第7話 気づいたら、結婚してた。意外とそんなもの。
「痛い痛い! まいった!」
ふー。やはりコレで正解だったか。
小さな女の子に痛いと言わせるが、怪我はさせない方法。
それはやっぱり、お尻ペンペンしかないと思ったんだ。
手のひらで尻を叩くなら、さすがに本気と言うか。結構パワーを入れることが出来ました。
三発も叩いたら、あっさりとギブアップですよ。お尻ペンペン無双!
「つ、強すぎる……初めてだ、こんな痛み……」
やりすぎたか?
涙目じゃん。
「勝てないな……きっと……どうやってもっ……」
でもこれでよかったみたいだな。これがわからせるってことだろう。もう俺には歯向かってこないに違いない。
「ぐす……」
泣いちゃったよ!
参った。泣く子には勝てないよ。
相手が悪魔だとしても罪悪感がエグい。
「よしよし、痛かったな。ごめんな」
頭を撫でる……。それくらいしかできることがない……。
「!?」
顔を上げたが、思ったのと違う表情だった。目を見開いて……驚いている?
まさか、失礼だったか?
海外では頭を触ることがNGの国もあると聞いたことがある……急いで手をどけた。
「すご!」
「え?」
「頭を上から撫でられるなんて初めてだ」
「あ、あー。なるほど」
小さな女の子だと思ってるから、頭を撫でられるなんて当たり前だと思っていたが。悪魔より大きな存在なんて俺だけか。
「なんか……気持ちよかった。あったかくて……うれしいような……」
うっとりと目を細める。
これは、ナデポというやつでは!?
頭を撫でられることで惚れてしまうほど顔を赤らめている。メスガキをナデポさせる。こんなに気持ちのいいことはない!
「よ~しよしよし」
「はわわ……」
出たー!
出たよ、はわわ! ナデポではわわ!
金髪ぷにロリのはわわ。こりゃたまんねーわ。
「いいこいいこ」
「いいこ……初めて言われた……」
そうだった、こいつ悪魔だったわ。そこらへんのおじさん取っ捕まえて肉をよこせとか言っちゃうやつだったわ。いいこじゃねーわ。でもまあいいだろ。
「いいこだ~。いいこだよ~。だから今後は人間をいじめないようにね~」
「うん、うん。わかった」
よっしゃー!
わからせたー!
悪魔だって、尻を叩いて頭を撫でればわからせることができるんだよ!
「じゃあ契約しよ」
「契約?」
そういや聞いたことあるな。悪魔は契約するものだって。
決して契約違反はしないとか。二度と俺に逆らわないという契約をしておくと安心だな。
「ちょっとしゃがんで」
「はいはい」
「目をつぶっといて」
「ほいほい」
ちゅっ。
!?
ちゅちゅちゅちゅ。
!?!?!?
慌てて目を見開く。
まさかとは思ったが、完全にキスだった。
!?!?!?!?
舌が入ってきた!
こんなの初めて……。
ああ……力が抜けて……頭がぼーっとする。さすがメスガキ……。
「ぷはっ。口も大きいなー」
むっ。ってことは俺より小さいやつとはキスしたことあるってことか……ってなんで俺はこんな嫉妬してるみたいなこと考えているんだ。
そんなことより。
「これ、ほんとに契約なのか?」
「ん。契約」
そんな契約あるかね……?
「病めるときも健やかなるときも、ずっと愛することを誓う契約」
「結婚じゃないか!?」
確かに結婚式でキスしますねえ!?
人間同士でもやる契約でしたね!?
「結婚というのは知らないけど。わたらせゆのことは、好きだから」
「ぐふうっ」
こんなストレートに女の子から好きって言われたのも始めてだ。しかし、結婚はちょっと……。
「一緒に住める家と、お風呂と、ご飯もつくってあげるから」
「よろしくお願いします!」
なんてこった、結婚って最高じゃないか。断る理由がないね!
あいらんは、にこりと微笑んだ。天使の笑顔じゃん。天使みたいな悪魔の笑顔じゃん。
「じゃ、まずはお風呂で頼む。こっち来てから一度も入ってないんだ」
「おっけおっけ。ついてきて」
そう言うと、軽い足取りで小走りを始めた。
俺が歩く速度と同じだ。
朝の日差しを浴びながら、散歩しつつ風呂に向かう。いいじゃないの。ようやくこの世界を、余裕を持って眺めることができるようになった。それが結婚の影響……!
やや浮足立った感じで、すいすいと彼女の後をついていく。
「んー?」
なんとなく、知ってるような景色……。いや、そんなわけないか。この世界にはやってきたばかりですよ。
小高い丘を登っていく。
「ここだぞ」
「んー?」
なんかね、やっぱ知ってるんですよ。
昨日の夜、見た気がするんですよ。
デカめのジャングルジムみたいな感じなんですよ。
「すごいだろ」
「すごいなあ。これ、あいらんが作ったのか?」
「うん。高いとこじゃないと、動物に邪魔されちゃうからね」
かわいいドヤ顔だが、俺はそれどころじゃない。嫌な予感しかしない。
「人間も登れないぞ。手足が短いからなー」
「そうだな」
うん。そう思ったのよ。この世界の人間じゃ登れないなー。作ったのは人間じゃないんだろうなーって思ってたのよ。悪魔の仕業だったかー。
ほいほいと登っていくあいらんに続いて、俺も登る。
「これが風呂だ」
「やっぱりか……」
嫌な予感は的中した。
あいらんが指さしたものは、昨日の夜に俺が飲んだ水の入ってる桶だ!
「体を洗うときは、これでお湯をよそう」
なるほどねー。飲むための柄杓じゃなくて、お風呂の手桶だったんだねー。そっかー。
「昨日のお昼に入った水だけど、魔法でキレイにするから」
「あ、そうなんだ。入った後はそのまんまだった?」
「ん? うん」
なるほどねー。
キレイにされてた可能性があるかと思ったけど、どうやら完全にあいらんの入った風呂の水でしたねー。
そっかそっかー。
いい匂いがしたのは、あいらんの匂いだったんですねー。
桶に向かって手をかざしている。水をキレイにする魔法のようだ。
「よし、おっけ。じゃ、温めるよ」
「あ、ちょっと待って」
風呂の水を飲んでみる。
「んー」
単にこの世界の水がうまいのかと思ったが、どうやら違いますね。
あいらんが入浴した後の水だから美味かったのだ……。まじか……。
「なんだ? 喉乾いてたのか?」
「ま、まあ」
「ちゃんと飲み物あるぞ」
床をぱかんと開けると、中には飲み物の入った瓶が。便利ですねー。
「おお、うまい」
「そうだろ」
トロピカルティーみたいな感じ?
うまいけど、正直、昨日の水のほうが上かな……と思った。言わないけど。
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