第10話 史上最強のコンビ

 犬を連れている山賊っぽい帝国兵達は、ニヤニヤと薄気味悪い顔を向けていた。まるで品が無かった。見ないうちに兵の質も落ちたもんだな。


「あの方達、きもいです」


 横にいるアイリスが率直な感想を述べた。俺もそう思う。


「ヒャハハ、別嬪じゃねぇか!」

「男の方も労働奴隷として高く売れそうだな」

「てめぇら怪我したく無かったら、大人しくしとけよ」


 規律を重んじる帝国兵の言葉とは思えない。


「お前ら、帝国兵じゃないのか?」


 俺の言葉に五人の男達は口を閉じ空気が一変した。


 そもそも、こいつらが帝国兵じゃなかったらおかしい。森の中とはいえ帝都から近いからな。


「ひゃはは! 兄ちゃん何言ってんだ?」

「寝ぼけてんのか? ひははは!」


 男達はせせら笑っていた。そんな様子に俺より先にアイリスがむっとする。


「なんですか、貴方達は! 無礼な! アレクシオ様に失礼ですよ!」


 彼女は両手を腰に当てて一歩前に出た。俺の為にこんなに怒ってくれるなんて……感動した!


 すると男の一人がアイリスに近づきながら、


「へっへっへ、いい体してんじゃねぇか! 売り飛ばす前に俺達と遊ぼう――」


 奴は最後まで喋れなかった。何故なら俺が一瞬で距離を詰めて男のこめかみを掴んで体を持ち上げてるからだ。この子の目の前で下衆な事言いやがって……山賊だろうが帝国兵だろうが関係ない。


「あがっがっ……!」


 男は頭蓋骨を押されて苦しんでた。


「この子には指一本触れさせないからな」

「わたくしなら別に大丈夫でしたのに……」

「あんたに失礼な態度をとっている、こいつをどうしても許せなかったんだ」

「……じゃあ、一緒ですね。わたくしも先程、アレクシオ様は貶された気がして怒りましたから。えへへ」


 彼女は照れる様に言った。うん、一緒だな。


「あがっ……………」


 気付くと、俺が掴んでた男の体は弛緩していた。やり過ぎた。とりあえず返そう。


「ほらよっ!」


 俺は男を彼らに投げつけた。他の男達は仲間を受け止めもせず地面に体を打ち付ける様子を見ていた。


「て……てめぇ! 舐めやがって!」

「殺してやる!」

「おらぁ!」

「無駄にイチャイチャしてんじゃねぇぞ!」


 残った四人の男は腰にぶら下げている環刀サーベルを引き抜いた。そして、男達に呼応するように犬の体は倍に膨らみ筋肉質な体になっていた。


 この犬は恐らく、盗賊や悪人によって形成された国が生み出した魔物――強化犬パワードドックだ。


「アイリス下がってろ。相手は無法者、ここで容赦なく消した方が世の中の為だ」

「貴方様が下がるべきです」

「案外、強情だな」

「……だって、借りを作りっぱなしですから」


 俺は渋々、引き下がった。


 アイリス……大丈夫かな。神の力を持っている俺達に敵う奴がいるとは思えないけど、心配だな。なんでだろ……まさか、これが恋なのか⁉


 などと考えながらアイリスが戦う様子を見ようとすると、


「あれ……?」


 アイリスの前には強化犬パワードドックしかいなかった。


「他の奴らはどうした?」

「こうやって消しました。《存在破壊/オールデリート》」


 彼女が犬に手のひらを向ける。すると一瞬で強化犬パワードドックは消えていった。俺の目には、はっきりと細胞レベルで四散していくのが分かった。


 普通に容赦ないな。別にいいけどさ。


「……少し、帝国の現状について聞きたかったな」

「えっ……」


 アイリスはやってしまったと言わんばかり手を口に当てていた。


「す、すみません。わたくしの考えが至らないばかりに……役に立ちたかったのに」


 肩を落として、かなり落ち込んでいた。


「気を落としすぎだろ……それに、大丈夫だ。蘇らせる事が出来る」

「えっ!」


 彼女は驚いていた。そりゃそうだ、人を生き返らせる事が出来るからな。


「《創造再生/クリエイトリカバリー》!」


 俺は無法者の一人の肉体を再生させ、魂を定着させた。これも創造神の能力の一つだ。


「さすがです!」


 アイリスは拍手していた。よせよ照れるだろ。


「あ? お、俺は⁉ なんで⁉」


 生き返った無法者の一人は戸惑っていた。


 俺は武器を作る能力――《創造武器/クリエイトウェポン》で質素な剣を生み出し、相手の首に当てた。


「答えろ。ここは何処だ。帝国はどうなった?」

「うるせぇ! 他の奴らはどうなった!」

「アイリス」


 俺が合図すると彼女は頷く。どうやら意図を組んだ様だ。


「《部分破壊/パーツデリート》」


 アイリスが指を鳴らすと、相手の両腕は消えていった。出血もなく。


 そして、青ざめた彼は尻餅をついていた。


「ひぃぃぃぃ!」

「早く質問に答えないと体が消えていくぞ」

「嫌だぁぁぁぁぁぁあ!」


 パニック状態だ。無理もない。


「落ち着け、質問に答えたら体だって元に戻す。仲間も生き返らせてやる」

「ひぃ……ひぃ……」


 彼は呼吸を取り戻し、徐々に落ち着きを取り戻していった。


「もう一度聞くぞ。ここは何処だ。帝国はどうなった?」

「こ……ここは……独立国家ネオ・バルべディアの最南端。帝国は……直ぐ傍だ。森の外が国境になっている」

「……超帝国バルベルディアは人間領で最大の国だったはずだ。国が分裂するなんて考えれないが」

「ぶ……分裂といってもあれさ……帝国の中に都市一つ分の国が出来ただけだ」

「帝都の近くにか?」

「ああ……そうさ。つい去年、反乱が起きたのさ」

「反乱したのは誰だ?」


 帝都の近くでの反乱は余りにもリスクが高い。だからこそ反乱できる人物が限られている名声高い貴族や騎士、そして……王族の誰か。


「反乱したのは第二王子……ルミウス・ディアクロウゼスだ」

「そうか」


 ルミウスか……俺とは異母兄弟で自尊心が高く弱いもの虐めする奴だったが最後に会ったのはルミウスが九歳の時だから、まだ可愛く見えた。多分、そのまま自尊心が膨張しちまったんだろうな。俺がいたらこんな事には……。


 少し責任を感じながら、俺は《創造再生/クリエイトリカバリー》で無法者の仲間達と犬を生き返らせるとアイリスが《記憶破壊/メモリーデリート》で奴らの記憶を消して『これからは真人間にとして生きるのです』と説いていた。


 ちなみに彼らは


「俺は誰?」

「ここは何処」

「貴方は誰?」

「空気が美味い!」

「生きるって楽しい!」


 と言ってて正気には見えなかった。とりあえず俺が最後に喝を入れてやろう。


「これからは真面目に生きろよ!」

「「「アイアイサー‼」」」


 元、無法者達の元気に良い挨拶と共に強化犬パワードドックは雄叫びを上げていた。これで、丸く収まったな!


「初めて人が更生する所を見ました……感動です!」

「更生ってこういう事なのか……? まぁいいか!」


 ようやく俺達は森を抜け、街道を歩き始めたのであった。

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