第10話 叩くより、叩かれたい。マジで。
さて、わからせるか……。
「なんでコイツ、お尻出してるんだ?」
「ふふふ。わたらせゆは、強すぎるから先に攻撃させてやろうという考えなんだ」
「尻を蹴られたい変態なのかと思った」
ちょっと? ふたりとも? どっちも正解なんだけど? なんでわかるのかしらん。
この、しまんというメスガキ。なんかすっごくドSのオーラがある。非常に期待できる予感。
「じゃあ、お望み通り」
ぱしーん!
あいらんと違って、腰が入ってる! ケツが!
ケツが……ちょうどいいくらいの刺激!
痛いというより、気持ちいい。快感といってもいいね。期待以上だ。
「よし、もう一発こい!」
「こわっ」
「ふふふ。わたらせゆの怖さがわかったか」
あいらんはドヤってるが、おそらくしまんはキモいという意味で怖がってると思われる。でもいいのよ。目的を達せればね。わからせるための方法は問わないぜ。あと「こわっ」って言われるのも快感。もっと罵ってくれてもいいのよ。
「くっ」
びしーん!
「痛いっ」
卑怯だぞ、尻じゃなくて太ももに攻撃してるじゃん。
「……」
「どうだ。勝てる気がしないだろ」
「確かに……思いっきり蹴っ飛ばして、痛いって言うだけ? 普通の人間だったら吹っ飛んで死ぬのに。物理攻撃じゃ無理そう」
……えっ、もう物理攻撃なし?
「いや、もっと尻を蹴ってもらっていいんだぞ?」
「……きもっ」
ぐぬう。「きもっ」は全然嬉しくない。
「じゃあ、ビンタにする?」
「なんであんたが攻撃方法指定すんの」
まあね。そうね。べ、べつにビンタされたかったわけじゃないんだからねっ、勘違いしないでよね。
「ふふふ。わたらせゆは魔法もきかないぞ」
おいっ、そんな魔法攻撃を誘導するようなことをいうな。俺はまだ手や足で攻撃されたいんだ。
「……久しぶりに本気で魔法を使うか」
んも~。余計なこと言うなよあいらん。
しかしまあ、魔法も普段は必要ないんだろうな。この世界で悪魔に勝てる存在はいないっぽいし。
あいらんも普段は風呂の水をキレイにするとか、生活するうえで便利なものって感じだもんよ。
だが。キックに関しては、あいらんより強かった。魔法についても、しまんの方が強力かもしれん。
しまんは、モニャモニャと呪文を詠唱している。あいらんはこんなに長く詠唱しなかった。やはり強力なのか……
「はっ!」
しまんの手のひらからは、何も出ているように見えないが……
「あっ!」
ビリっと来た!
なるほど、電撃系の魔法か!
攻撃力がありそうな気がするが……
「うーん」
この程度だとバラエティ番組の罰ゲームとしても弱いんじゃないか?
なんだったら冬の静電気のほうが痛いまである。
「やはり効かないぞ! さすが、わたらせゆ! どうだ、しまん」
「ちっ」
なんであいらんがそんなにドヤってるのか。
「やっぱ図体デカいから、こういうのは効かないか」
ふむ。まあそうかも。分散しちゃうもんな。肩だけに集中して魔法使われたら、肩こり解消できそうですけどね。
それにしても、この魔法何に使うんだ? 魚を気絶させて漁をするとか?
「人間だったらコレで確実に、どんな秘密でも喋るのに」
拷問の方法だったー! おっかねえな! さすが悪魔だな!
「これより効果があるのは……」
悩んでるよ。ヒントを出してあげよう。
「ビンタだと思うけどな~」
「ふふん、わたらせゆにビンタは効かないぞ」
「あいらん、なんでそんな事言うの」
実際あいらんとのバトルでは一番ダメージあったのに。
「ていうか、なんでビンタされたいのコイツ。きもっ」
ぐふっ。
実は「きもっ」が一番効いてる可能性ある。やだなー、なんかもっといい罵り方あるだろ~。
「やっぱり、熱魔法か?」
「むっ」
熱だと?
火は小さすぎてダメージなかったが、熱はヤバいかもしれん!
暑いのは苦手だよ。普通に夏の暑さでギブアップだよ。
しまんは、もにゅもにゅと呪文を詠唱している。クールでツンとした彼女がなにやら懸命につぶやいている様子はなにやら可愛らしい。
ヤバいと思ってる割に、結局そんなことを思ってしまう俺。マジで火傷したらキツイな~。
「はーっ!」
「うわーっ」
火ではないので、またも見た目にわからない。手の先にあるのは、俺の顔だが……。
「あっ、いって! あっつ!」
火傷だ! まごうことなく火傷! 我が人生で一番馴染みのある火傷!
小籠包食ったときとか、フーフーしないでカップ麺すすったときとか、無理して一口でたこ焼きを口に放り込んだときとか!
そう、上顎の火傷です! 舌で触ると、口内の粘膜がベロンってなってるよ、ベロンって。
しまんはあいらんに、ちょっと自慢げな顔を向ける。
「効いてるぞ、あいらん」
「効いてるけど、日常レベルっぽいぞ」
びっくりするくらい日常なんすよね。
静電気だの、上顎火傷だの。誰しも知ってるダメージなのよ。
「ヤな魔法だな~」
上顎を舌でぺろぺろしている俺を見て、しまんはふーっと嘆息した。そういうの似合うなあ、この悪魔。
「うーん。確かに。勝てないねこれは」
「そうだろそうだろ? わたらせゆは無敵だよ」
どうやらわかってきたっぽいですね。
「さ、わたらせゆ。必殺技で倒しちゃおうよ」
「必殺技……?」
俺にそんなものあったっけ?
「ほら、お尻がすごく痛いやつだよ」
「ああ、お尻ペンペンね」
「痛すぎて、しまんは泣いちゃうかもだよ」
あいらんが泣きべそかいてたやつだろ。自分が泣いたことは内緒っぽいな。
まあ、必殺技ってことでいいか。他にできる攻撃ないしな。
「お尻……? なんか目がいやらしいな」
「ぎくっ」
「ははは。いやらしいわけないだろ」
「ぎくってなってるじゃん」
「ははーん。ビビってるんだな、しまんは」
いいぞ、あいらん。そうだそうだ。ビビってるから、いやらしいなんて理由で逃げようとしてるんだよ。
「ほら、わたらせゆ、やっちゃいなよ」
「そうだな。わからせないとな」
「うっ……」
やばい、急がないと降参しそうだ。それではお尻を触ることができん。
彼女の手首を握り、少しひねり上げる。頭が下がって、お尻が突き出る。
「くっ、強い」
「あ、痛い? ごめんね」
「……変なやつ」
「じゃ、叩くぞ」
「なんで撫でてるんだ! 変態!」
「お尻ペンペンは、まず2回撫でるところからが必殺技だからな」
「詠唱みたいなもんだろう。準備だ準備」
「そう。さすが、あいらんはわかってるな」
「へへー」
しかし「変態!」と言われるのはイイね。「きもっ」は言われたくないが、「変態」と言われるのは良い。なぜなんだろうな。哲学だな。
「いつまで撫でてるんだ!」
「おっ、ごめんごめん。じゃ、行くぞ~」
尻を叩こう……と思ったが、なんかまだもったいないな。
「こっちも触っとこ」
「っ!? なんで太ももを触る!?」
「さっき太ももを蹴られたからな。お返しだな」
「くっ……」
睨んでるよ。いいねー。太もも触って睨まれる。いいですねー。この異世界に来て今が一番幸せだよ俺は。
さ、尻を叩きますか。
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