第2話 おとなの怯えた顔を見て、そんなふうに笑うんだ
「異世界というより、テーマパークだなこりゃ」
どうにかこうにか大聖堂らしき建物を出た俺(入り口がちょっと壊れた)は、いわゆるファンタジーの城下町といった雰囲気の街を見下ろしていた。
犬小屋みたいなのがいっぱいあるって感じだ。
俺の身長より高い建物は、大聖堂(勝手に俺がそう呼んでるだけで実際はなにか知らない)と、城だけ。
城の庭を上から覗き込んだりしてみる。
小さな人々がなにかやってるが、保育園みたいだな……。
ちょっと道を歩いてみるか。
「わー」
「でっか……」
俺を見上げる人々。
子犬みたいな感じなので、うっかり踏んづけることはないが、ぶつかったら大事故になるだろう。気をつけないとな。
主な交通手段は馬車……というのか、馬なのかどうかわからないが、犬くらいの動物が人の載った車でうろうろしている。
……完全に邪魔っぽいな。
ここはいわゆる異世界には違いないが、すべてがミニサイズすぎてホテルにも泊まれないし、風呂にも入れない。
魔王軍とやらが襲来するまで、どこかで待ってるしかないんだろう。
街は走ったら道路やら壊れそうだし、そろりそろり歩くか……どんな勇者だよ……。
さて、まずは水を確保するか……やれやれ、異世界にきた勇者様がなんで自分で水を確保せねばならんのだ……。
街の門までやってくる。屈めば通れるくらいの門だ。
「はーはっはっはー! あそびに来てやったぞ、人間どもー!」
ん?
門のすぐ外に、声のデカイやつがいるな……基本的にこの世界の人間は体が小さい分、声も小さいからな。
声の主は……まさに子どもだ。
単純に俺から見て子ども。赤ちゃんのようなこの世界の人間から見れば多いのだろうが、俺からすると普段見かける小学生というサイズ。
小学校、5年生か6年生といったところか。
「あははは、おじさんなのにちっさいのー! ざーこ、ざーこ!」
「う、うわあ、やめてくれえ」
「ぎゃははは! やめてくれーだって! あははは!」
うわ……。門番のおじさんを捕まえて、暴言を浴びせていた。まさにメスガキだ。
「きゃー!」
「悪魔だ! 逃げろ!」
どうやら魔王軍の悪魔とはやはりこの女児のことらしい。
恐ろしいのか、近くにいる人々は散り散りに逃げていくが……俺からするとお人形遊びにしか見えん。
武器や魔法も使ってないし、骨折したり血が出てるようにも見えない。
ただ女子小学生が、おじさんのフィギュアで遊んでるという……まぁ趣味は悪い気がするが。
「おなかプニョプニョなんですけどー? 運動した方がよくなーい?」
「ひいい」
おじさんが腹を人差し指で突っつかれている。
うーん。確かに悪魔のような所業というより、メスガキだわ。
俺はこいつと戦うために召喚されたのか……まじかよ。
しかしわからせるというのは理解できる。悪魔と言われても、俺から見れば小さな女の子なので、剣で斬りかかるなんてできない。火の魔法が使えても、使う気にならないだろう。なんなら顔を殴ることもためらわれる。
「おい、そこの悪魔」
「ん? え? でっかー! え? なにこの大きなおじさん」
「おい! おじさんじゃない! 俺はまだ高校生だぞ!」
「え? デカさじゃなくてそこで怒るの? おもしろーい!」
ゲラゲラと笑いこけるメスガキ。
俺をおじさんとか……ショックだ。生まれて初めて言われたが、こんなにショックなものだったとは。
しかし、なんだ。
こいつ、ひょっとして、すごくカワイイのではないか?
