第14話 帝国の現状

 酒場のカウンターテーブルで一皿に乗っているベーコンと野菜盛りを食べようとしているアイリス。焼き鳥を食べているときもそうだったが彼女は美味しそうに食事をするから、ついつい見てしまうな。


 見ているとアイリスはフォークにベーコンとドレッシングがかかったキャベツ刺して口に運び、顔をほころばせていた。ゆっくりと味わった後、


「~! 美味しいです!」


 と喜んでいた。


 先程まで憤ってた酒場『テイ』のマスターこと、マイケルは俺達にゴマ擦りを続けていた。生粋の商売人だ。金貨を沢山持っている俺達を逃したくないに違いない! 実際には俺が金貨を複製しただけだ。もちろん本物をな。


「お嬢ちゃん、明日も好きな物食べていいぞ! というか、こんだけ貰っちまったら。何年も無料だな! はっはっは!」


 マイケルは笑いが止まらない様だ。俺は彼に頼んで出してもらったロールパンを片手に持って言う。


「ところでマスター。色々と聞きたい事あるんだが」

「おう! なんだ?」

「まず、帝国の中に出来た小さな国について知りたい」

「そんな事も知らないのか? 兄ちゃんら異邦人か?」

「そんなとこだ」


 俺はロールパンをかじりながらマスターの話に耳を傾ける事にした。


 にしてもやばい。ロールパンも久々に食べると感動で涙が出そうだ。


 焼きたてでほくほくのパンの皮を齧るとカリっと音が立ち、パンの中身が口の中に達すると旨味が全身に広がっていった。温かさ、食感、後味、ありとあらゆる点が万能で何一つ尖った一面は無い。だからこそ、このロールパンは定番の食べ物となったに違いない。


「兄ちゃん、起きてるか?」

「ん? ああ、起きてるぞ」


 俺はいつの間にか目を瞑りながらロールパンを味わってたらしい。恐ろしい食べ物だ。


 マイケルがアイリスにフライドポテトが乗った皿を出した後、語る。


「事は一年前に起きちまったんだ。帝王が退位して第一王女が帝王の座に就いたんだ。女性を帝位に就かせるなんて前代未聞だったからな、当時は偉い話題になってたなー」


 そうか……あいつが今この国を治めているのか。第一王女――血の繋がりがある妹のシンシアの事だ。厳格で規律を重んじる子だったな。結果的にシンシアに国を押し付ける事になっちまったのか……。王家の試練を達成できなかった以上、俺の継承権は剥奪されてるしな。今、俺が城に戻ったとしてもシンシアの帝位は揺るがないなだろう。というか国が混乱するしな。


 マイケルがアイリスにポテトサラダが入った小さいボウルを出した後、再び語る。


「こうして誕生した女帝じょていに反発したのが第二王子の派閥だ。王子も野心があってだな、派閥を連れて勝手に都市を占領しちまったんだ」

「なるほどな」


 と言った後、テーブルを見ると、フライドポテトとポテトサラダが半分以上残っていた。しかもアイリスは苦しそうにお腹を擦っている! 大変だ!


「どうした! 具合でも悪いのか⁉」

「ぅぅ……食べ物がお腹に入らなくなったのです」

「⁉ なに!」

「食べれば食べる程……お腹が苦しくなるのです!」

「マスター! 毒を盛ったな!」


 俺が慌てているとマイケルは冷静に言う。


「……食が細いだけだと……思うんだが……変な事を言うな、客が逃げちまうだろ」

「む……そうなのか? アイリス?」

「分かりませんけど……そうかもしれません……」

「マスター、その言葉信じるぞ。嘘だったら、明日は無いと思え」


 念の為、強い口調で言った。マイケルが毒を入れてないという証拠もないからな!


「おいおい……物騒な事言いやがって。お前さんら、頭大丈夫か?」

「頭? 何処も怪我してないが」

「……なんでもねぇ、忘れてくれ」


 おかしな事を言う人だな。他にも聞きたい事があるがアイリスの体調が心配だからな、酒場の上の階にある宿屋を取るか。


「アイリス、宿に行こう」

「はい」


 俺達は立ち上がった。


「具合はどうだ?」

「何も食べなかったら大丈夫だと思います……心配してくれてありがとうございます。アレク――」


 彼女は俺の名前を言おうとしたが口を手に当て止めた。


 そういえば、そうだった。行方不明の第一王子だとバレたら大変な騒ぎになるな。シンシアが帝位に就いているから厳密には王子ではないけどな。爵位もない場合ってなんて呼ばれるんだろうか。王兄おうけい? 敬称を付けると王兄殿下か。


「嬢ちゃん。どうした?」


 不思議に思ったマスターがアイリスに声を掛けていた。


「いえ! えっと………………アレクレパトラッシュスター様って言おうと思ったら少し喉が詰まりました」


 彼女は俺の名前を誤魔化した。


「あぁ、そういう事か! にしても兄ちゃんすげぇ名前だな」

「俺もそう思う」


 兎にも角にも俺達は上階にある宿屋に行く事にしたのであった。

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