第18話 度し難いぞ、人間。

「海、キレイすぎだろ」


 人間が寄り付かない場所の海はキレイである。日本でも離島に行くと、それはもう美しい海だ。

 南国とまでは言わないが、暖かな気候。潮の香り。

 テンションあがるぜ。


「えー? 海が~?」

「よくわからない」


 嘘だろ。悪魔たちは、この世界的観光地を越えるビーチを見てなんとも思わないらしい。

 白くて広い砂浜、テトラポットどころか木の一本もない海だぜ。

 透明度が高く、波も穏やかだ。


「川よりこっちの方が安全に見えるけどな。なんで来ないの」

「えー? 胸まで水があるとこまで行っても全然魚いないよ」

「水しょっぱいし」


 はー。なんという塩対応。海だけに。

 俺だったら絶対この海の近くに住むけどな……ゆきうって奴は海が好きなのかもしれない。気が合うかもだぞ。


「そういや、ゆきうはどこだ」

「そうだった」

「多分あっち」


 しまんの何の根拠もない意見にしたがって歩く。

 砂浜だが、裸足になって水に足をつけているのは俺だけ。

 流木もなければ、なまこもないし、もちろんペットボトルやレジ袋も落ちていない。スーパーリゾートだろ……。人類も悪魔も何もわかっていないな。


「おっ」


 砂浜に悪魔っぽいの発見だ。

 この世界では俺以外で大きな動物は悪魔しかいない。見つけるのは簡単です。

 潮干狩りでもしてるのか、しゃがんでいる。


「ゆきうだ」


 間違いないそうです。

 黒髪と人間に呼ばれているように、髪は黒。ストレートロン毛、とかじゃなくお団子にしている。

 なんというか、黒髪ということもあるが、あいらんやしまんと比べると見た目は非常に親しみやすい。日本人っぽい。

 印象としても非常にほっとする感じ……。しまんは大人びた小学六年生って感じだが、このゆきうは童顔の中二みたいな。

 あいらんとしまんは完全に垢抜けてるんだが、ゆきうはそうじゃない雰囲気。


「おー、君がゆきうちゃんかー」


 俺たちが近づいているのに気づかず、砂浜で座り込んでいるので、俺から話しかけた。

 不意打ちとかありえないからね。わからせるのが目的で、退治すりゃいいってもんじゃないからさ。


「んー? うわー。でけー。え? え~」


 反応はみんな変わらんな。俺のような巨大生物を見るのは初めてなのだ。

 

「はえ~」


 口をぽかんと開けて、俺を見上げるゆきう。目はまんまるで、くりくりとして愛らしい。顔も丸い。

 ほんとに日本人に近くて、とても可愛らしい。妹っぽい。はっきりいって好みだ。


「ゆきう。久しぶり」

「あー。しまん。ども」

「ういー」

「あいらんまでいるの。どういうこと?」


 目をぱちくりとさせ、手もホワイの形。表情が豊かな娘だ。

 自己紹介しよう。


「俺の名は、渡良瀬勇。見ての通り人間だ」

「いやいや、そんなおっきな人間いないよ!」


 ツッコミをくらった。

 いままでで一番コミュニケーションが成立してるな。メスガキっぽさも無い。


「俺の世界では普通の大きさなんだ。この世界の小さな人間から俺は召喚された」

「へ~。召喚。どして?」

「悪魔たちをわからせてくれってな」

「ほえ~。わからせるって何?」

「人間に二度と歯向かえないくらいボコボコにするってこと」

「へ~……ってじゃあ、敵じゃん!?」


 びっくりしていた。まあ、そうか。あいらんとしまんの友達ですって感じでご挨拶したしな。


「あははは」

「ふふっ」


 あいらんとしまんは、俺たちを見て笑っている。気楽なものだ。


「え? 敵だったら、なんで一緒にいるの?」


 もっともな疑問だな。

 あいらんが笑顔で答えた。


「あいらんとしまんは、わからされたのだ」

「そう」

「えーっ!? わからされちゃったの?」

「わからされちゃってる」

「そう」


 おしゃべりが始まった。俺が説明するより早いだろう。

 三人の女の子が「えーっ」「やばーい」「お尻ペンペン」「マジ?」「ちゅーしまくり」「うそー」などとキャアキャア話してるところは非常に微笑ましい。内容はアレだが。


「じゃ、わからせられようかな」

「おいおい。負けるつもりだったら戦う必要ないのでは?」

「でも、おにーさんが困るんでしょ」


 おにーさん……。そう呼んでくれる女の子をわからせる必要なんてあるのか?


「ちなみに人間のことはどう思ってるの?」


 そこなんですよ。

 だって明らかにゆきうはいい子っぽいぜ?

 別に小さな人間たちに悪いことしてないんじゃないの?


「くそ人間ども? あいつらはちんけな顔しててムカつくね」

「おおう」


 まあニコニコと邪気もなしに、あっけらかんと言ってのけるねえ。


「だからあんまり行かないんだよ、人間んとこ」

「人間好きなしまんよりは、迷惑かけてなさそうだな」


 俺がそう言うと、あいらんとしまんが首を振った。


「あたしは人間を好きだから、ひどいことしない」

「あいらんは人間なんてどーでもいいから、そこまでひどいことしない」


 ふむ……?


「ゆきうは?」

「ぼく? 人間はムカつくから、嫌がることするよ? 水入ってる桶を蹴っ飛ばすとか」

「ええー!? すっげー悪いじゃん!?」


 鬼か? 悪魔か? そういや悪魔だった。


「悪魔なんて呼んでくる方が悪いと思うけどなー」


 ふむう。

 ゆきうにはゆきうの意見があるのか。


「ムカつくって、なにかされたのか?」

「悪魔だーとか、黒髪ーとか。そんな呼び方して」

「おう。そうね」


 まあ、あまり嬉しい呼び方ではないでしょうけどもね。

 しまんが拉致監禁してたから、人間たちが怖がるのもムリないのよね。


「ほんとムカつくんだよ人間。殺してもいいくらいだよ」

「うーん」


 ムカついたからって殺してもいいことはないだろう。

 人間の方にも同情の余地はあるか……。


「金髪や茶髪に比べると顔が地味とか」

「なにっ」

「ぺちゃぱいとか」

「えっ」

「ブスとか」

「おい! ふざけんなよ人間! ゆきうはカワイイだろ!? ぶち殺すぞ!?」


 人間はマジでムカつく存在だった。

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