第11話 涙の食事
帝都デュアルクロスを囲む堅牢な城壁。東西南北に一つずつ巨大な門があり、城下町の出入り口となっている。そして俺達は今、帝都に入る為、北門の前に居る。
門の両側には帝国兵が槍を縦に持ち、直立不動で立っていた。
「身分証明書と通行手形はあるか?」
と帝国兵は尋ねてきた。彼らは持っている槍を交差させてバツ印を作った。ちなみに身分証明書と通行手形は無い!
なので俺は横に居る少女に声を掛ける。
「アイリス」
「はい!」
俺達はふてぶてしくも歩を進めて、槍に近づく。手を伸ばせば相手の得物に届く距離だ。
「なっ! 止まれ‼」
「これ以上、近づくと牢屋行きだ!」
兵は喚く。構わずアイリスは破壊神の能力を行使する。どうやら俺の意図が伝わった様だ。アイリスが相手を消して俺が再生させる。まさに鉄壁の勝利パターンだ。
「《存在破壊/オールデリート》」
二人の兵は一瞬でこの世から消えた。彼女は背中に手を回して指を組みながら、歩いて門を通る。可愛らしい動きをしているがやっている事は恐ろしい。
俺も門を通り、創造神の能力を行使する。
「《創造再生/クリエイトリカバリー》」
背後で兵達の肉体が再生し、昇天していた魂が体に宿る。当然、彼らは戸惑っていた。
「え⁉ えっ!」
「俺達は何をしてたんだ? さっきの男女は何処に行った」
彼らの記憶が残っていては厄介だ。従って、
「わたくし達の事は忘れてください。《記憶破壊/メモリーデリート》」
アイリスは後ろを振り向いて兵士の背中に向けて指を差した。彼らの記憶は消えたに違いない。
「あいつらの記憶、全部消したのか?」
「? いいえ、私達に関する記憶だけですよ」
「不躾な奴らの記憶は全部消したのはわざとか?」
俺は先程、絡んできた五人の無法者達の事を言った。あのまま放置しても悪事を働くだけだしな、この子の判断は正しい。
「初めてだったので……少々、つい力んでしまい、全部消してしまったのです」
「そうか……なら仕方ないよな!」
うん、仕方ない!
兎にも角にも俺達は遂に帝都に足を踏み入れたのだ。活気のある城下町だ。国内に反乱が起きたと聞いて心配したが、人々は生き生きとしていた。煉瓦造りの歩道の横に立ち並んでいる売店。どうやら飲食類を売っているみたいだ。それと、絨毯を敷いて骨董品を売っている商人がちらほらと居た。経済的にも発展している様だ。
ちなみに俺が無理やり夜にしたせいで騒いでた人も居た。「商売している場合じゃない」だの「国から御触れがあるまで家で自粛した方がい」とか言っている。気にしないでおくか! 今日の事なんて、どうせ直ぐに忘れるに違いない。
なんにせよ久々の城下町は懐かしい。しかし俺以上に横に居る少女は目を輝かせ周囲を見ていた。なんせ一〇〇〇年振りの外だからな。無理もない。ここは気を利かせてやるか。
「売店でなんか買ってやろうか?」
「いいのですか?」
「当たり前だろ」
「では、お言葉に甘えて」
嬉しそうにアイリスは近くの売店に向かった。彼女はずっと結晶の中に居たんだ。少しでも楽しんで欲しい。
何かを忘れている気がするが……まぁ、いいか!
しばらくすると、アイリスは串に刺さった焼き鳥を二本持ってきた。
「二本食うのか?」
「一本は貴方様のですよ」
「いいのか?」
「一緒に食べた方が楽しいと思いますよ」
満面の笑みでそう答えるアイリス。そんな姿が麗しく見えた。
(こいつは天使か何か?)
と思いながら貰った焼き鳥を立ちながら頬張る、アイリスと共に。
「「⁉」」
一口噛んだ瞬間、脳内が快楽で侵され、全身の細胞が喜び震える。きっと、目の前に居る少女も私と同じに違いない。
「ぅ……ぐすっ」
アイリスは涙を目に溜めていた。
俺も目から汗が溢れようとしている。泣いてる顔を見られるのは恥ずかしいから上を向いて腕を組んだ。
「アレクシオ様……」
「みなまでいうな……」
「はい」
久々の食事だ。俺は一〇年間、空腹感を消されて戦い続けた。そして彼女は一〇〇〇年も封印されていた。久々の食事によって、眠っていた脳内物質が分泌されて体にとんでもない刺激を与えたという所だろ。
平たく言えば俺達は焼き鳥を食べれる事に感極まって泣いていた。二五歳の男性と一五歳の少女が。
「ちょっとちょっと!」
私達が焼き鳥をゆっくり噛みしめていると焼き鳥を売っていた中年太りのおっさん店主が近づいて来た。
「あんたら! お金払ってないよ‼」
「「……お金?」」
俺とアイリスは首を傾げた。
そういえば何か忘れてると思ってたら、お金を払わなきゃいけないんだった。でも今はそんな事より伝えたい気持ちが今、ここにある‼
「おっさん! 最高だ……この味、俺は一生忘れない!」
「⁉」
感極まった俺は両手でおっさんの手を握ってしまった。
「おじ様……ありがとうございます……ぐすっ」
少女は指で優しく涙を拭いながら感謝を告げる。
俺達は膝を突いた。アイリスは両手を握って目を瞑り、俺は頭を垂れた。店主からは何故か怯えた様な「……ひぃ」という声を出していた。
「パパーあれなに?」
「しっ! 見ちゃ駄目だ!」
周囲の人々が私達に注目している様だ。
「お……おう。あんたら……よっぽどお腹減ってたんだな‥…こ、今回はまけといてやるよ」
店主はそう言って、足早に去って行った。
俺達は焼き鳥を食べ終え、アイリスの能力で焼き鳥の串をこの世から跡形もなく消滅させた。わざわざ彼女の能力を使わなくても消せるけどな。
ただ、俺達が扱う神の力は能力そのものだ。魔力を消費する魔法とは違う。無限大に使える力だ。メリットしかない。利便性があり過ぎて、ついつい、この能力に頼ってしまう。
「これからどうするのですか?」
「とりあえず……情報が不足している。帝国の情勢、それと世界全体がどうなっているかを知りたい」
「ふむふむ」
頷くアイリス。
「酒場で情報収集しようか」
「はい!」
今いる場所は北門から西門に沿う様に広がっている住宅地区である。ここは行商人と町の商売人が外で活動している為、人が賑わっている。そして城下町の中心に行けば城がある。その城を囲むように三つの地区があり、その一つが酒場がある商業地区である。とりあえず、俺達は帝都で最も大きい酒場を訪れる事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます