第19話 仲良くしろって、言われてもナ?
「かわいい。ほう……」
ゆきうは、耳まで真っ赤にして照れていた。
「かわいいか……」
反芻してるぞ。言われたことないのかもな。
もっと言うか……。
「かわいい。ゆきうは、かわいいぞ」
「おおう……」
顔を両手で隠して、お尻を振っている。
かわいいと、言えば言うほど、かわいいぞ。わたらせゆう、心の俳句。
「ゆきうが? そんなにかわいいか?」
おや? あいらんの様子が……。
「なんかムカつく」
おや? しまんの様子が……。
こんなに明らかなヤキモチあります?
「いや、あいらんとしまんはカワイイのよ。それはもう当たり前じゃん」
「当たり前だったか」
「なるほどね」
機嫌が治りました。よかったです。
「で、改めてゆきうはカワイイ。正直、好み。タイプ」
「~~~っ」
ふーむ。永遠に言い続けたいね。
「……」
「……」
いや、もうやめよう。あんまり言い続けると、ふたりが怒りかねない。
悪魔たちはみんなカワイイ。ってことは答えはひとつだな。
「さて、じゃあ、人間たちをわからせにいくか」
「ええーっ!?」
「おいおい」
「逆」
総ツッコミを食らった。
マジで言ってたのに。
ゆきうまで、信じられないって顔してんじゃん。頭の上に?マークが出てる感じよ。
「でも、ゆきうをわからせる必要あるか?」
「あるでしょ」
「一番人間にヒドイことしてるぞ」
そうは言うが……。
というか、なんでしまんとあいらんが人間側の味方をするのか。
本人はキョトンとしている。
「まあ、おにーさんが本当に強いのかは知っておきたいかもね。人間だって言うし」
「ああ、そう?」
そういう意味で俺と戦いたいってこと?
「わたらせゆは、魔法も使えないしな」
そう言いながら、ふふんと腕を組むあいらん。それを聞いたゆきうは、むむっと顔をしかめた。
「えっ? 魔法も使えない人間なんて、弱すぎない?」
「ユウに魔法なんて必要ない」
しまんはファサっと長い髪を払った。なんかふたりとも自慢げなんですよね。
「実際どうなんだ、人間と仲良くしろって言われてできる?」
そこなんですよ。別にわからせなくても、わかるならいいんですよね。最近思うんですけど、お尻は叩くより撫でる方がいいんですよ。
「いやー、それはムリでしょ。害虫みたいなもんじゃん」
「害虫っすか」
「そうだよ。家に出てきたら、躊躇なく踏み潰したいくらい。まあ、街で見かけたくらいだったら、わざわざ殺したりしないけど」
どうやらゆきうにとっては、人間はムカデやゴキブリのようなものっぽい。エラく嫌われたものだ。
俺も明日からナメクジと仲良くしろと言われたら、断固断る。
「じゃ~、まぁ、やりますか~」
準備運動だろう、腕を伸ばしたりしている。
「ふたりとも頑張れー」
「ゆきう、手加減いらないよ」
あいらんとしまんは、草野球でも見るかのような観戦体制だ。
いい試合になるかな?
「よーし、いくぞー」
砂浜をダッシュしてくる、ゆきう。
これは今までで一番の強敵かもしれない!
正直、変に腰の入ってない蹴りとかより、体当たりの方がダメージはある。
「とー」
せっかく走ってきたのに、立ち止まってからのチョップ!
意味無し!
胸にぺちーんって手が当たっただけ。もちろん痛くない。
「そりゃー」
腰をぐーで殴った。
ノーダメージ。
こりゃ一番弱いな。
実際、しまんはスタイルが良くて筋肉もあるんだが、ゆきうは見るからに体が柔らかそうでパワーがあるように思えない。
「……え? 痛くない?」
「全然」
「はえー。人間じゃねー」
驚愕してるぞ。こんなんがマジで通用すると思ってるのか。
「ははは! わたらせゆにそんなの効くわけないぞ」
「ふっ」
世紀の凡戦かと思ったが、あいらんとしまんは結構楽しんでるようだった。
「ほら、しゃがんであげるから、顔を殴りなさい」
「うわー、まじかー」
躊躇している。
ほれほれと頬を指差す俺。
「よっしゃー! うりゃー!」
ぱしーんといい張り手が頬に入った。
が、まあ弱い。今までで一番弱い。
「いたーい」
俺は何もしていない。ゆきうは手をふーふーしている。叩いた方が痛いということらしい。よわっ。
「さすが、わたらせゆ」
さすがでもなんでもない。
「強い」
相手が弱すぎるだけである。
「まあ、これだけデカいと素手でどうこうしてもムリかー」
気づいたらしい。
今まで誰も武器を使ってこなかったが、ついに武器を?
「とりゃー」
野球ボールを投げるかのように、振りかぶった!
投擲武器か!
腹に何かが、ぽいんと当たった。
「んー?」
貝だった。
小さなピンクの。
「かわいい貝殻だな」
「そーでしょー? さっき拾ったんだー」
嬉しそうに笑うゆきう。とても戦闘中とは思えない。
「ほい」
返した。
「はい。ちなみにダメージは?」
「ない」
あるわけなかった。「そっかー」とのこと。
「じゃあ、魔法か」
「そうだろうな」
ようやくわかったようです。魔法しかないだろ。
「わたらせゆは、魔法も平気だぞー」
あいらんの謎の声援。
ゆきうは、モニョモニョと詠唱を始める。体もうねうねさせている。
相手は隙だらけの無防備状態だが、俺は大人しく待っている。
「ゆきう、詠唱しているぞーっ、何の魔法でしょうか」
「火かな」
「火は効くかもしれなーい」
「うん」
なんか実況と解説が始まったぞ。
火はヤダね。ライターくらいの火でも火傷するからね。
「さあ、いよいよ魔法の発動だー」
「なんだろね」
ゆきうは、天に向けて両手を出した。向き先が俺じゃないから、火じゃないんじゃね?
「おっと、これは召喚魔法でしょうか」
「そうっぽい」
召喚魔法!?
そんなんあるの!?
いいなー、俺も使いてーよ。
「さあ、召喚獣が登場だー!」
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