確かに悪魔らしく頭にツノらしきものがあるが、将来絶対美人になるぞ。
スレンダーと言うよりは、ちょっとプニプニしてる感じ。頬もぷくぷくしている。決して太ってはいないのだが、太もももちょっとムチムチしている。
目はぱっちりしてて大きく、まつげも長く、やや丸っこい顔だち。
彼女は金髪のロングヘアをところどころ編み込んでおり、非常にオシャレに見える。服装は黒のハーフパンツにブラジャーがわりの黒いベルト。
笑顔も邪悪というよりは、本当に楽しいと思ってる笑い方だし。うーん、見れば見るほど可愛らしい。
「ひー。じゃあ、お兄さん? 始めてみたけど、どしたの? 何者?」
「勇者だよ。召喚されたんだ」
「ふーん? 召喚? 別の世界から?」
「ああ。異世界からな。お前をわからせるために」
「あははは! ナニ? わからせるって」
「二度と俺に逆らえないくらいコテンパンにするってことだよ」
「大きければ勝てると思ってるとか、おもしろすぎー! さすが人間、あさはかー」
お腹をかかえて足をバタバタさせて笑っている。うーん、まぎれもないメスガキだ……。
「ま、ここで暴れると街が壊れるから、広いところに行こうぜ」
「は? なにそれ。なんで悪魔がそんな言う事きかなきゃいけないワケ?」
バカじゃん、と言わんばかりに煽った顔を見せるメスガキ。さすがに、かちんと来ましたね。
もし門にぶつかったら痛いだろうが。
「いいから」
「うわっ、いきなりなにすんだ」
俺は彼女をひょいっと肩に担ぐと、門から離れた。
重さもまさに小学生という感じだ。
「おろせー!」
ジタバタするメスガキ。
「ちょっと静かにしろ」
手のひらで、ぺしんと尻を叩く。
「きゃー! な、なにすんだ、痛いじゃん!」
「おお。痛いのか。へえー」
そりゃ結構だ。
どうやら魔王軍の悪魔だからといって、俺の攻撃が通用しないわけじゃなさそうだ。
「あっ!? いや、全然痛くないし? ちょっとびっくりしただけ」
「ああ、そう」
ガキんちょだなあ……。
ちょっと歩くと草原があった。ピクニックにぴったりって感じ。わからせるのにもちょうどいいだろう。
「よいしょと」
「軽々と運びやがってー」
ぶんぶんと手を振る。カワイイやつだ。
「で? アタシをどうするって?」
「二度と人間に逆らえないようにする」
「はー? 逆らうとか逆らわないとか、人間ってそういうのじゃないでしょ」
「なんだと思ってるんだ」
「んー。ペット? 一緒に遊んでるだけだよ」
「遊んであげてる?」
「そうだよ。別に食べたりしないよー?」
「殺したりしないの?」
「しないよ! そんな悪魔いないよ」
「そーなの?」
じゃあ魔王軍とは一体?
「ただイジめると面白いから、たまにやりすぎちゃうだけだよ」
「うわー、質悪いなー」
さっきのおじさんのように、おもちゃ扱いされるのが困るってことか。
そりゃそうだよな、本気で怖がってたし。
「くふふ。今日はあんたが遊んでくれるってワケ? デカイだけで人間なんでしょ?」
「ああ。人間だ。ちょっとデカイだけで、魔法も使えないただの人間」
「あはは! そんなのが魔王軍の悪魔に勝てるわけないじゃーん!」
指をさすな指を。
「いいから、かかってこい」
マスターとか呼ばせる召喚主の依頼は正直乗り気じゃなかったが、こいつは普通にムカつくガキンチョなので、ギャフンと言わせたくなっていた。
かといって、いきなりこっちから攻撃はできない。だって女の子だからな……どう見ても。
「へー。じゃ、小手調べに」
メスガキは、俺に近づくと、チョップをかましてきた。
背丈は俺のへそのちょっと上あたり。チョップは胸に当たった。
「ふむ」
マジで女子だな。小学生女子。
痛いっちゃ痛いが、まあ、たいしたことはない。
「もっと本気でやってもいいぞ」
「え!?」
「小手調べだったんだろ? いいよ、もっと強くしても」
「ふ、ふーん? 人間のくせになかなか言うじゃん」
ばしっばしっと音を立てて、胸にチョップを繰り出す。完全に女児とのプロレスごっこです。
そうだ、プロレスだ。
プロレスは受けの美学。相手の攻撃を受けて受けて、これなら倒せるという必殺技をくらっても倒れない。それでこそ相手よりも確実に強いというアピールになる。
どれだけ攻撃されても平気なら、俺に勝てる気がしないということをわからせることができるだろう。
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