第16話 いかがわしいってなんだろね。(哲学)

 あれから7日ほど、同じことを続けているが……


「効果がないのかな」

「もー、やめるかぁ~」

「こらこら、ふたりとも。なんてことを言うんだよ」


 諦めたら試合が終了だっていう噂だよ?

 こういうのはさ、続けることが大事なんじゃないの?

 ネット小説だってさ、7投稿くらいじゃ反応こないよ?

 感想来ないからって、書くのやめちゃだめよ?

 

「あんたもさ、人間たちにヒドイこと言われてんじゃん。デカ男とかヘンタイとか」


 しまんが、ちょっと照れくさそうに俺のことを慮ってくれた。えっ、急な優しさに俺の心はトゥクンってなってるんですけど……やだ……。

 いや、ドキドキしてる場合じゃない。


「俺はそんなの気にしないよ」


 なるべくクールに言ってみた。しまんにこの気持ちがバレたら恥ずかしいからね。


「そだよ。わたらせゆは、むしろ嬉しいんだよ。ほんとにヘンタイだから」

「おい! あいらん! なんてこと言うんだよ!」


 勇者様だったのが、デカ男になってんだぞ。嬉しくはないよ。


「え~? だってあいらんがザコとか、ダメダメとか言ったら、ちょ~嬉しそうじゃ~ん」

「いや、それはあいらんに言われるのは嬉しいよ。人間に言われても嬉しくないよ」


 そりゃそうでしょ。

 なんで人間ごときに……。メスガキだからいいんじゃない。


「……あいらんだから、嬉しいんだ……へ~」


 あら!?

 あいらんが、耳まで真っ赤になってるじゃないですか!?

 人差し指で金髪をクルクルといじりながら、目が左に右にと。露骨なまでに嬉しそうに照れてるぞ。

 俺にチョロいとか言ってるけど、そっちもチョロいんじゃないですかー!


「アタシは」

「えっ?」

「アタシに言われても嬉しい?」


 ちらっと横目で俺を見ながら、ぼそぼそと。 

 ちょっと~? しまんちゃん、ヤキモチですか~?

 なんだよ~。もう、お前らカワイイなあ。


「今度、言ってみて。きっと、嬉しいと思うから」


 そう言うと、しまんはフッと微笑んだ。

 なんかいい雰囲気ですよ。


「わかった。クソ雑魚って言うね」


 うん、セリフの内容だけが残念だね。

 似合うけどね。うん。


「じゃあ、今日も人前でエッチなことをしよう」

「ん」

「いくぞー!」


 気分一新。新たな気持ちで、人間たちの街へ。


「……なにやってんですか」


 そこに待ち構えていたのは、悪魔じゃなかった。

 悪魔より怖い顔をした、召喚主だった。このエール王国の王女ですね。久しぶりに見たよ。


「なにをやってると言われましても……子作り?」

「バカなんですか、あなたは」


 めちゃくちゃ蔑まれている。

 え? 毎日水を運んできてるおかげで、この国は水不足が解消されてるのに? 救世主なのに?

 人間たちが、ヘンタイとか言ってるのは笑顔なんだよ。なんだかんだ、あれは楽しんで見てるから不快じゃないんだよな。

 この顔はマジギレですよ。こわっ。可愛くない。


「お? なんだ、おまえも見に来たのか?」

「ムッツリか」

「ち、違います」


 あいらんとしまんを見た彼女は、一気に怯えた表情に変わった。

 悪魔は怖いんだな……俺は怖くないと。まあ、いいけど。

 

「あ、あなたたちが、我が国の中心で、い、いかがわしいことをしている、と噂なので」


 必死で悪魔に話しているねえ。相当勇気を振り絞っているんだねえ。なんかちょっと可愛く思えてきたねえ。そうやってオドオドしてた方が似合っていますよ。ええ。


「いかがわしい?」

「さて? どういうことがいかがわしいんだろう? 教えてほしいもんだね~」


 うわー。いじめっ子だわ。さすが悪魔よ。いじめっ子が似合うねえ~。


「き、キスしたり……」

「――キスがいかがわしい!?」

「じゃあ人間はみんないかがわしい」

「そ、そうじゃなくて」

「キスをいかがわしいと思ってる方が、いかがわしくなーい!?」

「マジそれ」


 おお~。

 すごいねえ~。

 いじめっ子だね~。

 なんか楽しいぞ。


「その、あの、体を触ったり……」

「――体を触るのがいかがわしい!? そっちだってお父様に触られてるんじゃないのかねえ~」

「親子はいいのです」

「親子ならいいのに、いかがわしいとか意味わかんない」

「くっ……」


 いいぞいいぞ。言ったれ言ったれ。今俺はいじめっ子を応援していますが、許してください。愚かな人類が悪いのです。


「み、見えないところでならいいのです。目立つところでしているというのが、いかがわしいと言うのです」


 まあ、そう。間違ってはいない。


「へえ~。ま、あんたらは陰でコソコソやってるのが好きだよね」

「王とか、メイドに手を出してる」

「……え? お父様が?」


 あら~。そうなんですね~?

 お姫様、ショック受けてるっぽいね~?


「こっそりね。こっそりだから、いかがわしくない」

「そうだねえ~。王様がメイドに手を出すときにコソコソしてるのは、いかがわしくないね-! 健全だよね~!」


 おいおい、マスター。泣きそうじゃん。うつむいてさ、肩を震わせてさ。お父様のこと好きなのかな。裏切られた感じなのかな。可哀想だな……。

 ちょっと元気づけてやろうかな。


「まあまあ、王様だって男だからさ」

「チッ。貴様のようなゲスと一緒にするなデカ男」


 やっぱこいつムカつくー! なんじゃこの女ー!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る