてできないが、熊は容赦なく蹴っ飛ばせる。

 爪や牙は恐ろしいから、素手で殴るのは無理だろ。

 熊は背中から地面に叩きつけられて、ぴくりとも動かなくなった。


「どうだ、ワンパンは無理だったが、ひと蹴りで終わらせてやった」


 称賛を得られると思ったが――


「「うわあ……」」


 四人ともドン引きしていた。

 

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