第21話 復活の帝王

「――経緯は分かった。これからどうするつもりだ」


 一連の話をした後、父上は慎重な面持ちで尋ねた。何にせよ俺の返答は決まっている。


「俺は、この世界の全てを見たい。この目で直接な。それにアイリスと一緒にいるって決めたんだ」


 アイリスを一瞥して言うと、彼女は少しはにかんだ表情を浮かべていた。一方、父上は少し考え込んだ様子の後、口を開く。


「世界を回るというのは……神と等しい存在になった使命感故か?」

「そんな大層なもんじゃない。父上には言ってなかったけど」


 そう言って、俺は口をつぐんだ。今、始めて、俺の本心を第四代帝王に伝える事にした。


「本当は、王位なんかに就きたくなかったんだ。財宝王に憧れててさ、彼みたいに世界を回って、ダンジョンに潜って、未知の世界に足を踏み入れたかったんだ。自由を、どこにでも行ける自由を欲しかったんだ」

「……ふむ」


 話を真剣にいていた父上は俺から視線をずらし遠い目をした。


「それで勉強に全く身が入ってなかったのか。講師を呼んでもそちは、全然話を聞かなかったそうだな……全く。だがそれでも」


 一旦、間を置く父上。


「アレクには帝位に就いて欲しかった。例え、少々頭が弱くともな」


 頭弱い言うな。横にはアイリスがいるんだぞ。ただただ、恥ずかしい。ちなみに彼女は「ふふっ」としとやかに笑っていた。


「父上だけじゃなくて、皆からやたらと期待されてたのは何となく分かっていた。だけど、当時の俺は修練用の木剣を振り回してただけの子供だ。俺の何を見込んでたんだ」

「アレク、そちには人を惹きつける馬鹿正直な明るさがあった」

「悪口にしか聞こえないんだけど」

「……今は少し、落ち着いた様だが。そちは帝国中の人々を惹きつける求心力があるとみたのだ」


 スルーしやがった。とりあえず、俺はかなり評価されてたみたいだ。求心力なんて言われても実感は湧かないけどな。


「アレクよ。すまなかった」


 そう言って、父上は俺と目を合わせる。


「いや、急に謝られても何のことやら」

「そちの本心に気付かなんだ。一〇年前なら嫌がっても王になる為に訓練を施しただろう。だが、そちが居なくなってから考えさせられた。もっと自由にしてやれば良かったと」


俺は懺悔している様な彼の姿に目を見張った。少なくとも一〇年前には見た事ない姿だった。


「……父上は、これからどうするんだ」

「わしは時期に帝王に戻る。おかげで体は元気になったし少し若返った。それにルミウスの反乱の事もあるのでな」


 告げられる復位宣言。


「そうだ、ルミウスの件を俺達に任してくれたら、茶々っと片付けれると思うが」

「それには及ばない、自国の事は自国で片付ける。それに力をひけらかすと神として崇められて、それこそ自由が無くなるぞ。人間領を支配する帝国の王子が神の力を得たとすれば皆、祀り上げるだろ」

「確かに、それは嫌だな」


 父上の言葉に納得していると。


「遠距離で反乱軍が居るところをバーンッて攻撃するのをどうですか?」


 とアイリスが口を挟んできた。バーンッてなんだろう。アイリスと俺の語彙力はいい勝負をしそうだ。


「さすがに都市ごと吹き飛ばすのはな。それに一応、弟だし、瞬殺するのは忍びないな。反乱した以上、処刑は可能性は高いが」

「あれ? わたくし、都市を消滅させるなんて言ってましたっけ?」


 首を傾げるアイリス。言ってない気がする。


「ごめん、早とちりしてた」

「いいえ、早とちりさせた、わたくしが悪いのです!」


 そうか? まぁいいか! などと考えていると父上はおもむろに立ち上がった。きっと、元気になったから急に走りたくなったんだろう。


「父上、ランニングするなら城内じゃなくて庭園でやってくださいよ」

「阿呆か。病み上がりで誰が走るか、それに城内で走る訳なかろう」

「…………」


 正論を言われて、俺は何も言えなくなった。元気になった先代帝王は歩いて部屋から出ようとしていたが、背を向けて、


「しばらく帝国にいるのか?」


 と尋ねてきた。


「まぁな。冒険者ギルトに登録しようと思っている、依頼という名目で色んな所に歩けるしな」

「……身分証明書と通行手形は持っとるのか?」

「あ、そういうや持ってない」


 先代帝王はかぶりを振る。少し呆れた様子だ。


「冒険者ギルドに登録すれば身分証代わりになる冒険者カードが貰える。ある程度、簡単な依頼をこなせばギルドから通行手形を発行してもらえるだろう」

「やたらと詳しいんだな」

「常識だ」

「あ、はい」


 少し強めの口調に俺は畏まってしまった。


 父上はアイリスの方を肩越しに見る。


「お嬢さん。息子を宜しく頼む」

「はい! わたくしがアレクシオ様を、えっと、うーん」


 と言うアイリスは目を泳がせてから、


「幸せにします!」

 

 謎の宣言。なんだそれ、むしろ俺が言いたい台詞。


「ははっ」


 口元を綻ばせる父上。


 そういや気になる事がまだある。妹達についてだ。


「エミリとシンシアはどうしてる?」

「二人は元気にやっておる。今はな」


 棘がある言い方だった。俺に懐いてた二人だ。きっと消息不明になった俺の身を案じてたに違いない。


「そちの無事は二人に伝えよう。だが直ぐには伝えぬ、安易に伝えれば国中が大騒ぎになるだろう。シンシアはともかくエミリは……うーむ」


 肩越しに俺を見る父上は歯切れが悪かった。エミリがどうしたってんだ? 実際、二人と会えば泣きついてくるのが想像に付くし、シンシアは、


『兄上! 今こそ帝王になるのです!』


 とか言ってきそうだが……。それ以外に何が起こるんだ?


「良く分からないけど俺も時期を見計らって顔を出すよ」

「国を出る時に城に来るといい、達者でな」


 第四代帝王はそのまま歩を進め部屋から出て行った。城の人に体調が復活した事を伝えるに違いない。


「お父様とうさま、元気になって良かったですね」


 アイリスは笑顔で言う。


「そうだな、さてと俺達も行くか」

「はい!」


 俺は《瞬間移動/テレポート》で最初に来た池の近くへと、アイリスと一緒に移動した。

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