第12話 人間を飼う。なんか問題ある?

 しまんは風呂を知らない?

 どういうことだ?


「この国にはお風呂がないんだよ」

「ほう?」


 あいらんが、この世界のことを教えてくれる。


「基本的に水不足で、雨も少ないから。人間たちもお風呂なんて入ってないよ」

「うへー。じゃあ、どうしてんの?」

「ほとんどの人間は滅多に体を洗わないよ。わたらせゆはキレイ好きなんだな」


 あー。まあ、そうか。昔の文明だったらそんなもんだよな。日本でも庶民がまともに髪を洗うようになったのは昭和になってからだというし。


「ある程度体をキレイにするなら魔法で十分だし」

「なるほど」


 あいらんも水をキレイにしてたもんな。それよりダイレクトに体をキレイにすりゃいいってことか。


「悪魔はホラ、わたらせゆにもあげただろ」

「ああ、口の中も頭も体も全部いけちゃうアレか」

「そう。アレで洗えばいいから別に風呂入る必要ない」


 あいらんの説明が終わり、そうそうとしまんが頷く。そもそも風呂がなんだかわからないから、体をキレイにする手段だということも知らないご様子。

 確かに言われてみれば、俺も風呂に入る必要ないな。歯磨きのヤツで全部洗うっていうのが抵抗ありすぎて発想できなかったけど。


「あいらんは? なんで風呂に?」

「あいらんはな、風呂が好き。美味しいものも好き。それだけだ」


 ほお~。

 趣味ってことね。

 俺もそれに近いかもな。習慣だからさ、風呂に入らないと気持ち悪いのよ。


「この国には風呂がないってだけで、風呂がある国もあるんだな」

「うん。温泉がある国もあるしな」

「おお~。いいねえ」

「やっぱりわたらせゆは、温泉好きか」

「好きだねえ~」


 日本人だからねえ~。

 あいらんは、ぽんぽんと俺の肩を叩くと。


「やっぱり、わたらせゆとは趣味が合う!」


 といって、にっこりと笑った。かわいい! 結婚してよかった!


「……」


 やっべ。しまんがスーンとしてる。いや、スーンとしてるの似合うというか、寂しそうなところがカワイイけども。


「まあ、なんだ。知らないってことは、これから知っていける喜びがあるってことだよ」


 良いこと言うじゃない、俺。


「ん。ユウと一緒にお風呂入る」

「おお!? いいね!」


 素晴らしい提案だ!


「よくない! だめ!」


 あいらんが怒ってる!


「は? なんでアンタが? 関係なくない?」


 しまんも怒ってる!

 どうしたらいいのだ。あいらんの方が正しいが、応援したいのはしまんだ。

 ふたりは、にらみ合っている。

 うーん。


「さ、三人でお風呂に入ればいいのでは?」


 恐る恐る提案。悪魔だからと恐ろしいなんて思ったことなかったが、今は怖いですね。


「……」

「む……」


 怒り出すことはなく、考えている。


「し、しまんはどう? イヤ?」

「あいらんが、一緒に入れてくださいって頼むなら許す」

「はあ!? なにそれ、なんであいらんがお願いしなきゃなんないの!? しまんが頼むなら三人でもいーよ」

「は? アタシとユウが一緒に入るのはお互い文句ないのに、アンタが文句言ってんだから当然でしょ」


 どうやらふたりとも俺と入るのはいいが、三人なのが嫌だということらしい。仲良くないね!


「まあいいや、とりあえず。しまんの家には風呂がないんだったら、しばらくはあいらんのトコでみんなで住むか」

「いやいや、ムリに決まってるじゃん。わたらせゆは、でかすぎるって」

「えっ、一緒に住める家があるって言ってなかったっけ」

「つくってあげるって言ったじゃん」

「あー。そっか。まだないのか」

「そーだよ」


 そうかー。じゃあ、しばらくは今の寝床か……。あそこ、しんどいんだよな。


「ウチ、広いよ」

「えっ? そうなの?」

「いっぱい人間住まわせてあげてるから」

「えっ……それって」

「かわいいおじさんを何人か飼ってる」

「……」


 猫かなんかみたいな言い方だけど、それ拉致監禁ですよね。


「ちゃんと高いベッド」


 高級なベッドなのかしら。愛があると?


「落ちたら死ぬところで寝かせてるだけだよ」

「そういうこと? 逃げないように?」

「そーだよ。趣味わるい」


 あいらんが、しまんと話が合わないっていう意味がわかってきたぜ。確かに、しまんはちょっと怖いぜ。


「小さい人間と一緒に寝ると、寝返りで殺しちゃうかもしれないんだが?」

「……人間は家に帰す」


 よかったー!

 人助けできたわー。


「それじゃ、飯と風呂はあいらん。寝るところはしまん。しばらくはそういうことにしよう」

「ま、それでいーか」

「うん」


 よかったよかった。

 なんか、ふたりともギスギスした感じなくなったし。


「何食べたいんだ? また魚か?」

「魚? 食べない」

「しまんの意見は聞いてないっ!」


 もうギスギスしてるー!


「え、しまんって何を食べるの?」


 人間、だけは言わないでくれよ。


「人間……」


 ぎゃー!


「が食べてるものをもらってる」


 あぶねー!

 けど、それ奪ってますよね!?


「今後は人間の食事は食べませんので」


 そのうち貿易というか、交換みたいなことは考えているが。


「じゃ、狩りにでもいく?」

「む……」


 正直、動物を殺すとかやったことなさすぎて怖い。

 他に無いものか……。

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