第6話 高い、怖い、楽しい。

「うまあああああああい!」


 まさか冷凍食品ですら最高にウマい現代日本にいた俺が、異世界のロリ悪魔が作った料理で感動するとは!?

 もちろん釣りたての川魚が美味しいというのはわかるが、そういう次元じゃない。

 俺が食ったこと無いくらい高級なレストランの味って感じ。


「そ、そーか? シンプルに蒸しただけだぞ……」

「いやいやいや、シンプルじゃないって。すっごい複雑な香りじゃん。すごいって。うまいって」

「あ、そ。ふーん」


 ハーブっていうの? めちゃくちゃいろんな香草と香辛料が複雑に絡み合っていて、鼻から抜ける息が快感だ。

 そもそも蒸した魚ってあんまりしらないけど、ふっくらとして柔らかく、口の中でほろほろと溶けていく。まるで温かい雪のように。

 俺はシンプルに塩焼きにした方がいいじゃないかと思っていたが、絶対にこっちの方がうまいと断言できる。

 

「しかし、すごいよなココ」

「別に大したことないって」

「あるよ~」


 川辺の平らなところに作られたキャンプ場みたいな場所。これはあいらんが自分で作り上げた釣り場だという。

 釣りだけじゃなく、調理もできるようになっていた。屋根のある小さな倉庫が完備されており、切るのはもちろん焼く、蒸す、煮るといったことができる鍋が揃っている。調味料も多数用意されている。完璧すぎる場所だ。

 だから正直、期待はしていた。

 しかし期待を遥かに上回る味だった。マジでうまい……。


「あー、うまい。うまいな~。最高だ」

「ふん。デカくても人間は普段大したものを食ってないんだな」


 そう言いながらも、おかわりを用意してくれるあいらん……。憎まれ口っぽいセリフではあるが、悪い気はしてないと確信できる顔と口調だった。


「辛いの苦手じゃなかったらコレもかけてみろ」

「うお~! ますますうめえ~!?」


 味変まで……もう駄目だ、胃袋を完全に掴まれた。この異世界で必要なものはこのあいらんという存在に違いない。


「食い終わったら、ティータイムにするけど、その後ちゃんと戦うんだぞ」


 やさしい……夏休みの宿題をやらせる母親みたいな……。


「ずず~。はぁ~」


 お茶も香りがいい……ミントやレモングラスみたいな爽やかさもあるし、どっしりした渋みも甘みもあって……。


「戦いたくねえ~」

「おい! 話が違うぞ!」


 怒られてしまった……。なんでこんないい子をわからせないといけないんだ。なんでそんなに戦いたいの、このロリ。

 怪我とかさせたくないんだけど?


「ほら、川辺だと危ないし……」

「戦うんだぞ!?」


 そう言われてもなあ。こっちは子どもと相撲をするくらいの感覚しかないのよ。


「じゃあさ、戦いが終わったらお風呂いかね? 俺お風呂入ってないんだよ」

「おい! 戦いをなんだと思ってんだよ!? 子どもの遊びじゃないんだぞ!」


 正解。子どもの遊びだと思ってる。  


「ははーん? わたらせゆ、ひょっとしてビビってるのか~?」


 おっ。いいね、その見下すような笑顔。あいらんは、その表情が一番魅力的ですよ。


「そうそう。ビビってる。こわいこわい」

「おい。少しもビビってないだろ」


 バレてしまった。ますます調子に乗らせるのに失敗。しかしご立腹のあいらんもまた良し。


「じゃあ、いいよ。攻撃してきて」

「お茶飲んでるじゃないか!」

「はいはい」


 お茶を飲み干して、一応構える。


「ふふふ。これでもくらえ!」


 何をするのかと思ったら、まさかのヒップアタックだった。

 

「顔を尻で攻撃。これは精神的にもダメージがあるだろう!」


 いや、ご褒美にしか思えないぞ……。お尻はぷりっとしてるが柔らかくて、こんなもんいくらでもやって欲しいですよ。


「くうっ! これは今までの攻撃で一番強い!」

「あははは! そーかそーか。ざーこざーこ!」


 しかし惜しいな。ホットパンツが邪魔だよ。


「くっ。これでもし直接お尻で攻撃されたとしたら、ダメージは2倍、いや3倍以上じゃないか……?」

「そーかそーか、じゃあ……」


 おお。チョロいね~。わくわく。


「ってそれはこっちが恥ずかしいだろ!?」

「あら」


 そうはいかないのか。しかし、恥ずかしがってるのもまた良し。怒ってても、恥ずかしがってても、顔が赤ければ赤いほどカワイイね。


「それなら……こうだ!」


 とたたーと走ってきて、ぼすんと俺にぶつかってきた。抱っこをせがむように。


「どうだ、ヘッドバッド……ってうわー!」


 なんだ、お腹に頭突きをしているつもりだったのか。つい脇を持って持ち上げてしてしまった。


「わー、わー。お~」


 怒るかと思ったが、きゃっきゃと喜んでいる。うんうん。


「わたらせゆ、すげーなー。これなんて技だ?」

「高い高いだ」

「たしかに高い。これ、人間にやったらめちゃくちゃ怖がるだろうな」

「そうかもな……」

「ふん。悪魔にとっては楽しいくらいだけどな」

 

 楽しいんだ。そりゃよかった。


「よいしょー」

「うわ~」


 ちょっと放り投げてキャッチ。


「な、投げるとかヤバいな」

「そうか。怖いか」

「人間だったら恐怖で死ぬかもしれないが、これでも平気だから魔王軍なのだ」

「あいらんはスゴイな~」

「そうだろう、そうだろう。もっとやってもいいぞ」

「よいしょー、よいしょー」

「わー、わー!」


 両手をあげて喜んでいるぞ。赤ちゃんをあやす技で。

 妹がいたらこんな感じだったのだろうか……。


「ふー。なかなかいい攻撃だったぞ、わたらせゆ」

「そうか、そうか。じゃあお風呂行くか」

「いやいやいや! 全然ダメージ受けてないっての」


 俺も受けてないのですが……。


「痛いって言わせたら、お風呂を用意してやろう」

「ふむ……」


 じゃあ、やる気を出しますか……。

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