第20話 ファンタジーですねえ?

 す、すごい!

 いや、正直ナメてました。

 召喚っていっても、どうせ攻撃力がない動物を召喚しちゃうんじゃないのかと。

 なんならカワイイ子猫を召喚しちゃうんじゃないかと思ってたくらいですよ。

 時空の切れ目みたいなところから、ゴゴゴゴと言う音をさせて登場したのはどうみてもドラゴンだった。

 大きな翼の黒竜。鋭い牙と爪。

 とても強そうだ。まともにやったら勝てるとは思えない。

 

「かっけー」


 思わず、感想が漏れた。


「そうか?」

「おっと、わたらせゆは召喚されたドラゴンをかっこいいと評価~」


 しまんはかっこいいと思わないのかよ。

 あいらんは相変わらず実況を続けていた。


「ずいぶん余裕だね~」


 ゆきうは召喚したドラゴンを従え、腕組みしている。むしろなんでそんな勝ち誇れているのか不思議ですよ。

 だって……やっぱり小さいからですよ!

 召喚したゆきうより、ちっちゃいじゃない!

 この世界の人間よりはデカいけども。まあ、そうね。プードルくらいですかね。

 いや、たしかに大きくなくても、鷹みたいなスピードだったらそりゃ怖いですよ。ええ。でもその、遅いんですよ。動き。イグアナ的な感じなんですよ。

 しかもですね、翼竜なんだけど飛べないっぽいのよ。

 ようするに歳とった鶏を爬虫類にしただけですよ。ええ。

 いや、ひょっとして……


「まさか、なんかすごい技があるのか? 火を吐くとか」

「ドラゴンだからねっ、もちろん吐けるよ~?」

「マジカ!?」


 そりゃカッケーが、やばい。

 さすがに火を吐いたらやばいよ。いくら小さいったって、犬くらい大きいわけですから。


「さあ、やれっ!」

「おっと、ゆきうがドラゴンに火を吐くことを命じたぞ~」


 嬉しそうに実況してるぞ、あいらんが。


「よゆうでしょ」


 しまんの俺への絶対の信頼……。

 そしてドラゴンが火を吐いた!


「うわー」


 大きく口を開けて、俺に向かって……火が吐かれたが。

 

「うん……立派な火だね」


 しょぼくないのよ。うん。ちゃんと結構マジで強い火ですよ。

 ただね、あの、飛ばないタイプですね。

 ライターと一緒というか。ええ。口から火が出てはいるものの、俺には全然届かないですよ。


「当てろ~っ」

「いや、逃げますよ」


 とてとてと、たどたどしい二足歩行で向かってくるが、余裕で躱せる。ガスバーナーで襲ってくる赤ちゃんみたいな感じですね。


「ずるいぞ~、そんなに早く動けるなんて」

「いや、スピードは特別早くねえよ」


 正直、パワーはそりゃ圧倒的ですよ。俺は。スピードはね、あいらんやしまんとそんなに変わらないんです。ですのでね、なんでこのドラゴンの火が通用すると思うのか、不思議ですねえ。


「ユウは背が高いからね」


 しまんの解説。背ですか?

 一般的な中肉中背の高校生だが、女の子に背が高いと言われるのは嬉しいものです。


「だね。火が顔には届かないとわかってるからの余裕なんだろね」


 あー。そっか、届かないにしろ自分の顔に向かって火が出てきたら、熱いだろうし怖いのか。

 俺の場合、しゃがまないと火は当たらない。もちろん腹には当たるだろうが……よけるのはドッジボールより簡単だ。


「ひえ~っ、人間だったら、見るだけで圧倒されるのにっ」


 ゆきうがびっくりしてっけど、この世界の人間なんてドラゴンを召喚するまでもないだろ。

 俺と一緒にするのオカシイから。


「……」


 ドラゴンが、キョロキョロとしてから、ゆきうを見つめている。

 もう帰してくれと言ってるようだ。まぁ、俺に勝てる気がしないのだろう。なんもしてませんが。

 俺より大きな動物がいない世界だ、ビビって当然なのかもな。


「ありがとね~」


 ゆきうはドラゴンを帰した。

 登場したときはゴゴゴゴと厳かに登場したが、戻るときは音もなく、ちょっと寂しそうな雰囲気でした。


「さて、ドラゴン召喚ではどうにもならなかったぞ~」

「ゆきう、どうする」


 実況と解説が盛り上げようとしてくれているが、もう手なんてないんじゃね?

 ゆきう、困ってるぜ。


「……っていうか、なんでおにーさんからは攻撃してこないの?」


 人差し指でほっぺをぷにっとさせてから、小首をかしげるゆきう。あざとすぎる仕草が似合いまくっている。


「攻撃したら終わっちゃうからなー」

「ユウ相手にはハンデが必要なんだよね」


 まあ、そう。女子ども相手になんて言うが、女の子どもですもの。手加減しないわけがないんですよ。


「いや、もういいよ。おにーさんが攻撃しなよ」


 ゆきうは、しまんやあいらんより強いわけじゃないことをわかっているのだろう。そもそも勝てると思ってないんだな。お手上げだーと、少し両手をあげている。

 俺はゆきうの肩を優しく掴むと、前かがみにさせた。


「やはりでたか」

「これは必殺の……?」

「ええ。でしょうね」


 ふたりが期待しているとおり、全然必ず殺すことはできない必殺技を繰り出すときがきたぜ。 


「え、なんでお尻を撫でてるの~?」


 やはりゆきうも、困惑している。尻を叩く前は撫でる。この常識が通用しないのが異世界なんですよね。


「実はあれで準備できるというユウの優しさ」

「魔法の詠唱みたいなもんだよね~」


 理解度高すぎィ!

 あいらんとしまんは、よくわかってらっしゃる。

 たっぷりとぷりぷりしたお尻を堪能したところで。

 さぁ、お尻ペンペンタイムだ!

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