第14話 こんにちは文明

「ようやく慣れてきたな……」


 この世界、まともな暦がないらしく、何日経ったのかもよくわからないが。

 パンツも手に入り。俺たち三人で住める家も完成。なんとか日常といえるものを手に入れていた。


「おいしい」


 しまんも魚を食えるようになったし、料理上手なあいらんのおかげで食生活は潤っている。

 あいらんが作ってくれた家は、いわゆる別荘。ちいさな湖の横に建てたログハウスである。ひょっとしたらこの世界で唯一の木造住宅かもしれないらしい。

 服と靴はずっと同じものを身につけるしかないが、下着とパジャマは人間が用意してくれている。


「なあ、ぱんつって必要か?」

「必要です。履いてください。あとむやみに見せないように」

「なんで? 見たくないのか?」

「見たいです」

「どゆこと? わたらせゆの言っていることは、意味がわかんない」


 あまり見えないから、見えると嬉しいんだよなあ……ま、説明してもしょうがあるまい。

 それにしても平和である。衣食住がきちんとすると、なんとかなるものだ。

 安全であるということも大きい。なんせ異世界なのに、身の危険を感じない。一番危険であるとされている悪魔と一緒にいるくらいですよ。

 蚊とかゴキブリもいないですしね。ハエとかね。これ、地味に重要ですよ。虫除けスプレーとか、殺虫剤とか無いわけですから。さされたときに使う薬もね。


「……」


 しまんが、ミニスカートから絶妙に少しだけぱんつをチラっとさせている。この理解の早さよ……ぱんつを履いたこともミニスカートを履いたこともなかったのに。

 ここでこの世界……というか、この国か。気温について説明しておくと、日本で例えると五月くらいです。年中そんな感じで、それもあって季節や暦について人間も悪魔も興味がないようだ。

 夜でも寒いというほどでもないので、暖炉のような暖房器具も存在していない。人間が風呂を必要としていないのも、温暖な気候が関係しているようだ。水浴びでいいからね。もっとも水浴びは贅沢なことらしいが。

 俺たちのようなでも、洪水は恐ろしい。この世界の小さな人間は、洪水どころかちょっと川が増水しただけで死ぬ。だから川の近くには住めない。体が小さすぎて、井戸を掘ることもできない。だからとにかく水が足りないらしいです。

 水運び業務の日課は、別にイヤじゃないんだけども……。

 

「あいらんとしまん以外の悪魔って、この国に来ないのか?」


 マスターのために働くのはシャクだが、俺の本来の役割は悪魔をわからせること。


「さあ?」

「たまに来る」


 これだよ。悪魔軍というから、ちゃんと統制されてるのかと思ったら全然そんなことはないらしい。

 いままではワチャワチャしてたから余裕がなかったが、この世界のことを少しは把握し、衣食住が確保されてパンツも履けるようになった。悪魔についてももっと知っておきたい。


「悪魔軍の目的って何なんだ?」


 あいらんとしまんでは、人間に対する態度が違っていた。あいらんは傍若無人、利用するだけ利用しているだけ。しまんは猫可愛がり、嫌がられるくらい愛玩しているだけだった。

 いわゆる人間界の侵略とか、人間の国を侵略するとかいう意思を感じないんだよな。

 

「何だったっけ?」

「覚えてない」

「おいおい……」


 そんな軍があるかよ。


「悪魔軍の目的を果たそうなんて思ってたら、こんなとこいないし」

「ほんとそれ」


 そこは意見が一致するんですね?

 不真面目ちゃんたちなのかな?


「悪魔軍の命令を無視なんてしちゃって大丈夫なのか?」

「命令なんか無いよ」

「自由」

「え? そうなの?」

「そうだよ」


 意外……だが、まあ、そうか。だからこんな感じなんだな。


「悪魔軍は強制的になにかさせるほどヒドくないよ」

「悪魔軍なのに!?」


 悪魔ですよ?

 悪魔の軍ですよ?

 ヒドイだろ、普通。


「悪魔とか軍とかって、人間たちがそう言ってるだけ」

「そうそう。人間たちの価値観」

「あー、まあそうか」


 確かにな。こんなカワイイ女の子たちを悪魔と呼ぶのもどうかと思いますよ。軍っていうのも、どうやら俺が思ってるような軍隊って感じじゃないみたいだ。


「じゃあ悪魔たちの行動を予測するのは難しいな」

「みんな気まぐれ」

「でも噂されたら、みんな来るかも」

「噂?」


 あー、そういうこと?


「勇者が現れたからか。俺を退治するためにやってくるってことか」


 魔王軍の目的がなにかはわからないが、二人の悪魔をわからせた勇者の登場を許すとは思えない。

 あいらんとしまんは、たまたまそこに居ただけだ。わざわざ俺を倒しに来るとなると、強敵になるに違いないぞ……。


「いや、そうじゃない」

「え?」


 そうじゃない?


「悪魔は面白そうなことが好きだからね~」

「楽しそうにしてるって噂が流れるとね」

「ぜったい様子を見に来ると思う」

「そういう理由!?」


 悪魔は、ほんと不真面目だな!

 となると、やるべきことは……


「噂を早く広めるためには、どうすればいいんだ?」


 悪魔をおび寄せる必要がある。ぼーっとずーっとのんびり待つという選択肢も無くはないが。あまりにも勇者っぽさに欠けて罪悪感がある!


「んー。人間が見てるところでめちゃくちゃ楽しそうにするのがいいね。一番いいのはアレだね」

「アレとは?」


 なんだ?

 楽しそうって? 

 漫才でもすんの?

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