第11話 ゆっくりと、わからせていきたい。

「あんまり痛くないけど?」

「わたらせゆ! なんでそんな弱いの!」


 いや、だってほら、最初からフルパワーで叩くのはね? 可哀想じゃない。


「段々と強くしていこうかなと」

「……またお尻撫でてない?」

「叩く前にはね、撫でるのよ。そういうものなのよ」

「まさか、撫でたいからわざと弱く叩いたんじゃ」


 感の鋭いメスガキは嫌いじゃないよ。だって、わかっててもやるもん。


「レベル2!」

「うん。まあ、ちょっと痛い」

「わたらせゆ! レベルいくつまであるの!」

「10だね」

「10でやれ!」

「いやいや、レベルは1つずつ上げていくのよ」


 そうしないとね?

 すぐ終わっちゃうじゃない。それじゃほら、わからせられないんじゃないですかね。


「これで2か……ってことは」


 ほらね。10ってヤバいじゃんって想像するじゃない。その方がいいじゃない。


「もう勝てないか。ギブアッ……」

「おいおい! 早いって!」


 まったく最近の若者は! すぐに諦めたり、あっさり負けを認めたり! よくないよ!


「レベル5! レベル6! レベル7!」

「痛っ! 痛い! ギブだって!」

「やれやれ。ようやくわかったか」

「とっくにわかってたんだけど!? この鬼畜」


 鬼畜か……そう呼ばれるのも致し方ないな。うん。勇者だから、悪魔から鬼畜呼ばわりされるのも甘受しなければならないね。決して言われて嬉しいわけじゃないよ。


「ふふん。わかったか、しまん」

「なんであんたがそんなに偉そうなの」

「結婚っていう契約してるもんね」

「なにそれ」


 悪魔は結婚を知らないから、話が通じない。それをわかったうえで言ってるのだ。俺と結婚したということを言いたくてしょうがないと。さっきもキスしてるところをしまんに見せつけたかったのかもしれない。なんてカワイイやつだ!

 あいらんの好感度を上げつつ、しまんを見ると、こちらをジッと見た。


「ふーん。じゃ、あたしもする」

「えっ!?」

「結婚の契約する」

「ええ?」


 しまんとも結婚!?

 いやいやいや……え?

 そうか、結婚がなんだかわかってないから……。あいらんを見る。


「ま、そーなるな。わたらせゆに勝てる気なんてしないし。敗北した悪魔がその後も生きていくなら、契約するしかない」


 あいらんも別に反対というわけじゃないみたいですね。

 ふむ……この二人と結婚ねえ……。

 いいですね!

 最高じゃないですか!


「ま、じゃあやりますか」


 ちょっと、かがむ。そして、頭を撫でつつ、口を近づけて……


「んむ!?」


 こっちからいくかと思ったが、向こうから奪ってきた。ひょっとしたら、悪魔から口づけをすることが契約なのかもしれない。


「んっ」


 これはね、俺が出しちゃった声です。

 ごめんね。可愛い女の子の声だと思ってたならごめんね。声が思わず出ちゃったのは俺なのよ。

 しまんはね、クールだからなのか、声も出さないし、顔も変わらないです。ただ、舌がめちゃくちゃガンガン来るからね、俺の方がクラクラしちゃうよね。

 あいらんもすごかったけど、しまんもすごい。休まずにずっと口内を舐め回してくるし、単調な動きじゃない。

 気持ち良すぎて、思わず声も漏れますよ。

 なんでこんなにテクニシャンなんだ……。またしても嫉妬しそうになりますね。


「長い! ちょっと交代」

「えっ。んーっ」


 あいらんがしまんをどかして、自分がキスをし始めた。なんてことすんだ。でも、むちゃくちゃ嬉しい俺がいます。

 契約とかじゃなくて、単に俺とキスをしたがる美少女……嬉しすぎるだろ。

 二人が俺の唇を奪い合う状況……天国だ。悪魔に挟まれた天国だよ。


「まだ契約終わってない」


 そうなの?

 しまんが、あいらんをどかして舌を入れてくる。

 もう力が入りませんよ。膝を地面につけて、されるがまま。


「いや、こんなのすぐに終わるのに。なんで嘘つくの」


 えー!

 嘘ついてるの?

 かわいいじゃない……。ツンデレメスガキ、いいじゃない……。

 

「ふー」


 あいらんが口元をぐいっと腕で拭いている様子を見る。エロいね……。

 しまんはクールに、何もなかったような表情だが口の周りが濡れている。エロいね……。


「さて、結婚したってことだけど……どうすんの」

「ああ……」


 どうするんだろうな。ちょっと一夫多妻制がわからんのよね。今日はしまんの家に行くとかなんですかね?


「ずっと一緒に住むのが結婚だからなあ。みんなで一緒にうちに来るか?」


 おっ、あいらんの家で3人で住むのか。いいじゃん。


「は? じゃ、ウチでもいいじゃん」

「いやいや、しまんの家はないでしょ」

「は?」


 早くも喧嘩ですよ。夫婦喧嘩ならぬ、婦婦喧嘩ですよ。


「見に行ってみないとわかんないだろ」

「ふふん。ユウはあたしの味方」


 おう、いつの間にかユウと呼ばれている。わたらせゆっていう呼び方も好きだけど。

 別に味方をしたつもりはないが、ちょっと嬉しくなってしまう。


「むっ。結婚したのはこっちが先なんだけど?」

「そういうことじゃなくない?」


 やべっ。ニヤニヤしてたら険悪なムードに!


「ふたりともと結婚しているわけだからさ、先とか後とか、上とか下とかないんだよ」


 と言いましたが、いがみあったままです。仲が悪いなあ。


「ほら、あいらんの風呂は行ったことあるじゃん。しまんの風呂もさ、見てみたいわけよ」


 至極真っ当なことを言っています。納得だろ。


「……風呂?」


 どうした、しまん。小首をかしげて。


「あらら、お風呂を知らないんですか~? まあ、しまんじゃ知らないでしょうね~?」


 あいらんが超絶メスガキモードに。しかし、風呂を知らないとは一体。当然だが、しまんは臭いとか汚いなんてことはない。


「……」


 しまんは、黙ってしまった。うーん、どういうことなのか……。

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