第9話 久々の外

 久々の外の世界! 空気が美味い! テンション上がる! と思いたいところだが、


「一〇年ぶりの外、眩しすぎる……!」


 俺こと、アレクシオ・ディアクロウゼスとアイリス・フォウゼルはダンジョンの外で崩れた石壁の上に座っていた。


 アイリスは俯きながら口を開く。


「……予想外です」

「ほんとそれな」


 ずっとダンジョンに居た俺達には外の光が眩しすぎた。というかアイリスに至っては一〇〇〇年ぶりの外だしな。仕方ない。


「仕方ない」


 俺は立ち上がり片手を太陽にかざす。


「何をなされるのですか」

「創造神から奪った力を使う」

「太陽を壊すんですか?」

「え?」

 

 彼女の発言に驚いて俺は上げた手を下ろす。


 この子は何を言ってるんだろう。本人はおかしな事を言っている自覚は無く首を傾げながら尋ねていた。


「違うのですか?」

「強制的に夜にするんだ」

「??」


 今度はアイリスが俺の事をおかしく思っている様だ。一旦、情報を整理しよう。


「なんでアイリスは太陽を壊すと思ったんだ? 普通、壊せないと思うが」

「多分、わたくしは壊せますよ」

「そうか……破壊神の力を持ってたんだな」

「はい!」


 破壊神の力がどういったものかは分からないけど、まぁいいか! 何でも壊せるみたいな感じだろ! 破壊の神だしな!


 彼女は何かを思い出した様に「あっ」と声を漏らした。


「アレクシオ様は創造神の力で夜に変える事が出来るのですね」

「そういう事だ。この世界の海や大地を瞬時に消す事も出来るからな。何でもできるぞ」

「凄いです!」

「よせよ、そう褒めんなって」


 俺は誇らしげに人差し指で鼻を擦り、再び太陽に手をかざす。


「さてと……《創造世界/クリエイトワールド》‼」


 俺の手から白色のオーラが放たれ上空に拡散されると瞬く間に空は白に染まり光り出す! 一瞬で世界が暗闇になり、空には月が光り輝いていた。


「こんなもんだろ」

「急に夜になったら皆、驚きません?」

「確かに驚くだろうけど……人生に一回くらいこんな日があってもいいだろ、多分」

「んーそういうもんですか」


 よく考えれば、とんでもない事した気もするが。時間が経てばいつも通り朝が訪れるし……弊害は無いだろう。 


   ※


 アレクシオの見解は甘かった。人々は急に夜になった世界に恐怖したのだ。占い師達は世界が滅びる前兆と言い、大規模な宗教団体は破壊神の復活を予見する。更に人間領の魔術師たちは魔族領の者達によって大規模な魔術が発動された恐れがあると考えていた。


 様々な憶測が飛び交う中、世界各国は経済の損失を覚悟し、原因の解明まで不要な外出を国民に控える様にお触れを出した。また、幾つかの国の体系には宗教や占い師が組み込まれており、国民の完全外出禁止を告げる場合もあった。その為、経済が崩壊する国も少なくはなかった。


 そして、人々は今日の事を『死の夜ダークデイ』と呼んだ。


   ※


 「はっくしょん!」


 なんか、くしゃみ出た。誰かが噂してるかもな。


 夜になったおかげで俺達は悠々と歩く事が出来た。そのうち日の光に慣れるし、もう何も心配する事はないな。


「アレクシオ様、大丈夫ですか?」


 アイリスは心配そうに言ってくれた。


「誰かが俺の噂してるかもな」

「ご家族でしょうか?」

「どうだろうな」


 俺達は森の中を歩いていた。取り敢えず、この森から抜け出す。そして、一番近い町に行って宿を取ろう。というか一番近い町って帝都だった様な……。


 考えながら歩いてると俺はある気配に気付き足を止める。


「アイリス」

「どうしたのですか?」

「前から誰か来てる」

「前ですか……」


 彼女も足を止め誰もいない前方を見据えた。


「本当ですね。一キロ先から五、六人ぐらい来てます」

「……五人と一匹かな? 四足歩行の足音が混じってる」


 ここにいるって事はもしかして……


「帝国の人間かもしれない。この森は帝国の人間が管理してるはずだからな。ここは自然に通り過ぎるぞ、変に目立ちたくないしな」

「分かりました」


 再び俺達は森の外へ向かって歩き出し、先程感じた気配の正体を視認する。


「あれが……帝国の兵ですか?」

「……山賊みたいな恰好してるな」


 半身を露出させ野性的な恰好をしている男が五人居た。彼らは腰から環刃サーベルをぶら下げて犬を連れ歩いていた。

 

 本当に帝国兵か? 甲冑も着ずに肌を露出させるなんて自殺行為な気もする。待てよ……一〇年間、外の世界を知らずにいた事を考慮すれば自ずと考えが出る!


「分かったぞ!」

「あの者達は一体?」

「俺が一〇年間、ダンジョンの中に居る間に帝国兵のファッションが変わったに違いない。あの格好は一見無防備に見えるけど、甲冑を着ている状態より素早く動けるはずだ」

「あれですね! 攻撃は最大の防御って事ですね」

「そうだ! 防御をかなぐり捨てて素早く攻撃するスタイルになる事で、相手に攻撃させる暇を与えないって感じだな」

「斬新ですね」


 確かに斬新だ。


 そうしている間に五人組の男達は俺達を認識出来る距離まで近づいて来た。


 しかも、さり気なく通り過ぎようと思っていたのに彼らは俺達の目の前で立ち止まった。にしても、ほんと山賊にしか見えないな。超帝国バルべディア、斬新過ぎ。

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