第20話 第四代帝王

 父上――第四代帝王カーディズ・ディアクロウゼス――の寝室に侵入した。見渡す限り、部屋にある家具は高価な意匠が施されている。眩しいくらいだ。澄んだ空気からほこりが一つもない事が分かる。きっと毎日、使用人達が丁寧に掃除しているに違いない。


「誰も居ませんね」


 そう言って、アイリスは周りを見渡しながら部屋の中心へと向かう。中心には黄金の装飾が施されたソファーとテーブルがある。


「ベッドは奥の部屋にある」

「奥、ですか」


 アイリスは俺の声を聞いて振り向き、直ぐに部屋の奥を見やる。そこには高級感のあるカーテンがぶら下がっていた。布で仕切りを作っている状態だ。


「そんじゃあ、行くぞ」

「はい!」


 俺はアイリスの横を通り過ぎると、彼女は背後から着いてくる。そして、勢いよく奥のカーテンをガラガラと開けて入る。


 天蓋が無いベッドが目に入ったが四隅にある黄金の装飾で計り知れない価値がある事が分かった。俺の力でいくらでも複製出来るんだけどな。


 そんな無粋な事を考えていると、ベッドに横たわっている人物が口を開く。


「……護衛兵はどうした?」


 突然の闖入者ちんにゅうしゃに動じる事無く、扉の前に居た護衛兵の事を尋ねられた。その冷静さ。厳かな口調。俺が知っている父上だった。


 ただ、噂に聞くやまいのせいか、大分、やつれていた。なにより俺が驚いたのは増えた、しわの数。最後に会ったのは一〇年前だから当然かも知れない。彼が望むのなら人差し指で皮膚をなぞって、瑞々しい肌にしてやろうかな、と思った。


 とりあえず、彼の疑問に答えるとしよう。


「あいつなら大丈夫だ。五体満足で生きてる」

「……使えん奴だ。減給処分だな」


 俺達のせいで給料が減る護衛兵。次いで、父上は俺達に尋ねる。


「わしを誘拐した所で身代金は貰えぬぞ。死を迎えるだけの老人だ」


 俺は横になっている父上の近くに立つ、アイリスは俺の背後から顔を覗かせて会話に耳を傾けている様だ。


「誘拐しに来たわけじゃない、あんたの病気を治しにきた」

「……医者には見えん。顔が見えない相手をどう信用しろと」


 俺達は鎧を纏い、兜でろくに顔が見えない姿だ。


「アイリス、鎧を跡形も無く破壊してくれ」

「いいのですか?」

「問題は無い。この人は口が硬い」

「分かりました。《物質破壊/マテリアルデリート》」


 アイリスは俺の肩に触れて言うと、お互いの鎧と兜は砂の様にサラサラと崩れ落ち、消えていった。


「これでいいだろ。カーディズ・ディアクロウゼス、あんたの病気の名前を教えてくれ」

「そちはまさか……まさか」


 目を見開き、上ずった声を出す父上。次いで彼は


「アレクか……?」


 俺の名を呼んでいた。さすがに顔が見えたら分かるんだな。


「ご無沙汰しております。父上」

「……今までどこに……生きておったのか……」


 俺は丁寧な態度を取り繕った。対して父上は目に薄っすらと涙を浮かべてた。しかし、先代帝王たる威厳か、感情を露わにする事は無い。


「いや、そちにはもう王位継承権は無い。王家を追放された身だ。何をしに来た」


 彼は直ぐに帝王としての顔になった。


「何って、病気を治しにきたって言っただろ」

「……医者にでもなったのか?」


 本当にそう思ったのか真剣な声を出していた。するとアイリスが、父上のベッドに詰め寄る。


「初めまして、わたくし、アイリス・フォウゼルと申します、以後お見知りおきを。お父様とうさま

「……医者になったうえに駆け落ちでもしたのか?」


 父上は盛大な勘違いをしていた。


「駆け落ちだなんて……そんな」


 と言う、アイリスは両手のひらを両頬に当てて赤くなっていた。満更まんざらでもない様子に見えなくもない。もしかしたら、アイリスにそう思って欲しいという俺の願望で満更でもない様子に見えたかもしれない。なんて俺は欲深いんだ!

 

 その後、右手を伸ばして父上の肩に触れる。


「なにをする」

「あんたを健康にした上で一〇年、若返らす」

「そんな事出来るわけが――」

「《創造人体/クリエイトボディ》」


 俺は父上の体の内部を健康状態に作り変えた。


「こ……これは力が溢れる!」


 彼は上体を起こす! 元気になった様だ。ちなみに肩に触れた事で体に腫瘍がある事が分かった。癌とかいう不治の病だったかもしれない。


「よし……」


 次いで俺は父上の額に人差し指は当てる。困惑している様子の彼を無視し、「《創造再生/クリエイトリカバリー》」と父上を眩い光に包ませては一〇年前の肉体を取り戻させる。


「おお! これは!」


 自身の両手のひらと甲を見て、少し若返った事を認識した様だった。次いで、目を丸くして俺達を見る。目には尊敬と畏怖の念が込められていた。当然の反応かもしれないな。人間に出来る芸当じゃないからな。


「そちは……何者、いや、何者になったのだアレク。それにそのお嬢さんは一体誰だ」


 疑問をぶつけてくる彼に手っ取り早く答えを教えてやろう。


「アイリス、魔力を全開で開放しろ……それと建物は吹き飛ばさない様にしてくれ」

「も、もう。吹き飛ばしませんよ」


 むぅとアイリスは頬を膨らました。彼女の力はたまにコントロールが効かない時があるので俺は危惧していた。


「いくぞ」

「はい!」


 俺達の体から虹色の光が発せられ、そしてそれは頭上へと伸び、天井をすり抜けた。それは他者を圧倒する威圧感を持った神々しい光だった。虹色の光は天高く伸びそして、空を一気に覆いつくした事が分かる! そして、城内は虹色の光に溢れ! 国全体に広がる!


「…………ぉお」


 父上は感嘆していた。


 そして国と言う国が俺達の魔力に包まれ、大陸……いや、きっと世界全体から天高く魔力が発せられているだろう。世界中の人々は困惑しているのかもしれないけど、まぁいいか!


「か、神よ」


 俺とアイリスが解放した魔力に当てられたのか父上はベッドの上で膝をついて頭を下げた。


「アイリス」

「分かりました」


 俺はアイリスに魔力を抑えるように促し、俺達は世界を魔力で包むのをやめた。


「一体何があった……。アレクよ」


 そう尋ねる彼に俺は一〇年間、何があったのかを話し始めた。『アイリスラビリンス』と書かれたダンジョンに入ってしまった事。一〇年間、ダンジョンに潜り続けて、守護九士ナインガードと呼ばれる者達と創造神を倒した事。ダンジョンで倒してきた奴らの力は全て奪った事。

 

 また、俺は一〇〇〇年前の真実についても話した。破壊神は勇者ではなく財宝王に倒されたという事。破壊神の代わりに創造神が世界を破壊し始めた事。横にいるアイリスという少女が破壊神の力で創造神を自分ごと封印した事を。父上は俺達の発する魔力を目の当たりにしたせいか、話を真剣に聞いていた。

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