第15話 自覚有りと無しの恋心
酒場『テイ』の上階にある宿屋にて、
「一番いい部屋を用意してくれ。《物質複製/マテリアルコピー》」
俺は宿屋のカウンターに手をかざして金貨を複製すると、じゃらじゃらとお金はカウンターに落ちていく。
驚愕した宿屋の店主は目が飛び出しそうになっていた。
「ほげぇ! ほげぇぇぇぇぇ! もういいですから! 十分! 一生泊まる気ですか!」
「少なくとも帝都にいる間は泊まらせてくれ。それと、お釣りはいらないからな」
「それはもちろんいいですけど……」
「では、これが鍵です」
「はい、ありがとうございます」
鍵を両手で丁寧に受け取るアイリス。
俺達は更に上階に登り、三階の一番奥にある部屋に入る。
眼前には五〇平方メートルの部屋が広がっていた。内装は大理石風となっていて見栄えが良い。真正面の壁はガラス張りとなっていて商業地区の飲食店が立ち並んでいるのが分かる。景観は良いが外から丸見えなので俺はカーテンを閉めた。プライバシーの侵害だ。
また、左右の壁には扉が付いていた。恐らく風呂場とトイレの部屋だろう。
他にはソファー、テーブル、キャビネット等の家具や基本的な備品が揃っていた。そして肝心な寝床はダブルベッド……しかもキングサイズ。
「アイリス、ベッドあれでいいの?」
「ベッド? 何か不都合でもあるのですか?」
彼女の視線は寝床に。
「わぁ! 凄く大きいですね」
アイリスは嬉しそうにベッドに腰掛けていた。というか、彼女は気付いてないのか?
「確かに大きいけど、問題はそこじゃなくてだな」
「?」
「ベッドが一つしかないだろ……だから俺がソファーで寝ようか」
照れ隠しに後頭部を掻きながら言った。そもそも俺ら出会ったばっかだし……それにアイリスが嫌がるかもしれないしな。
「なっ、なんでですか!」
「えっ!」
彼女は意外な反応をしていた。俺と一緒に寝たいと思ってたりして。いや待てよ、落ち着け俺。都合の良い方に考えた結果、俺は一〇年間ダンジョンを潜る羽目になったんだ。早合点は駄目だ。
結果的にはダンジョンに潜って良かったけどな、世界――そして、アイリスを救えたからな。
「えっと、その、ずっと一緒にいるってアレクシオ様が」
彼女は顔を赤らめて、人差し指同士をぐるぐる回してた。
確かに俺はこの子の両親に、
『一人気ままに旅をして世界を知るのもいいけど、二人の方が楽しそうだしな。俺がずっとアイリスと一緒にいますよ』
と言ったが、それが一緒のベッドに寝る事になんの関係があるんだ。
「どういう事だ? さすがに一緒のベッドで寝るわけにはいかないだろ」
「えっ…………」
彼女は声を漏らした後、
「わたくし……勘違いしてました……」
と俯いて呟いていた。声のトーンがいつもより低い気がする。そして、アイリスは布団も被らず、枕に顔をうずめてしまった。
やばい。全く分からないが失言したらしい! ど、どうしよう、俺、アイリスに嫌われちまったか⁉
「俺、なんか悪い事言ったみたいだな」
アイリスは枕に顔を付けたまま、
「
何故か拗ねていた。
さすがの俺でも彼女が落ち込んでいるのは分かる。原因の早期解明を!
俺はアイリスの近くに腰掛ける。
「俺はあんたにだけは嫌われたくない。無性にな」
「それはなぜですか?」
彼女は顔をこっちに向けた。
なんでだろうな……なんて言うんだろ、胸がキュッとしてしまう様な感覚に陥る。
「自分でも良く分からないんだ。アイリスの事を考えると胸が苦しくなるというか、心臓の鼓動が速くなるというか、なんだろうなこれ」
と心の内をぶちまけた。
「あわ……あわあわあわ」
気付くと彼女はベッドの上で女の子座りをしていて、燃える様に顔が赤くなっていた。なんかうわ言も聞こえる。
「わたわた、私も同じ気持ちです!」
「え、おい」
アイリスは立ち上がって何処かに行こうとしていた。
「何処行くんだ? というかさっきまで落ち込んでなかったか?」
「もういいんです。えへへ。お風呂行ってきますね!」
急に機嫌が良くなってた。女の子が分からない。まっ、彼女が笑顔ならそれでいいか。
「じゃあ、先に寝とくな」
「はい! それと、ソファーで寝ないで下さいね。せっかく大きいベッドがあるのですから、使いましょう」
またアイリスの機嫌を損ねたくないので素直にベッドで寝る事にしよう。そういえば、一〇年振りのベッドだ。
「……風呂は明日の朝でいいか」
これからどうしようか、バレない様に城に突入しようかな? 皆の様子を確認したい。そもそも、父上が生前退位した事が信じられない。初代帝王――俺の
そして、俺は明日の事を考えているうちについたのであった。
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