第15話 股をくぐった韓信の気持ち、わかる。

「えっ? 今なんて言いました?」

「子作り」

「……」


 待ってくれ……。

 クールな顔で何を言ってるんだ、しまんは……。

 

「知らない? 人間の男と女が……」

「――いや、それは知ってるんですよ」


 知ってるからこそ、戸惑っているのです。

 なに? 俺としまんが? 人間たちが見てるところで? 子作りをする?


「おかしいでしょ~」


 理解不能です。常識が通用しなさすぎてもう。

 懊悩する俺に、しまんは不服そうな顔をする。


「――イヤなの?」

「イヤじゃないですよ!」


 イヤとかじゃないんですよ。

 そんなわけはないんですよ。

 頬を膨らませてるしまんは、むちゃくちゃ可愛いんですよ。

 

「人間の子作りの様子って、よく見るんだけど」

「よく見るんだ……」


 なんてことすんだよ。


「かわいいよ」

「ああ、そう……」


 彼女は心底そう思ってるようだ。イヤらしい感じが一切ない。

 しまんにとっては、猫がじゃれあってるのを見るかの如くなんでしょうね。


「楽しそうっていうか、気持ちよさそうっていうか、羨ましいんだよ」

「でしょうね……」


 世の中に、出歯亀をここまで純真な気持ちで語る少女がいるだろうか。

 今までで一番、目がキラキラしてますよ。


「なあ、わたらせゆ」

「お、なんだ」


 ほったらかしにされてることが不満なのか、服の袖を引くあいらん。


「子作りってナニ?」

「……」


 これまた純真な表情で、俺の目を真っ直ぐと……。

 しまんはレアケースだが、あいらんはあるあるだよな……。年頃の少女に、そういう質問されて困るってさ……。


「人間が子供を作るときにすること、かな……」


 間違ったことは言ってないね。


「へー。どうすると子供ができるんだ?」

「……」


 いっそ、あいらんも人間観察をしていて欲しかったですね。


「裸になって、先にお互いの体を触ったり……」

「しまんさん。嬉々として説明するのはやめてください」


 こちらが赤面ですよ。


「そもそも、それは家の中でこっそりでしょ。外ではしないでしょ?」

「たまに外でしてる人間いるけど」

「マジカヨ!」


 人間たちめ~!

 けしらかんなあ。マスターもやってんのかな。ちょっと様子を見に行くのも悪くないですね。


「うーん。裸はちょっと恥ずかしくないか?」


 あいらんはとても正しい反応をした。恥じらってるところを始めてみたぞ。イイね。


「じゃあ、前戯だけでいい」

「前戯ってなんだ?」

「……」


 もうヤダ……。

 とはいえ。


「んちゅ……ちゅ……」

「んふ、んふ、はあ……」


 しますよね。そりゃね。このチャンス、逃すわけがないよね。

 ここのはエール王国の城から伸びる、一番大きな通りです。馬車(厳密に言うと馬じゃないんだが、よくわからんしめんどくさいから馬車って呼ぶ)が行き交っている。

 小さな人間たちにとっては歩道もある4車線道路なんだが、俺たちが二人で立っていられる横幅があるのはここくらいだ。

 俺はしまんと熱烈な口づけを交わしており、それを人間が見上げていますよ。見せつけて、噂になることが目的なので、まあ目立つところです。

 膝立ちしているため、しまんの方が少しだけ見上げる形になっている。


「さすが勇者様だ、悪魔を手なづけてるぞ」

「こうしてみると、悪魔もかわいい女の子ねえ」


 人間たちの小さな声が聞こえる。このくらいなら、恥ずかしくもないか。


「勇者のお尻の触り方、めちゃくちゃエロいぞ」

「すごい手つき。勇者って尻フェチ?」

「いや、勇者はむしろ太ももフェチと見たね。尻と太ももの間の触り方が只者じゃないよ」


 前言撤回、超恥ずかしいんですけど!?

 実況と解説されてんじゃねーか。

 いつの間にか、呼び方も勇者様から勇者に格下げされてるし。


――ぎゅっ。


 しまんが、腰に両手を回して抱きついてきた。

 ……小さな人間たちの戯言なんて、どうでもいいね!


「おや、勇者のようすが……」

「きゃー、おっきくなってる!」

「でけー! で……いや、でも体の割には小さいのか?」


 クッソうるせーな人間ども!

 長年人間たちを苦しめてきた悪魔をわからせた勇者様に向かって、なんちゅー下世話な話をしてんだ!


「そろそろ交代しろー、ずるいぞ」


 暇を持て余したあいらんが、こちらにやってきた。交代しないと、暇つぶしで人間をいじめかねない。

 しょうがないから、交代してもらう。


「お~。勇者のヤツ、金髪ともヤるのか」

「さっきは胸を触らなかったけど、どうかしら」

「ガチの太ももフェチなのか、単に胸を触る勇気がないのか」

「勇者なのに? いや、意外とそんなもんかもな」


 ……これ大丈夫?

 勇者の尊厳が失われてない?

 偉大な功績を残してるはずなんですが?


「なんだ? わたらせゆは、おっぱい触りたいのか? ほれ」


 うおおおおお!

 尊厳なんてどうでもいい!

 ナイス、むしろナイスだぞ人間ども!


「うわー、すっごく嬉しそうな顔! むちゅーじゃん! やっぱわたらせゆって、チョロ~! ザコ~、ザコすぎるぅ~」


 でた!

 調子に乗ったメスガキでた!

 このときの心底嬉しそうな顔が、一番魅力的なんですよ!


「見ろ、あのだらしない勇者の顔」

「こりゃ面白い」

「あんなデカくてもやっぱ男なんだな」

「デカ男ウケる」

「おい、デカ男が悪魔にザコって言われてニヤニヤしてんぞ」

「きもーい」


 デカ男? さっきまで勇者様だったのに、デカ男?

 きもい? 勇者様が?

 は? これも全部お前らを助けるために悪魔を呼び寄せる作戦なんだが?


「わたらせゆ、きもーい! ほれ、俺はキモいですって言え」

「はい、俺はキモいです!」

「あいらんちゃん大好きって叫べ」

「あいらんちゃん、だーいすきー!」


 俺って、真の勇者だな……。俺だけは俺を褒めてあげよう。

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