第26話 ムカつくやつでも、別れは寂しいんだな。

「はあ、もうすぐティータイムですのに……それにしても遅かったですね」


 ははは、さすが、アカネ王女。

 俺をムカつかせるのが上手ですねえ。殴ったろか。

 そもそもティータイムっていつだよ。お前らのティータイムなんて知らねえよ。


「ぷくく。褒められると思ってたとか」

「おめでたいユウ」

「こんなもんだって」


 アカネ王女がムカつくだけで、慰められるというね。

 はー。もういいわ。


「それで、要件は?」


 俺がさっさと話を進めようとしてやったが、アカネ王女はたっぷりと間を置いて顔を作ってから口を開いた。腹立つわー。美人だけど腹立つわー。


「ええ。妹のところに行ってほしいのです」

「妹? この国にいないってこと?」

「いえ、このエール王国にいますが、ちょっと遠い町にいるのです」

「あ、この国って別の町もあったの?」

「この町は私の治める町です。ほかにいくつも町があります」


 そうだったのか。

 エール王国のことはよく知らないんだよな。


「妹がいる町、シンシャのところに行って、また悪魔たちをわからせてほしいのです」

「え、妹がシンシャなの? 町がシンシャなの?」


 細かいことだけど気になりますよ。


「は?」


 んだよ。俺は変なこといってねえだろ。なにこの「何言ってるの」みたいな顔。アカネ王女、腹立つわー。


「人間って、町とかには名前をつけないんだよ」


 あいらんが説明してくれるのかな。

 そのほうがわかりやすそうだ。


「どういうこと?」

「この国はエールという国王だから、エール王国って名前なんだよ。シンシャ王女が治めてたら、シンシャの町みたいに呼ぶわけ」

「あー、そういうこと」

「シンシャの町では、この町をアカネの町みたいに呼んでると思うよ」


 元号とかに近いのかな。概念が。


「仲がよろしいことで」


 アカネ王女が割り込んできた。

 皮肉っすか?

 まあ仲はすごくいいよ。あいらんとね。何度もしてるからね。


「この町はもう平和で、随分と豊かになりました」

「おにーさんのおかげでね」


 ここぞとばかりに、俺を持ち上げてくれるゆきう。目がハート。可愛い。


「ですので他の町に行っていただいてよいと判断しました。なにやらシンシャの町で噂になってるそうですし。町の真ん中で悪魔とハレンチなことをする巨人という噂が」


 確かにそういうことをしていたが、そういうことで有名になってしまったか……。ちなみにゆきうが「なんでお前が判断してんだ、殺すぞ?」って顔をしているので口を抑えています。


「ちなみに、お前の妹は、お前と違っていいやつなのか?」


 あいらんはにっこり笑って言った。あえてでしょうね。怖いねえ~。


「さあ?」


 おや、怒ったのかしら。

 顔を見合わせる俺とあいらん。


「会ったことがありませんもの」

「え、妹に?」

「ええ」


 再度、顔を見合わせる俺とあいらん。意味わからんな。


「人間の王族は、生まれたときから領地を持つからその土地から移動しない」


 どういうことかわからない俺に、人間大好き悪魔のしまんが解説を始めてくれた。


「治める町で子どもを生むってことか?」

「そう」

「じゃ、生まれる前はどうすんの」

「王が治める。子どもが生まれたらすぐに後を継がせてまた移動する」

「はえ~」


 なんちゅーシステムだ。

 しかし、王の座を巡って兄弟で戦争みたいな話は歴史上のあるあるだ。それを防ぐにはいいのかもしれないな。


「じゃあ、兄弟には全然あったことないんだ?」


 アカネ王女に聞いてみる。


「ええ。親にも会ったことはありません」


 そうか……。


「部下みたいなやつらしか周りにいないから、こんな感じになったのかー」


 俺が思ってることをあいらんが口に出して言ってしまった。さすがにちょっと可哀想だから、それはハッキリ言うなよ。


「王族は生意気なところがカワイイ」


 ほぼ無表情でカワイイと口にするしまん。

 しまんは人間を猫のように可愛がるねえ。


「腕を一本もいだら、少しはしおらしくなるかな?」


 満面の笑みで怖いことを言うゆきう。怖い。

 王女が怯えている。実際に腕をどうこうせずとも、十分にしおらしくなった。


「シ、シンシャの町への地図を用意しますので、向こうでのご活躍をお祈りいたします」


 ビビらせておいた方が話が円滑だな。今後はゆきうに一発かませるか。ってか、もう会わないかもしれないな……。この町に戻ってくる理由ないし。

 最後かもと思うとちょっと寂しい。

 少し丁寧に挨拶をして、別れた。


「さて、これが地図か……」


 この世界、紙がございません。人間は木を切ることができませんし。なので石板なんですね。

 石を削ってるのではなく、魔法で表示させているそうです。なのでタブレットみたいな感じですよ。


「どんくらいかかるんだろうな」


 距離がわかんないのよ。方角はわかるけども。


「人間の足で行くのは相当タイヘン」


 しまん先生の解説。それじゃ、なんもわからん。この世界の人間はあまり旅行とかしないっぽいしな。海も川も山も森も、危険すぎるんですよ。

 輸送は行われてますけども。輸送ルートだとかなり遠回りになるらしい。


「どうやって向かうかね~」


 山を登る?

 森を抜ける?

 途中で寝る必要もあるし、キャンプしながらか?


「まあ、ゆっくり行こうよ」


 そうだな。散々長い間なんもなかったわけだし。急ぐ理由もないな。


「そうそう。人間がどうなっても別にどうでもいいし」


 そう……いや、これは賛同しちゃ駄目だわ。

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